ジンジン
その日はお祭りだったんだ
僕らの住む町内の年に一度の大きなお祭りで
もちろん僕らは街には出かけないけど
ベランダからおみこしを眺めたり
この家のすぐそばまで 『お札まき』 が来るから
それを拾ったりして面白がるんだ
『お札まき』 っていうのは
男の人間が、女の人間に化けて
みんなで何かを言いながら、小さな紙をひらひらと散らばすんだ
この『お札まき』っていうのを
《伐》 が特に毎年楽しみにしていて・・
もちろん僕らも楽しみにしてて・・
注) 7月14日のパリ祭と同じ日、町内の神社の大祭が執り行われる猫軍団が楽しみにしている『お札撒き』というのは、『お札撒き連中』 と呼ばれる男衆が、女物の着物を着て、かつらや手ぬぐいを頭にかぶり、顔に化粧を施して昔の唄を唄いながら町内を練り歩き、八坂神社の色とりどりのお札を扇子で扇ぎながら空中に撒くという奇妙、且つ、たいそうな神事なのだ。
男が女の格好?!何じゃそりゃ、などと言ってはいけない! 県の無形文化財にも指定されている神事で、連中は女装ながら外股で歩き、男声で唄い・・ それはそれでなかなかカッコ良いんだ!
《まじょ》
だのに
今年、この日は雨で・・
しかも台風で・・
僕らは、この日のために魔女が用意してくれたお祭り用の布(手ぬぐい)を首に巻いて部屋の中でしょんぼりしてた
ねぇ、【お札まきは】 まだなの?
(それにしても、《ジョン ブリアン》 の手ぬぐい、でかく感じるなぁ)
水玉 「 『お札まき』、 きっと来ないよねぇ・・」
僕 「この雨じゃ、無理だよ・・ 僕らだってこれじゃぁ外に出られないじゃん」
魔女 「こんな台風の中じゃぁ、撒いたお札を拾ったってどれどれに破けちゃうだけだしね・・」
水玉 「なんでこんな日にわざわざ台風なんかやって来るんだよ!」
僕 「わざわざやって来た訳じゃないだろうけどさ・・」
水玉 「きっと 《伐》 の仕業だ!」
ユリぼうず 「当り散らしだ・・」
インジゴ 「《ユリぼうず》、時々しゃべるようになったよね!」
いよいよ雨が激しくなって僕らは諦めるしかなかった
僕はすごく楽しみにしていた分、えらくがっかりして
治まらない気持ちのせいで
部屋中をめちゃくちゃに走り回ってから
首に巻いた布を手で引っぱり取って
その場でふて寝した
あれは夢だったのかなぁ・・
《伐》 がやって来て、僕に得意顔で言ったんだ
伐 「おい、《水玉》、俺、お札もらったぞ!」
僕 「そんな訳ないよ、今日は台風の大雨だから 『お札まき』 は中止に決まってる」
伐 「それは何か? 俺の言う事を信じない、という事か! 『お札まき』、やってるんだぞ!」
僕 「大雨だろ!」
伐 「ならこれを見ろよ、 こぉ~んなにいっぱいのお札だぜ!」
《伐》 は大量のお札を抱えて僕に見せびらかした
夜になって
魔女がどたばたしながら外から帰って来て言った
魔女 「ちょおっと、みんな! 今日 『お札撒き』 やったんだって!」
僕ら 「えぇ~! マジで!!」
魔女 「さすが、県指定の無形文化財は強いな・・」
《伐》 の言った事は本当だったんだ・・
ニャバーランドからこの台風の中、《伐》 はお祭りにやって来たんだ
さすが、祭り好きの猫は強いよな・・