初出勤なんですけど!
まゆげのない、私のカオ。ちょっとはれぼったい奥二重。私の顔はどっちかってゆうと、キツイ。このカオをキュート&デカ目にするのが、私の朝の仕事★ アイプチつけて、つけまつげつけて…しめて1時間かかるのです…。そして毛並みを整えて…これまた1時間奮闘する。
5時半起き、シャワー30分、ヘアメイクに120分で…ちょうど8時に家を出られる。
初日から…ねむい…
でも負けない。ぜ~ったい、メイクは手を抜かないんだから。
今日から私ニャイドルは某制作会社の社員。 まさに花のOL生活がいま始まろうとしているっ★ どんな生活が待ってるのか、わからないケド、私の朝の「仕事」は変わらない。どんなに忙しくなろうとも…メイクは手を抜かない! それが新入社員ニャイドルの誓いなのです。
全身鏡にアイドル系たれ目にゃんこが映ってるのを確認。う~ん、スバラシイっ。
毎朝、5時半に起きなきゃいけないケド…
戦闘モードでいれば、いっぱい稼げる! いいオトコも寄ってくる! はず。
期待いっぱい胸に膨らませ、通勤電車に飛び乗ったのですが…
***
む、むぎゅうぅ…
なんだこれ!!
これぞウワサの、埼京線ラッシュ!?
身動きとれないどころか、前から、後ろから、斜めから、体が押しつぶされそう。息が苦しい…。前のおっさんに顔を押し付けちゃいそうになって、私は必死で踏ん張る。こんなハゲおやじに寄り添ってなるものか。だいたい、2時間かけたメイクが取れちゃうぢゃないのっ。
「まもなく大宮~大宮でございます~」
電車がブレーキをかけると、人がどどっと私にもたれかかってくる。痛いっ…。
後ろのオバサン、重い。よろけてさっきのおっさんの背中に顔が押し付けられる。やめて~。お願い…。もうイヤ~。
痛くて、涙が出そうになったそのときです。
なにかが私のおしりに触ったのは…。
まさか…ち、ちかん!?
よけようにも、身動きがとれない。泣き面にハチ。
悲しいのを通り越して、怒りが沸き起こる。なんでこんな目に遭わなきゃいけないのっ。
はじめはソフトタッチだったその手は、ばれないと思ったのでしょう、だいたんにモミモミしはじめた。
ふざけんなよっ。
がたん、と電車が揺れて、私と、おっさんとオバサンの間に隙間ができる。私は素早く自分の手をなんとか移動させ、おしりのあたりにあった手を…つかんだ!!
「ちかんです!」
私が叫んで、周りの人が一斉にこっちをみたとき、電車が止まって、ドアが開いた。
* **
かっかっかっか…
表参道に私のヒールの足音が響く。
スーツのおじさんやおねえさんにまぎれて、ミニスカギャルが走るっ!
我ながら思いっきり浮いてるけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。初日遅刻はカンベンなんです。だって、私みたいなギャルが遅刻したら、み~んなやっぱりねって目で見るでしょ。それがイヤなの。変な先入観とか持って、ギャルってだけでいいかげんとか決めつける。社会がそゆものだってことは私だって知ってる。だからこそ、走った。
あのちかんに手こずらされ、駅員室にひっぱっていっても、「違います」「やってません」なんてホザくから、思ったより時間をくっちゃったのです。駅員さんも、どっちを信じるか、迷ったみたいで、事情徴収とか始めちゃって。そんなのしてたら間に合わないからってなんとか振り切って、出てきてしまった。あの男がその後どうなったのかは知らない。ショルイソーケンとかされてんのかな。いい気味よ。でも、そのせいで、朝から500メートル走するはめになる私。まったくもう…。
久しぶりに走ると超息が切れる。
8時57分。ほんとぎりぎりじゃないの…。5分前精神厳守のつもりだったのにっ。アノヤロウ。
ビルの前にたどりつき、エレベーターの「上」を押すと8階のランプが点灯した。
降りてくるまで待ってられない…。
諦めて階段を上ることにした…。
* **
「おはようございます!」
8時59分。ぎりぎりセーフ。
ドアを勢い良くあけてあいさつしたのはいいのだけれど…
しーん…
返事がない。
がらんとしてる。
ちらかった机が並んだオフィスは、ブラインドが閉まっていてなんだか陰気臭い。
目の前に大きなふくろうの置物があって、それがまた、あやしい雰囲気を倍増させている。
もしや、場所、間違えた…?
そのとき、奥のほうで仕事していた、たった一人の社員らしき犬のおじさんが、のそっと顔をあげた。
「新人さん?」
「はい、よろしくお願いします!」
「じゃあ、オツボネギツネが来るまで、そこで座っててよ」
犬のおじさんは、立ち上がりもせず、隣の机を指差す。
「あの、ほかの人は…」
一人しか、いない会社じゃなかったはずだ。
「営業さんは来るの遅いし、朝は社長とおれだけだよ」
え、社長? そんな人、どこにも…
「ヨロシク頼ムヨ」
急にふくろうの置物がしゃべったのでびくっとした。
「トリ締まり役社鳥デス、ドウゾヨロシク」
ふくろうが、名刺を差し出した。
置物じゃなかったのか…。
「モウヒトリ、新人ガ、来ルハズナンダケドナ」
ふくろうの置物…もとい、社長は眼をぱちぱちさせた。たぶん首をかしげたかったんだろうけど、太りすぎてて、それができないのだ。
私は必死で笑いをこらえていた。
そのとき、そろっとドアが開いた。
「おはようございます、社長、うちの新入りだという男性が、下に見えてますけど、入ってもらって、いいですか」
たぶん営業の人だろう。律儀な感じのスーツ姿。やっと会社らしくなってきた。
「ヤア、キジネスマン、昨日ハオツカレダッタ。ソウダナ、ハイッテモライナサイ…」
社長が言い終えないうちに、キジネスマンは階下へと向かって・・・窓から羽ばたいていった。
キジなんだからしょうがないわよね。
でもあんな誠実そうな感じの人がいると、安心だわ。
「すぐ抜け駆けするから」
さっきの犬のおじさんがぼそっと言った。
「え?」
意味が分からずききかえそうとすると、社長が私を遮った。
「キニシナクテイイ」
なんか…二人、仲悪いの・・・?
ちょっと不安も入り混じる。
やっぱり新しい環境になじむのって大変そうだ。
けど、ちょっとわくわくしている私。
もう一人の新入社員ってどんな人かしら。
男性、って言ったよね??
もしかして、ものすご~いイケメンだったりして!
そして、そして、お互いに一目ぼれして、大恋愛に発展しちゃったりして。
そして、そして、私は半年後に寿退社しちゃったりして~~~。
…いかんいかん。
恋じゃなくてぇ…仕事しに来てるんですっ。…たぶん…。
でもね、でもね、
ふんだりけったりの初出勤の朝だったから。
これからはその分いいことがいっぱい、待ってる気がするの★
ひとりでほくそ笑んでしまう。
ガチャ…
ドアが開いて、みんなが顔をあげた…
・・・つづく





