お休みなんですけど!
第七話
それはさるバイトだった。
「おはようございます」
「あ・・・うん、おはよう」
…えーと。
周りの荷物を見渡す。そうだ、作業しながら寝ちゃったんだ。
そして…
えーと…
なんか重要なことを忘れている気がする。
あっ…
「クマモトと受付豹!」
思わず叫んでしまった。
「え・・・?」
さるバイトがけげんな表情をしてる。しまった。
「いや、なんでもない。どうしたの?忘れ物?」
「違うっすよ~。オツボネギツネさんがニャイドルさんが大変そうだから、誰か手伝ってって昨日言われて、今日入ることにしたんっすよ。」
オツボネギツネさん…あのひと、ツンデレだ、絶対。でもちょっとほっとした。
「ああそうなんだ、ありがとね」
「すごい量っすね~。これ全部?」
段ボールの山を見てさるバイトが驚いた。そりゃあそうだよっ。すごい量だもん。
「あ、こっちはもう終わってるから、そっちだけ」
「えっ…ひとりで…がんばりましたねえ」
さるバイトはさっそく封入を始めながらまた驚いた。
そりゃそうだよっ、がんばったもん。
「これだけだったら、やっときますよ。ニャイドルさん、家帰って、寝てくださいよ」
え…
それはうれしいけど、いいのかな?
「大丈夫?」
「俺は学校もないし、ちゃんと今日の分も給料出るから大丈夫ですよ」
「そう、そっか…ありがとう」
内心、ピース。やったっ。
「これ、封入したらいいんですよね?あと、こっちは?」
さるバイトがとりあげた封筒を見て、私ははっとした。
「あ、それはだめーっ」
会議の重要書類ってオツボネギツネさんに渡されたやつぢゃないかっ。
「なんすか、なんすか?」
さるバイトがにやにや、好奇心いっぱいになって突っ込んでくる。
「ただの会議の書類よっ」
私は中身を取り出して見せる。
「ほんとだ…なんだー、なんか面白いもの入ってるのかと思ったのに」
がっかりしたさるバイト。
「てか、これ、曲がってるし。まったくもぅ。」
さるバイトが私の封入作業終わったやつ取り出して笑う。眠りながらやってたからかなり雑になってたらしい。
「こゆの、得意なんすよ~」
彼が手紙を折ると、ナルホド、端と端がぴったり合っててほんときれい。
「じゃあ、ごめん、お願いしていいかな」
ほっと胸をなでおろすとなんだかまた眠気が…と、そのとき。
「大丈夫、大丈夫」
さるバイトがいきなり私の頭に手を伸ばし、ナデナデ…。
…へ???
…ぎょ。
なんだこのガキ。
びっくりして、ずずっと2,3歩、あとずさった。
あ、反撃しなきゃ。
「おとなをからかうんじゃないっ!」
思わず突き飛ばした。なんなのよっ!
「はい、すいません、ごめんなさい」
さるバイトはあわてて、姿勢を正し、床に手をついてあやまった。
…むむむむ…なんなのよもうぅぅーーーーー!!!
「ごめんなさいじゃないでしょ、ほとんど初対面なのに、礼儀ってものが、あるでしょっ」
「あ、はい。ごめんな…申し訳ございません」
再度頭を下げるさるバイト。言葉遣いの問題ぢゃなくて~っ。
でも、彼は、恐縮した様子で、頭を下げたまま、静止している。お灸は十分据えられたかな。
「もう、いいから、封入、よろしくねっ」
言い捨てて、書類を片付けて、会社を出た。
びびった…ちびっこ…てゆっても20歳は超えてるだろうけど、子供だと思ってたのに、色気づいてる…。油断大敵なのです。
★ ★
やっと、休日…。
家に入ると、宅配便の不在票に気づいた。なんだろ…。
差出人は…ニャイママ! 内容物はお魚だって~。きゃ~。
北海道の魚は、ほんっとおいしいもの。それに、安い。
東京に来て驚いたのは、食品が異常に高いことだった。
パパは、東京は偉い人がいっぱいいるから、その人たちがおいしい部分を全部持って行ってしまうので、庶民には、おいしい食材はなかなか手に入らないのだと言っていた。
それも一理あるのかもしれないケド、産地から、東京までが遠くて輸送費が高くなるから、高いんだってどこかで読んだ。そゆのを「フードマイル」っていうんだって。なんだっけ、キョンキョンの記事だったかな…。そうだ、最新号、出てるはずだ。
ウニちゃん、今月はどんなスタイルなんだろう。
ウニちゃんとは私たちギャルのカリスマ。超かわいいし、なんたって彼女のファッションスタイルをマネるとオトコ受けがいい。
そんなわけで、キョンキョンに載った洋服は飛ぶように売れて、店頭に並ぶとソッコーで売り切れる。北海道にいたころは知らなかったけど、地方の人たちは「買い物代行」を雇ってまで、その洋服を手に入れているらしいんだよね。
でも、さきに寝たい…。
部屋は就職にあたって引っ越したばっかりだから、まだベッドが来ていない。
ドレッサーも仮設。
まだ片付いていない段ボールがひとつ。
そんな新しい部屋を見渡してふーっと溜息をつく。
就職のとき、北海道に帰ってこいって親はうるさかった。
なんで東京で就職しちゃったんだろうなあ、私。家賃もかかるし、仕事しながら独り暮らしって、予想以上に大変そう…。
でも…やっぱり、お洋服がいっぱいあるから、東京がいいや。
てゆーか、受付豹、ほんといったいなんなのよ~。
シャワーを浴びながら、また思い出してムカついた。だめだめ、せっかくの休日なんだから今は忘れよう。月曜がきたら絶対文句言ってやる!!
どんなに疲れていても、クレンジングを怠るべからず。これ、美肌の鉄則。
特に、マスカラは丁寧に落とさないといけない。ちゃんと落とさないと、色素が肌に沈着して、目の下にクマみたいになってついちゃうんだって!!
目の周りって、一番、皮膚が薄くて、ダメージが出やすいんだって。
カラスの行水を終えて、とにかく体を拭いて、そしてぱたぱた化粧水と乳液と。
体にクリームと。
女ってほんと忙しいよねっ。
ひととおり終えると、ばたっと布団に倒れこんだ。
おふとん、大好き…。半徹夜のあとだったからすごく気持ちいい。
北海道のママが、私が上京する時に買ってくれた布団を今も使っている。
きゅん…。ふるさとが恋しくなった。
どこまでも見渡せる広い土地。木々が風にそよぐ音。海のさざ波。
いろんな故郷の記憶に、私の意識は飲み込まれていった…。
★
こうして、月曜。
しっかり休みをとってパワー全開。
結局土曜は眠り続けて、日曜ちょっと掃除して終わるという地味ぃな週末だったけど、よく寝て、反撃するパワーだけはばっちりになっていた。
「おつかれだったねえ」
完成した封入の段ボール箱を見て、犬リーマンさんが声をかけてくれる。
私は微笑んで会釈をすると、まっ先に受付豹のところに向かった。
日付の書かれた、オツボネギツネさんからのメモを手に。
負けてなんかいられない。
受付豹はいつものところで暇そうに座っていた。ちょうどいい。
ずかずかと近づく。
「おはようございます」
至近距離まで近づいて、挨拶すると、受付豹はちょっと目をあげて、
「あ、おはよう」
とのんきに返した。
「受付豹さん、これ、どういうことですか。」
私は、オツボネギツネさんからのメモを突きつけた。
・・・つづく



