その日のこと | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


灰色の風景が広がってから一週間が経とうとしています

魔女は今日は明け方までこの悲しみを見据えていました



車に撥ねられた 《伐》 は

壊れた人形みたいだった

手足の先は既に硬直していた



我が家の前の道に立ちすくんでいた子供たちが

《伐》 を抱えた魔女に必死で言った




子供たち 「《ばつ》 をすぐびょういんにはこばなきゃ・・」


魔女 「だめなんだ・・」


子供たち 「びょういんに行けばたすかるよ!きっとたすかるよ!!」


魔女 「もう・・だめなんだよ」


子供たち 「 《ばつ》 をびょういんでたすけてもらって!」



魔女はこどもたちの必死の心を背中に痛く悲しく感じながら

《伐》 を部屋に運び入れた



子供たち一人一人はこの突然の出来事を

いかにも直視出来ないまま、家族と共に家路についた




家に戻った 《伐》 に最初に駆け寄った 《ジョン ブリアン》 が

動かない 《伐》 を覗き込んだ瞬間、奇妙な声で長く、長く叫んだ

そして部屋の隅に顔を突っ込んだまま何時間も振り返らなくなった



《ユリぼうず》 は、じいっと 《伐》 を見つめていた

それから窓際に行き、そこの床に大量のおしっこをした



《水玉》 は朝から 《伐》 を探しに出たまま戻らない



《ジンジン》 は黙って外に出て行ってしまった



《涼子》 は物置に立てこもり



《ジンジゴ》 はダイニングのテーブルの下で影のように佇んでいた





猫軍団の誰もがこの事実から目を逸らした





午後の教室が始まった

暗い教室になってしまった

それはほんの数時間の間に見違えるほどやつれてしまった魔女のせいでもあった



生徒とそのお母さんが高級カリカリを持って来てくれて

食いしん坊の《伐》の胸に抱かせてくれた

それはまるで高級カリカリを独り占めしているように見えて

いかにも《伐》らしかった

そのお母さんが抱き抱えている動かない 《伐》 に気づいて

たまちゃんの目から涙がこぼれた

たまちゃんは 《伐》 が生まれた時からの付き合いだ



夕方、魔女に電話をくれたゆりちゃんがバイトを終えて駆けつけてくれた

今朝、ゆりちゃんの電話で魔女は外に飛び出した


ゆりちゃんは壊れてしまった 《伐》 を抱きしめて


「痛かったでしょう・・」  とつぶやいた


痛かったでしょう・・




《伐》 の左手にゆりちゃんの涙がぽろぽろと落ちた

いつの間にか硬直していた左手の先が柔らかい猫の形に戻っていた

 

たまちゃんが 《伐》 を抱いてくれた

たまちゃんは 《伐》 に頬を寄せて泣いた



たまちゃんの涙が今度は 《伐》 の右手に落ちた

するとじきに右手の先も柔らかく曲がっていた



硬直してぴんと伸びていた両手がいつの間にかいつもの柔らかい 《伐》 の手に変わっていた



二人は暗くなるまで 《伐》 と一緒にいてくれた



魔女はこの一週間、周囲に迷惑をかけ続けてきました


猫軍団は魔女と一緒に食欲をなくし、元気もなくし

家族は十分にこの悲しみに暮れる間もなく、食事も取らず無口になってゆく魔女の心配をしなければならず

友人は懸命に励ましてくれて

その上生徒たちからも 「先生がんばって・・」 と心配され


ごめんなさい


猫軍団が無口になってしまいました

みんなが何かを話し始めるまで、魔女が日記を書きます