ネパール日記 ~ この国で生きる ~ | まじょねこ日記

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魔女


彼にとって学ぶ事の全てが新鮮であった

勉学は彼の視野を広げ

これまで知らなかった『世界』、というものを教えてくれた

学ぶべき事が次から次へと溢れて来た

この世の全てを知りたかった

だから貪欲に勉強をした


学費を払えなくなっても

彼は学校に通い続けた


しかし、終に大学から最後通告を受ける事になる


夢が潰える・・


この夢は5ルピーのスリッパとは違ったのだ



その頃仕事をしていたホテルで

一人のドイツ人女性に出会う


ネパール長期滞在であった彼女は

近頃ふさぎがちになっているこの少年に声を掛けた

彼は自分の置かれている状況を彼女に話した


その女性は、彼に学費の援助を申し出た

その人は溜まっていた学費を清算し

その後の年度分も大学に支払ってくれた


行き詰っていた彼はその行為に甘え

その代わり一時の無駄なく勉強をした


ドイツ人女性は年に1回カトマンズを訪れ

その度に彼に1年分の学費を渡した


こうして彼は、大学を卒業した


卒業後、彼女は彼にこう言った


「ドイツにいらっしゃい、そこでもっと学ぶなり、仕事をするなりすればいい。 私が住まいも生活も全て面倒を見ましょう」


彼の誠実さと優秀さが、この女性にこの言葉を言わしめたのだと、私は思う


悩み抜いて・・

これまでの恩に対し、心からの感謝の意を述べ

しかし、彼はその申し出を断った


この国の誰もが、国を抜け出し、良い暮らしや先進国で高度な学問をすることに憧れている

彼女は当然、彼が喜んで彼女の好意に飛びつくものだと思っていた

彼の応えは・・ 彼女にとって以外なものだった

この時、ドイツ人女性は彼の答えに対し、ひどく腹を立てた


彼は言う

第一に、 この国で成功し、生きて行かねば、この国の人々と共に未来を目指せない

第ニに、 ここに暮らし、この国をを少しずつでも変えて行かねばならない

第三に、 その人と十分に知り合わないで人との関わりを深めようとした時、細かな行き違いから信頼が壊れる場合が多々ある。 良い付き合いを続ける、又は良い思い出を持ち続けようと思う時は、好意に甘え続けたりするようなバランスの取れない付き合いはすべきではない


その後彼は働きながら自費で大学院を終了し

今もなお、様々な専門分野で学問を修めている


彼には夢がある

この国で、なすべき夢がある

今はまだ夢の途中・・


すでにお分かりの事と思うが

これは親友ラクスマンのお話


彼は、只今35才

いくつかの事業を展開する彼の日常は忙しい


彼の店で食事をしていると

彼は同じテーブルで帳簿をつけ

期日の迫った試験の勉強をし

その上、私とも話す


彼の兄は教師になった

彼の援助により

弟は建築学の勉強をしている

従兄弟はコンピューターを学んでいる

一番下の弟は彼の片腕として働いている

彼が一族全ての面倒を見る


そして彼の母は・・

ランタンの村で以前と変わらぬ暮らしを続けている


彼らは休みなく、実に良く働き、学ぶ


この男が新しい事業を思い立った

それは、ネパールの人々に技術を学ばせ

少しづつこの国を変えて行くという構想だ

そのパートナーになって欲しいと頼まれた

それは日本とネパールを繋ぐ事業でもある


全く儲かりそうもない事業だ

そこが気分が良い


彼は言う

正直で利口な人間なら、僕は誰にでも学ぶための資金を惜しまない

カーストなど、度外視だ



母に感謝し、ドイツ人女性に感謝し、力になってくれた叔父に感謝し

彼は生きて行く


つい先日、この叔父が58歳という若さでこの世を去った

当日の彼からのメールに、その落胆と悲しみの深さが読み取れた


人は命のある限り生きて行かねばならない

時にまっしぐらに、時には千鳥足のように

そして時には立ち止まり・・

傍がどのように変化しても

己の人生は続くのだ