魔女の子供時代 ~都会の象 Ⅴ~ | まじょねこ日記

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魔女



魔女は象の足元にしゃがみこんで


「とってあげる!!」


象に向かってそう言い、必死でその足に繋がれた鎖を外そうとした

しかし、それはあまりに重く

子供の力では持ち上げる事さえも出来なかった


それでも魔女は鎖を外そうとやっきになった


(はずれない・・ はずれない・・)


まじょ 「おとうちゃん! ぞうさんをあるけるようにして!!」


こちらに走って来る両親とアーカイマさんを振り返り魔女は叫んだ



しかしその時、いきなり体に何かが巻きついた

そしてそのまま、魔女は空中に浮かび上がったのだ


最初は急な勢いで振り回されるように

その後はゆっくりと高く・・高く・・


魔女は・・

象のおでこのあたりで、その長い鼻からそっと解放された

私はおでこからそのまま象の頭に移動し、頭の上で腹這いになった


そこはとても見晴らしが良かったし

何よりも動物の臭いが魔女を安心させた


下では知らない男の人たちが騒いでいた


その横で両親とアーカイマさんがこちらに向かって手を振っているのが見えた

それに向かって魔女も手を振った


それから・・ 象の頭に顔をくっつけて言った



まじょ 「あるけないなんて・・ かわいそう」


象  「いいんだよ・・」


まじょ 「よくない! しばられていたらとてもかなしいでしょ!」


象  「いいんだ・・ もう、どうしようもないんだ・・」


まじょ 「ぞうさんがかなしいのはいやだ 汗


象  「僕はこうやって生きていくしか、仕方ないんだよ・・」


まじょ 「えほんのぞうさんは、ひろいのはらをあるいていたよ・・」


象  「遠い昔の事さ・・」



それは歩けない象が不憫で魔女が思い込んだ会話なのかも知れない・・


でも・・ 象の目は確かにそう言っていた


「こうして生きていくしか仕方ない・・ 何もかも昔の話」 だって


この象の一生を思うと、魔女は胸が一杯になってきて

のどの付け根までも痛くなり

象の頭に顔をこすり付けてワーワー泣きだしてしまった


怒りの持って行き所がない

しかも、自分にはどうしてもやれない事も気づき出していた

それが悲しくていっそう泣き続けた


溢れた涙は、象のひたいを伝って下に流れた


泣きながら頭をあげると

象の目からも大きな涙が流れているのが見えた

魔女はそれを見てますます大声で泣いた


サーカスの人が象に向かって大声で怒鳴り

ぞれから象は少しづつ前かがみになっていった


象の頭が地面に近くなって行って

乗っかっている魔女を、父が抱き下ろした


父に抱かれて象を振り返ると

象の肩のあたりに、象使いの人が先の鋭い刃物を突きたてているのが見えた


魔女は父の腕から飛び降りるやいなや

その人間に飛びかかった


人間の手から象の肩にたてられた刃物を取り上げようと

必死になってその手に噛み付いた


あたりが騒然となった



それからの事は何も覚えていない


髪を狼のように振り乱し

母の用意してくれた服を破いてしまい

涙と鼻水でガビガビになった顔をした

小さな子供は

世の中を睨みながら広場の隅にうずくまっていた


人々は魔女の方を見てコソコソとなにやら言い合った


サーカスの始まる時間なのだろう

象は魔女の方を何度も振り返りながら、テントの中に消えて行った


もう・・ 2度と都会には来ない

そう思った


森や草原で暮らすはずの動物が

草もない都会に縛りつけられ

思うように走る事も、歩く事さえも出来ないなんて


こんな悲しい現実は絶対に許せない


それから魔女はひとことも口を聞かなかった


魔女はこの日初めて、世の中には自分の力ではどうにもならない現実があることを思い知らされ

自己嫌悪に陥っていた



「すまなかったな・・」


帰り道、父がぽつんとそう言った