ぬれぎぬなんですけど!
第八話
受付豹は目をぱちぱちさせて私を見た。
「え?」
「え、じゃないですよ。火曜に頼まれた仕事だったんですよね。」
「…だったわよ。」
あまりにもあっさりと受付豹が認めたので、私は拍子ぬけてしまった。
「だったらどうしてぎりぎりの金曜になってから私に言うんですか。」
「あ、知らなかったの?」
「はい?」
「オツボネギツネさんからニャイドルさんに直接言ってあると思ってたわ。そうなんだ、私にしか届いてなかったのね、そのメモ。」
ヒョウヒョウと答える。納得がいかない。
どう言い返そうかと考えていると、オツボネギツネさんが私を呼んだ。
「今日の打ち合わせの書類、確認しといてね」
「あ、はい。」
「待ち合わせ、午後イチだから12時には出るわよ」
「あ、はい。」
…一時休戦だ。
私は書類のあった場所に手をのばして…
ん・・・??
あれ・・・??
真っ青になった。
ない・・・。
うそ・・・。
私は真っ先に受付豹に訪ねた。
「ここにあった封筒、知らないですか?」
「え、封筒?さあ・・・」
私はオツボネギツネさんのところに走った。
知らせをきいたオツボネギツネさんも…真っ青になった。
どうやら思った以上におおごとらしい…。
★
受付階に、出勤している全社員が集められた。
犬リーマンさんはうなだれていた。キジネスマンも難しい顔をしている。オツボネギツネさんがさっきからぺらぺらしゃべっていた。
「つまり、最後に確認したのはニャイドルさんとさるバイトさんなのよ。そして、それからその書類を触った人はいないわけよね。」
つまり最後に書類を確認した私とさるバイトが疑われてるってこと。
…冗談じゃない。
「鍵は、誰が持ってたんだ?」
キジネスマンがたずねた。
「私はここを出る時、さるバイトさんに渡しました」
私は答えた。
「確かに受け取りました。そして今日一番に…9時半ごろ来て、僕が今日鍵を開けたんです」
「鍵はちゃんと閉まってたの?」
オツボネギツネさんが尋ねる。
「閉まってましたよ。」
受付豹が言った。
「私が来た時にはまだ鍵が開いてなくて。さるバイトさんに開けてもらったんです。それに、そこから先は、ずっと私が受付にいましたから、ほかの人が触ったら気づいたはずなんですよ。」
「僕が来た時には受付豹さんとさるバイト君しかいなかったから、その後の出勤順は僕、キジネスマンさん、犬リーマンさん、オツボネギツネさん、最後にニャイドルさん。」
熊本が記憶をたどりながら言った。
「ちょっと、ニャイドルさん、土曜に見たの、ほんとにその書類だったの?」
受付豹がきっつい口調で言う。
「それは、僕も見ました。ニャイドルさんが隠すから、なんか面白いものかと思って…でも『契約書』って書いてあって、全然面白くなかった。ニャイドルさんが書類の棚に封筒戻すのも見ました」
さるバイトが言う。
「鍵開けっぱなしのまま、外に出たりはしてない?」
オツボネギツネさんが尋ねる。
「ないです。夕方5時くらいまでぶっ続けで作業して、そのまま鍵閉めて帰りました。会社には僕以外誰も来なかったし。」
「つまり…全員が本当のことを言ってるとすると、さるバイト君が土曜の夜に鍵を閉めて帰ってから、月曜の朝鍵をあけるまでの間に、何者かが密室に侵入して、書類だけを奪っていった、とこうなるな。しかも、会社の印鑑や通帳には目もくれずに。」
キジネスマンさんが厳しい顔で言った。
そんなこと、ありえない…。
「誰かが侵入した形跡は?」
さるバイトが調べにかかった。二つ、積まれた段ボール。それは私が土曜に作業を終えた箱をまとめたときそのままだった。
さらに、さるバイトくんが一つ、ダンボールを積み上げていた。それ以外は、何も荒らされた形跡もない。
「つまり、そこに重要な書類が固まってるってこと知ってる人が動かしたってことだ。やっぱ外部の人が取ったってのはありえないんじゃないかなあ」
キジネスマンが…ちょっとこっちをにらんだ気がした。
でも、私見たし。
ちゃんと元のとこに戻したし。
なんでなくなってるんだろう。
私とさるバイトが帰ってから、唯一受付にいたのは受付豹だ。
「受付豹くんはそんな封筒は見かけなかったんだね。」
キジネスマンが確認した。
「見てないです。」
うそだ…。
私は彼女の言うことを信用しなかった。
もしや、彼女がわざと隠したんじゃ…。とさえ思い始めていた。
大量の段ボール箱にしても、今回のことにしても!!
おかしすぎるじゃない!!
「ほんとなの?」
私は言ってやった。
「うそ言ってどうするのよ、何? 自分が失くした書類の責任私に押し付けるの?」
受付豹がヒステリーっぽく叫んだ。
「私が失くしたんじゃないっ。私、確かにここに置いたもの!」
私もついつい声を荒げてしまった。
「失くしたものは失くしたんでしょ、認めて、謝りなさいよ。昨日までここにあったなんて、つまらないウソついて私たちに責任押し付けないでよ!」
「ここにあったのはウソじゃないわよ!!」
「まあ、まあ、まあ。落ち着いて。」
犬リーマンさんが仲介に入った。
けど、もう私もいっぱいいっぱいだった。
「こないだの、段ボールだって、わざとぎりぎりまでやらずに私に仕事押し付けたんでしょ!」
「だから、あなたはとっくにその仕事のこと知ってると思ってたって言ってるでしょ!」
「やめろ!!!!」
…さっきから黙りこくっていた熊本が私と受付豹の間に立ちはだかった。
「とにかく、思い違いってこともあるから、もう一度、その契約書探そう、な。」
熊本がやさしくなだめる・・・
私の肩に手を置こうとする熊本を振り払って、すぐさま、私は捜索を開始した。
「よし、全員で探そう」
犬リーマンさんが言う。
「ありがとうございます・・・」
私は犬リーマンさんに頭を下げる。
約束の1時は刻々と迫っている。
★
書類の棚を、もう一度全部ひっくり返した。
端から順に、一枚一枚、確認した。
それでも出てこなかった。
全員、自分の机やファイルも全部隅から隅まで調べた。
「こう見るとゴミが多いなあ」
犬リーマンさんが古い書類をどんどん捨てたり、シュレッダーにかけたりしながら言う。
「おかげですっきり、片付くよ」
にっこりほほ笑む犬リーマンさんに私の心はちょっといやされたけど…
見つからない。
ない・・・。
「とりあえずクライアントに電話しなきゃね」
オツボネギツネさんがため息をついた。
とそのとき。
「オハヨウ、コレハ、ナニゴトダネ」
社鳥が、入ってきて、散らかりまくった社内に目を丸くしている!!
やば・・・
「あの・・・」
私はどう説明しようか、緊張して体を硬くした。
さるバイトと犬リーマンさん、そして熊本が私のところに駆け寄ってきた。
つづく






