やばいものみちゃったんですけど!
第六話
4日前に頼まれた仕事を、当日までほっぽらかして、しかもその責任を私になすりつけようってのね。
どおりでおかしいと思った。この量を1日で仕上げろなんて指示、いくらオツボネギツネさんだってしないわよ。
人をむやみに疑うのはよくない。わざとだってゆう証拠はない。
けど、これは、彼女が4日前からとりかかっておくべき仕事だったのは確かでしょ。
こうゆうばあい、どうしたらいいの・・・。
ふーっ…。
コンビニに買い物に出ることにした。
「むかつく」とか「こんな仕事嫌だ」とか、そんな自分の気持ちに目を向けたら発狂しそうだった。だから気分転換。
暗い大通りに、人が行き交う。絶え間なく車が通る。
東京にいると…たくさん人がいるのに、みんな知らない人ばっかり。ときどき不思議な気分になる。地元では、通る車を見れば誰の車かわかったし、買い物に出かければ知り合いの一人や二人と顔を合わすのは当然だったもの。
終電も近いというのに、コンビニの中は仕事帰りのサラリーマンやら、そのへんを徘徊している若者たちでごった返していた。
若者はともかく、オジサンたち、奥さんいないのかなあ。
いても、仕事してるのかもしれないケド。
ほんとに東京って…「おひとりさま」が多い。
わたしもその一人。「おひとりさま」のみんなは、知り合いでもなんでもないんだケド、「私とおんなじ状態で頑張ってきた人なんだ」って思うと、コンビニにいるオジサンたちに、妙な連帯感と親しみを感じてしまった。
なんにしよ…。
かなりお腹がすいてる。お弁当がっつり食べてもいい感じ。
でも、夜だしなあ…。ポテチも、袋の裏の表示を見ると食べるのが怖くなる。
600キロカロリーって…。
疲れたから甘いものが食べたい。
結局、ボリューム感があるわりにカロリーの低いモナカにした。
高校生時代からのお気に入り商品だ。ぱりっぱりのチョコが入ってるの。この甘さとボリュームで200キロカロリー台ってのは、かなりうれしい。
るん♪
アイスを買うとちょっと気分がよくなってた。
単純・・・・。
コンビニを出ようとしてふと立ち止まった。
あ・・・・。
店の目の前を熊本が通り過ぎた…!!
こんな時間に、何で!?
熊本が振り向く。
き、気付かれた?
反射的に後ずさる。
けど、熊本は私とは反対の方向を向いていた。
熊本の視線の向こうから、女性がかけよってきた。
そして…熊本の腕をつかむ。
え・・・。
ま、マジで~~。
マジ、やばいもの見ちゃったんですけど!!
その女性は、受付豹だった。
**
あの二人、付き合ってたの!?
店に並ぶ雑誌の陰に隠れて、そっと様子をうかがう。
けど予想に反して、熊本はつかまれた腕を振り払った。
え~っ。どうなってるの。
「離せよ!」
激しい口調の熊本。
「なによ、ニャイドルさんのどこがいいのよ!」
激しく言い返す受付豹。
「そんなこと言ってねぇじゃんよ…」
熊本はうつむき、困った様子で頭をかいた。
しゃべってるみたいだけど、なんて言ってるのか聞こえない。
もおちょっと大きい声でしゃべってよぉ!
受付豹は半泣きになって熊本に抱きついた。
ひょ~っ。
熊本が、受付豹を振りほどく。
受付豹は泣きながら、怒ったような表情で、何かを言って、踵を返し、走り去った。
「お前、あいつに、何したんだよっ」
また、熊本の激しい声がして、熊本は、受付豹を追いかける。
そしてふたりはそのまま、私の視界から消えた。
えーっ・・・。
心臓がばくばくした。恋敵扱いされてたんだ…。
「社内のアイドル」って私が呼ばれることが、おもしろくないのは、知ってた。
けど、受付豹がだれを好きになろうが、熊本が誰を好きになろうが、知ったことじゃない。
逆恨みで、土日まで、出勤させられて、たまったもんじゃないっ!
ちゃんと、問いたださなきゃ。
だいたい、人に責任押し付けて、自分はデートしてるっていったいどーなってるのよ!
勢いよくコンビニを出て、ふたりの走って行った方向に走った。
「受付豹さん!」
…けど、二人の姿はなかった。
二人の去った方向に、走ってみたけど、やっぱり見つからなかった。
で、出遅れた…。
私ってばもうほんとに…どんくさいっ。
もおぉーっ。
相変わらず、知らない人と知らない車ばっかりの大通りで、私は立ち尽くしていた。
**
熊本が、受付豹を、好きになればいいのよねえ…。
受付豹を問いただす絶好のチャンスをあえなく逃した私は、会社に戻り、のろのろと封入作業を進めながら、考えていた。
そしたら、すべて解決するんじゃないかしら。
熊本が私を好きだというのが、ただの受付豹の思い込みじゃなくて本当だとしたら…
…って…やめてくれぇ…考えんの、やめよ。
とにかく、眠い・・・・。
仕事、しなきゃいけないのにぃ・・・意識が、遠のいていく・・・。
…恋は、おいかけっこみたい。追って、追われて、両想いになれることなんて、奇跡に近いのかも。奇跡の赤い糸で結ばれた男の人、私にも、いるのかなあ…
真っ赤な糸で結ばれた、運命の人…か。
どんな顔なのかしら。どんな仕事してるのかな。
私とどんな話して、一緒に、どこへ行くのかな。
もう、出会った人の中にいるのかな・・・。
それともこれから出会うのかな・・・。
私の運命の人、か…会いたいよ・・・。
・・・
**
「おいっ」
激しく揺さぶられて、はっと目が覚めた。
私…そうだ、会社の中で寝ちゃったんだ。てか、誰??
私はその顔を見て
「ぎゃっ」
声をあげてしまった・・・。 つづく





