水玉
夕べ魔女が俺らに夕食の茶碗を配り
残った一個を持って《涼子》の待っているはずの玄関前に行った
魔女が《涼子》を呼ぶ声が聞こえる
《涼子》、またどこかにい行っちゃったのかなあ
俺らはそう思って顔を見合わせた
魔女が部屋に入って来て、俺に外まで来てくれと言った
俺は急いでご飯を食べ、魔女と一緒に外に出た
魔女は俺をまいこちゃんちまで連れて行き
(まいこちゃんちは魔女家の近くで、そこには大きな庭がある。我が家の猫たちはこの庭で好きなだけ遊んで良い事になっている。 しかし屋根にまで乗って良いとは聞いていないぞ・・ )
屋根の上で《涼子》が鳴いているから家まで連れて帰って
と言って、自分は寒いからと部屋に戻ってしまった
なんだよ・・
屋根の上では《涼子》がびゃ~びゃ~鳴いていた
俺はブツブツ言いながら、そんな《涼子》に声を掛けた
俺 「《涼子》、そんな所で何やってるんだ・・ 早く下りて来いよ、夕食の時間だぞ」
涼子 「《水玉》の他には誰もいない?」
俺 「いないよ!」
涼子 「ほんと・・?」
《涼子》は恐る恐るの様子で下りて来た
だけど、ちょっとでも何かの音が聞こえるとぎょっとした顔で足を止めてしまう
そしてやっと俺の顔が見えると、急いで俺の隣にくっついた
俺 「いったいどうしたっていうんだよ」
涼子 「《ポチ》が・・」
俺 「《ポチ》がいたのか?」
涼子 「家のまわりをうろついてる」
俺 「本当か?!」
涼子 「今日お化け屋敷に遊びに行って・・ 何だか誰かの気配がしたからそっちを見たら、《ポチ》がいたんだよ」
俺 「襲われたのか!」
涼子 「ううん・・ じっとこっちを見てた」
俺 「それでどうしたんだ」
涼子 「走って家に逃げた、そしたら後をつけて来たみたいで物置を覗いてたんだよ、 だから私、物置を飛び出して、まいこちゃんちに逃げ込んだらまたそこにもやって来て・・ それで屋根の上に逃げて、それからずっとそこにいたの」
俺 「とにかく今日から家に入って暮らせ」
涼子 「ヤダ!」
俺 「じゃあどうするんだよ! 俺はずっとおまえにくっついてはいられないんだぞ」
涼子 「・・」
それで《涼子》を家に連れて帰って
《涼子》がご飯を食べている間、俺は側で見張っていた
仕方がないから夕べは夜回りをしないで
そのまま《涼子》と一緒に物置で寝た
今朝目を覚ました俺は、いつも通り朝の見回りに出た
外がだいぶ暖かくなってきて
そろそろ魔女も目を覚ます頃だと思い家に戻った
家ではまた《涼子》がいなくなった、と魔女が騒いでいた
僕は朝食をもらい、また《涼子》を探しに出た
坂の上をうろついている時
ジョン ブリアンが俺を呼びに走って来た
ジョン ブリアン 「《水玉》、大変だよ! 早く戻って来て!」
俺 「どうしたんだ、そんなに息を切らして、おまえ、肺っていうのが悪いんだからハアハアするほど走っちゃだめだろう」
ジョン ブリアン 「《ポチ》が家のまわりをうろついてしつこく鳴いてるんだ!」
俺 「なに! 現れたのか」
ジョン ブリアン 「早く! 早く!!」
俺は家に向って走った
ようやく家に着くと・・
《ジンジン》がテリャスの防護網を乗り越え
お化け屋敷の隣の壁に乗っかってて
ジンジン 「《水玉》、こっちだよ! この下!」
《ボンネット》ではございません。顔の中心線、きちっとしてます。
《ポチ》という名は、今はネバーランドにいる《伐》が付けました。
他のノラ君たち、《ぞうきん》(体中全ての色と模様がごちゃ混ぜになっているので・・)や《はなくそ》(白黒猫で、鼻の横に引いたような黒い模様があるので・・)も同じく《伐》が・・
因みに《ポチ》というのは、猫からして見れば犬並に弱虫なので・・
大変失礼な名前をつけてつけてしまって・・
ノラの皆様、本当にごめんなさいね
俺 「どっちだ!」
ジンジン 「あ、今、お化け屋敷の庭に入って行った」
バブー 「ミャ~ ミャ~ ミャ~」
ポチ 「にゃお にゃお にゃおぉぉぉ~!」
ジョン ブリアン 「今、《バブー》がテリャスで鳴いて足止めしてるの」
ジンジン 「ここからは見えない!」
アゾ 「お、お、おりました! おっばけやしきの はじっこだが! あ・・ 今《ユジぼうじゅ》が はいごから しのびよっとるが 知っとる?」
俺 「知らねえよ!」
その時壁の向こうから《ポチ》の鳴き声に続いて《ユリぼうず》の声が聞こえた
ポチ 「にゃお にゃおぉぉぉぉぉぉ~!」
ユリぼうず 「・・君なのね しつっこいのは」
ポチ 「ハッ・・」
右、忍び寄る《ユリぼうず》 左、驚く《ポチ》
だけど《ユリぼうず》・・ なんで反対向き・・?
あ・・ そこでわざわざ振り返る演出なわけね
手の込んだ事を・・
ユリぼうず 「その猫なで声・・ 止めて欲しいのね」
ポチ 「・・」
ユリぼうず 「なんか・・ 苛々しちゃうからね、その声」
ポチ 「・・」
ユリぼうず 「やぁんのか、おお~!!」
ポチ 「や、やるなんて・・言ってない・・」
ユリぼうず 「あ・・ やらないのね・・」
ポチ 「・・」
ジンジン 「あ・・ 《ポチ》がごめんなさい姿勢で逃げ出した!」
俺 「どっちに!」
ジンジン 「あっち! あっち!!」
俺は急いで追い掛けた
お化け屋敷の門をくぐり、管理人さんが住んでた家の屋根に飛び乗ると、すぐ隣のアパートの通路を走って行く《ポチ》の背中が見えた
俺はそこからアパートの通路に飛び移り、《ポチ》を追った
《ポチ》は後ろを振り返り、俺が追ってくるのを見ると
とたんにすごい勢いで走り出した
《ポチ》はそのままよその家に逃げ込み、めちゃくちゃに走ってどこかに消えた
《ポチ》は物凄く気が弱いくせに女好きの猫で・・
だから《涼子》に危害を加えるなんて事はしないはずだ
ま・・いいか
俺はそれ以上深追いはしないで家に戻って寝た
《涼子》は物置に戻っていた
《涼子》が家に入ってくれれば、俺だって心配しないで暖かい部屋で眠れるものを・・