池江璃花子、白血病を公表ーまずは完治を。 | IDEAのブログ

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驚くべきニュースが飛び込んできた。

 

2月12日午後、日本女子水泳界のエース・池江璃花子が自身のツイッターを更新し、白血病を発症し治療を開始した事を公表した。

同日16時、日本水泳連盟と池江の所属先であるルネサンスの合同記者会見が開かれ、発症の経緯と池江の現状についての説明が行われた。

出席したのは日本水泳連盟会長の青木剛氏、副会長の上野広治氏、所属先のルネサンス代表取締役社長・吉田正昭氏、コーチの三木二郎氏が出席した。

説明によれば1月16日から行われていたオーストラリアでの合宿中、池江が何度か体調不良(体が怠い、重いなどの倦怠感)を訴えたため、現地の病院で日本人医師の診療を受け、念のため血液検査も受けた。

その医師が、専門的な治療機関での再検査が必要と判断したため、今月10日までの予定だった合宿を早めに切り上げて8日に帰国。直ぐに病院で検査を受けたところ白血病という診断を受け、医師の勧めに従いそのまま入院する事になったのだという。

 

前兆はあった。

 

1月13日に行われた三菱養和スプリントが今年の初レースとなった池江だが、得意の100メートルバタフライで1分00秒41と自己ベスト(56秒08)より4秒以上も遅かった。また、この日参加予定だった200メートル自由形を「体調を考慮して」棄権している。

競技終了後に報道陣のぶら下がりに応じた池江は「アメリカから戻って以来体が重い。疲労も抜けにくくなっている」と、自身の体調の変化についてコメントしている。

 

この時点では、本人も周囲も「疲労」が原因だと考えていたフシがある。昨年12月、池江は米国で高地トレーニング主体の合宿を2週間ほど行い、12月24日に帰国したばかりだったのだ。

帰国後も紅白歌合戦の審査員や各種の授賞式などで慌ただしい年末年始を過ごしていた池江はその疲れが出たものと思っていたのかもしれない。

だが、今思えばこれが初期症状だったのだろう。以前に比べて疲労が抜けにくくなっているとも語っていて、自覚症状はもっと前からあったのかもしれない。

実際、アメリカでの高地トレーニングでも池江の消耗はひどく、コーチの三木氏は最後のメニューは取りやめて合宿を終えた事を会見で告白している。

オーストラリアでも同様で、三木コーチ曰く「今まで見たことが無いような肩で息をしている状態」だったという。  

「血液のガン」と呼ばれ、かつては不治の病の代名詞だった白血病は、現在では様々な治療法が登場している。

白血病はリンパ球が原因となるリンパ性白血病と、骨髄の中にある造血幹細胞が引き起こす骨髄性白血病に大別されるが、多いのは圧倒的に後者である。

骨髄の中では造血幹細胞から、様々な血液細胞(白血球、赤血球、血小板など)が作られる。いずれも生命維持に欠かせないものだ。

やや専門的な話になるが、この造血幹細胞が血液細胞に成長していく現象を「分化」と呼ぶ。白血病はこの分化の途中(早い段階)で細胞が成長をやめてしまう事が原因で起こる病気だ。

この結果、成長をやめた白血病細胞(不完全な血液細胞・芽球とも呼ぶ)が増殖して骨髄を占拠してしまい、正常な血液細胞が作られない状態となる。

この状態が進行すると出血や感染症などで極めて重篤な状態となり、死に至る。現在においても骨髄性白血病の原因は不明とされている。

 

治療の初期段階は抗がん剤による「寛解導入」である。これは顕微鏡で白血球細胞が完全に見られなくなる「寛解」まで続けられる。さらに体内に残存する白血病細胞を完全に取り除くため、分子標的薬などの薬物や化学療法、抗がん剤治療などが続けられる。

これで白血病細胞が無くなれば治療は終わるが、再発した場合や効果が期待できない場合は造血幹細胞移植(骨髄移植)へと進む。

この移植による治療は適用例がかなり増えており治癒率も上がっている。末梢血細胞移植などもあり、その効果も上がっている。

問題はドナーから提供される骨髄とのマッチングだ。日本骨髄バンクの統計によれば、適合率は3割に満たない。このため適合するドナーが現れるまで、数年待つこともザラにある。

