ある雄猫の物語 Ⅴ  生き延びるために | まじょねこ日記

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魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


ドクロ

暮れも押し迫ったある日の夕方

魔女たちは庭で焚き火を始めた


辺りには、始末を待つ不要品に混じって

玄関前に段ボールやら紙袋やらが散らばっていた


魔女たちの側では《なぉなぉ》の子供たちがふざけ合い、

母親と姉さんがそれを見ていた

《なぉなぉ》は、傷跡に毛の抜けた皮膚が露出して

いっそう冷たい気温が身にしみている事だろう


その風貌は、すっかり野良猫と化しており

以前の毛並みは既に見る影もなくなっていた



魔女に撫でながら子供たちの様子を眺めていた《なぉなぉ》が、突然玄関の側の段ボールに向かった


それから《なぉなぉ》が奇妙な行為を始めた

段ボールに飛び込んだり、飛び出したりという行動を繰り返しているのだ


子供たちは父親の行動に興味を持ち

遊びを止めてその様子を眺め始めた


《なぉなぉ》は相変わらず同じ行動を繰り返している

(もう、ふざけるような年でもないのに・・)

魔女はそう思いながら、彼の様子を見ていた


そのうち1匹の子供が父親の真似をし始めた

《なぉなぉ》のように身軽には出来ないものの

小さな体で段ボールに飛びつき、よじ登り、箱の中に落ちてゆく

他の子供たちも次々に真似をした

飛びつき、よじ登り、箱の中に落ちる・・

そして・・大きく飛びつき、箱の中に飛び降りる


面白がって何回も繰り返すうちに

たどたどしさも取れて、短時間の内になかなか素早い動きが出来るようになっていた


魔女たちは、ここまではただほほえましい気持ちで眺めていた


が・・

《なぉなぉ》が、今度はその段ボールを家の壁の方に押しやった


何をするつもりだろうと見ていると・・

彼は箱の中に入り、箱の一方の側面に体重をかけ

体重をかけた部分が底になるように箱を90度回転させたのだ

すると箱の開いていた(出入りしていた)部分が家の壁に押し当てられ、開いていた部分が壁によって隠された

中に《なぉなぉ》が入ったままだが、その姿は外からは見えず、ただ段ボールの箱が置かれてだけのように見える


驚いた事に、《なぉなぉ》は箱を元の状態に戻して(つまりもう一度90度倒して)箱から出たのだ


子供たちが次々と箱に入り父親の真似を試みたが、みんなでドタバタと動き回ってしまい、箱の位置はずれるばかりだった

そこで今度は母親と、姉の猫が交代で《なぉなぉ》の真似を始めた

《なぉなぉ》ほどの出来ではなかったが

何とか姿を隠す事が出来るようにはなった



傷ついた体で

彼が必死に家族に伝えたかった事・・



冷え込みが激しくなったのを感じて 

魔女はやっと夜のとばりが辺りを覆い始めているのを知った


すっかり暗くなってしまった庭先で

強弱の焚き火の灯に映されながら


《なぉなぉ》の訓練はその後も続く




                       次回に・・・