ジョン ブリアン
ご飯を食べても下痢も吐きもしない事を悟った《ボンネット》は
お腹が減ったと言ってはびゃ~びゃ~と鳴き
何回ものちょこちょこ食べを繰り返している
魔女 「2時間もたたないうちにご飯を請求されるからどこにも行けないよぉ」
水玉 「取りつかれたように食べてるな・・」
ジンジン 「見てごらんよあのお腹・・ 今にも爆発しそうじゃないか」
ここに来たばかりの時は、頭の大きさでヨタヨタしていたのが
今はお腹の大きさでヨタヨタ歩いているよ
《ボンネット》がご飯を食べだして、心配の場所が少なくなった僕の心に、またイヤな心が押しよせてきた
(なんだよ・・みんなして《ボンネット》の事ばっかり)
僕は・・
なんで僕は・・
小さな子が来る度にこんな風になってしまうんだろう
そんな心は嫌だ、と思いながら
でも自分でもどうしようもなくて、
そっと外に出て、車の下でうずくまった
歩く人も、車もいなくなった遅い夜
魔女が家から出て来て僕を呼んだ
僕は嬉しくなって車の下から飛び出した
魔女 「《ジョン ブリアン》、散歩に行こうか」
僕 「ほんと!」
魔女 「もうずいぶん散歩に行ってなかったものね」
僕 「やったあ~!」
僕は嬉しくて嬉しくて、魔女の足元を行ったり来たりしながら歩いたものだから、魔女は何度も転びそうになった
どんどん、どんどん坂道を登り、道を曲がって丘のてっぺんまで行った
懐かしい散歩道だ
僕は寄り道なんかしないで、きちんと魔女の隣を歩き続けた
こんな夜中なのに、向こうからジタバタした犬を連れたおじさんが歩いて来た
すれ違う時に、そのおじさんはじろじろと僕を見て
おじさん 「ね・・ねこ?」
僕ら 「・・」
犬 「ジタバタ、ドタバタ!」
おじさん 「ちょっと待って、猫ですよね・・?」
魔女 「猫です」
犬 「ジタバタ、ジタバタ!」
おじさん 「紐、ついてません?」
魔女 「ついてませんよ」
犬 「ドタバタ、ジタバタ!!」
おじさん 「なんでそんなにきちんと・・ 歩いてるの?」
魔女 「わかりません・・」
犬 「フファッ! ファッ、 ファッ、 ブワッ!!」
おじさん 「しつけた?」
魔女 「猫はしつけに向いてません」
犬 「ジタジタジタ! ジタバタドタバタ!!」
おじさん 「こ、この・・ ダイゴロー!! 見習えっ!」
犬 「ドタバタ!! ジタバタ!!」
おじさん 「猫が紐なしでもきちんと人間と並んで歩いているってのに、おまえのその態度は何なんだ!お父さんは恥ずかしいぞっ」
おじさんは連れの犬にガンガン文句を言いながら
その犬にひきづられるように遠ざかって行く
僕たちもまた歩き出したけど、おじさんの声は遠くの方でまだ聞こえていた
丘のてっぺんには、下りの階段がある
ここを降りて行くと、違う道から家に着くんだ
ここまでは何度か来たけれど
この先の道は、もうずいぶん長い事通っていない・・
魔女 「この階段を降りて帰ろうか・・」
僕 「えっ・・ だって」
魔女 「そろそろ降りなきゃね・・」
僕 「・・」
魔女 「もう1年が経ったんだよ」
僕 「・・」
魔女 「去年の5月19日だったから・・」
僕 「・・」
魔女 「《ジョン ブリアン》、魔女と一緒に降りてくれる?」
僕 「・・・いいよ」
僕らはあれから初めてこの階段を降りた
階段を降りると真っ暗で、細い道が続く
その途中で僕らは立ち止まり
僕の利き手じゃない方の土手を見上げた
いつもの声が聞こえて来そうで胸がいっぱいになった
(よお!《ジョン ブリアン》、散歩か?
じゃあ俺もここから合流するかな)
いつもこの土手の中腹で
《伐》はお腹を丸出しにしただらしない格好で昼寝をしていた
一緒に暮らしてた頃、僕は《伐》に言われたんだ
「いいか、《ジョン ブリアン》、自分が辛い時にしてもらった事は忘れちゃいけないぞ。 そしていつか辛い思いをしてる奴に出会ったら、自分がしてもらって嬉しかった事をそいつにしてやれ」
僕たちは家に向かって歩き出した