このため多くの患者が移植を待っているのが現状だ。日本骨髄バンクによれば、ドナー登録数は50万人近いが、移植が実現するのは1割強だという。

骨髄移植の場合、ドナーも骨髄提供の処置を受けなければならない。体への負担もかなりのもので、処置後は回復のため1週間ほどの入院を余儀なくされる。患者団体などは移植による入院期間を「公休」とできるよう政府に働きかけているが、今のところ実現していない。

 

池江選手の場合、年齢とその発症の経緯から急性骨髄性白血病と推測される。詳しいことは公表されていないが、会見した水泳連盟の上野副会長や三木コーチのコメントからそれとわかる。

今は抗がん剤投与で寛解を目指している段階と思われるが、副作用も大きく、この治療はかなりキツイ。本人もツイッターで「想像の何倍も辛い」と書いている。他のガンと異なり外科的治療ができないので、副作用が大きくても続ける以外にはないのだ。治療を途中で打ち切れば白血病細胞を憎悪させ、かえって病状を悪化させる可能性がある。

寛解を迎えればひと段落だが、先にも書いたように「寛解」は通過点でしかない。いわゆる「完全寛解」を目指して、その後半年から2年くらい抗がん剤や化学療法などが続く。この段階で在宅治療に切り替える事は可能だが、水泳をするのはまず不可能だ。

 

連盟の会見の席では来年の世界選手権云々という話も出ていたが、率直に言ってそれは無理だろう。さらに言えば東京五輪も、出場は事実上不可能になったと言わざるを得ない。本人は「まだ諦めてはいない」とツイッターでコメントした。その意気たるや素晴らしいものだが、ここは治療と回復を最優先にすべきだろう。

 

抗がん剤投与で効果が上がらなければ造血幹細胞移植へと進むことになるが、この移植による副作用は抗がん剤の比ではない。合併症が命取りになる場合も多い。脱毛や全身の倦怠などのほか、生殖能力を失う可能性もあり、卵子の保存療法なども考慮しなければならないのだ。

 

白血病の治癒率は30〜40%である。昔から見たら随分と高くなってはいるが、簡単に治る病気でもない。専門家は「期待の大きい選手だが、競技続行はきわめて厳しいものがあると言わざるを得ない」というのが一致した意見だ。

 

私は東京五輪などどうでもいいとあえて言いたい。おそらく一生の間二度と巡ってこない地元で迎えるオリンピックは晴れ舞台であるし、本人だって出たいに決まっている。しかしオリンピックはその後も続く。東京が最後ではないのだ。

東京の次はパリだが、そこで復帰してもいいし、その次でもいい。年齢から考えても十分可能だ。決して無理をするような状況ではない。

何故なら水泳選手としてのキャリアはいずれ終わるが、その向こうには現役時代よりもはるかに長い「人間・池江璃花子」としての人生が待っているからだ。優先すべきは自らの人生であり、周囲の空気やマスコミの報道などではない。

 

今回、自ら病状を公表したこともあり、この出来事はワイドショーに格好のネタを提供した。各局取り上げ方は似たようなもので、血液内科の専門家を呼び病状を推測し、復帰時期の可能性を探るという内容だった。

どの番組も治療に専念して一日も早く元気にという論調でまとめていたが、治療に専念できる環境を整えるには、マスコミや水泳関係者を遠ざけるのが一番だ。本人が希望を持って闘病生活を送れるのならそれでもいいが、プレッシャーやストレスになる要因は可能な限り排除すべきだ。

 

人気・期待の高かった選手だけに衝撃は大きかったが、まずはひとりの人間としての社会復帰を祈ろう。彼女の発表により骨髄バンクにはドナー登録の問い合わせが殺到した。これを「池江効果」と言っていいのかどうか分からないが、これをキッカケに多くの患者が救われれば、彼女は立派に社会的使命を果たしていることになる。

競技への復帰は難しいかもしれないが、マーテン・ファンデルバイデン(オランダ)のように、リンパ性白血病を克服し、発症から7年後に金メダルに輝いた選手もいる。可能性は低いがゼロではない。

容易な事ではないと思うが、字の如く「闘病」は闘いである。医師や医療関係者とともに闘い続けなければならない。

池江選手の闘いとともに、日本競泳陣の闘いと奮起に期待する。