『国土強靱化関係予算について』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』第43回

 4月下旬から箱根山の火山活動が活発化しています。昨年9月の御嶽山噴火を始め、各地の火山でも小規模な噴火や火山性地震が頻繁に観測されており、地球自体が生きていることを思い知らされます。一方、災害は忘れた頃にやってくると言われますが、今後発生が予想される首都直下地震や南海トラフ巨大地震も忘れてはなりません。今回は、国土強靱化関係予算の概要と地方自治体の国土強靱化地域計画の策定状況について説明します。

● 国土強靱化が必要とされる背景

 日本は、国土の特性から台風、梅雨期の大雨、局地的豪雨、豪雪、火山噴火、そして地震等に頻繁に襲われてきました。度重なる大災害により、様々な被害がもたらされてきましたが、災害から得られた教訓を踏まえ、対策の強化もなされてきました。

 ところが、H23年の東日本大震災は、観測史上最大のM9.0の巨大地震と最大の遡上高が40mを越える大津波となり、防潮堤などは津波を遅らせる等の効果がありましたが、完全に防ぐことができず、多くの犠牲者がでた大災害となりました。東日本大震災は、これまでの「防護」という発想によるインフラ整備中心の防災対策だけでは限界があることを教訓として残しました。今後は平時から大規模災害等に対する備えを行うことが一段と重要になっています。そこで登場したのが、「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」という考えです。

 「国土強靱化」とは、強靱な国土、経済社会システムの構築に向けた、平時からの継続的な取り組みのことです。“強靱な”とは聞き慣れない言葉ですが、「強くてしなやか」という意味で、反対語は“脆弱な”です。もう少し言葉を加えますと、強靱な国土、経済社会システムとは、私たちの国土や経済、暮らしが、災害や事故などにより致命的な被害を負わない強さ(あるいは、抵抗力)と、速やかに回復するしなやかさをもつ、安全・安心なシステムのことです。

● 国土強靱化の基本目標及び事前に備えるべき目標

 国土強靱化には、以下の4つの基本目標があります。

① 人命の保護が最大限図られること
② 国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず、維持されること
③ 国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化
④ 迅速な復旧復興


 そして、基本目標を実現するための「事前に備えるべき目標」が次のとおり、より具体的に設定されています。

1.大規模災害が発生したときでも人命の保護が最大限図られる
2.大規模災害発生直後から救助・救急、医療活動等が迅速に行われる(それがなされない場合の必要な対応を含む)
3.大規模災害発生直後から必要不可欠な行政機能は確保する
4.大規模災害発生直後から必要不可欠な情報通信機能は確保する
5.大規模災害発生後であっても、経済活動(サプライチェーンを含む)を機能不全に陥らせない
6.大規模災害発生後であっても、生活・経済活動に必要最低限の電気、ガス、上下水道、燃料、交通ネットワーク等を確保するとともに、これらの早期復旧を図る
7.制御不能な二次災害を発生させない


● H27年度予算の基本方針

 事前に備えるべき目標に照らして、「国土強靱化基本計画(H26年6月3日閣議決定)」及び「国土強靱化アクションプラン2014(同日に国土強靱化推進本部決定)」は、45の「起きてはならない最悪の事態」を特定し、それらを回避するための府省庁横断的なプログラム(施策のパッケージ)の策定を求めています。H27年度はそのうち、国の役割の大きさ、影響の大きさと緊急度の観点から、15のプログラムを重点的に推進することとなりました。また、府省庁に横串をさす「リスクコミュニケーション」、「老朽化対策」、「研究開発」の分野についても、重点化プログラムと適切に連携しながら推進するとされています。

 なお、15の重点化プログラムにより回避すべき起きてはならない最悪の事態とは、以下のような事態のことです。具体的なイメージを一人一人が共有することが重要ですので、少し長くなりますが、記載します。

〔事前に備えるべき目標の1〕
(1)大都市での建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や住宅密集地における火災による死傷者の発生
(2)広域にわたる大規模津波等による多数の死者の発生
(3)異常気象等による広域かつ長期的な市街地等の浸水
(4)大規模な火山噴火・土砂災害(深層崩壊)等による多数の死傷者の発生のみならず、後年度にわたり国土の脆弱性が高まる事態
(5)情報伝達の不備等による避難行動の遅れ等で多数の死傷者の発生

〔事前に備えるべき目標の2〕
(6)被災地での食料・飲料水等、生命に関わる物資供給の長期停止
(7)自衛隊、警察、消防、海保等の被災等による救助・救急活動等の絶対的不足

〔事前に備えるべき目標の3〕
(8)首都圏での中央官庁機能の機能不全

〔事前に備えるべき目標の4〕
(9)電力供給停止等による情報通信の麻痺・長期停止

〔事前に備えるべき目標の5〕
(10)サプライチェーンの寸断等による企業の生産力低下による国際競争力の低下
(11)社会経済活動、サプライチェーンの維持に必要なエネルギー供給の停止
(12)太平洋ベルト地帯の幹線が分断する等、基幹的陸上海上交通ネットワークの機能停止
(13)食料等の安定供給の停滞

〔事前に備えるべき目標の6〕
(14)電力供給ネットワーク(発変電所、送配電設備)や石油・LPガスサプライチェーンの機能
の停止

〔事前に備えるべき目標の7〕
(15)農地・森林等の荒廃による被害の拡大


● 重点化プログラム等の推進のための予算概要

 重点化すべき15のプログラム及び横断的分野の推進のための予算は関係する府省庁で個別の施策ごとに計上されますが、国土強靱化に関係するこうした予算をまとめると、H27年度は総額約3兆7,913億円(対前年度比1,818億円増)になります。このうち、公共事業関係費が約3兆1,498億円(同827億円増)に上ります。

 関係する府省庁は内閣官房、内閣府、警察庁、法務省、環境省など12府省庁にわたりますが、予算規模からみると、①国土交通省、②農林水産省、③文部科学省、④防衛省が上位4つで、総額の97%を占めます。

① 国土交通省 2兆7,998億円(対前年度比3%増)
② 農林水産省 4,502億円(対前年度比1%増)
③ 文部科学省 2,207億円(対前年度比59%増)
④ 防衛省 2,075億円(対前年度比17%増)


 総額の大半を占める国土交通省の予算内訳をみると、主なものは以下のとおりです。

・ 防災・安全交付金 1兆 947億円
・ 水害・土砂災害に対する予防的対策等の推進 6,645億円
・ 代替性確保のためのミッシングリンクの整備 4,747億円
・ 戦略的なインフラ老朽化対策 3,954億円


 防災・安全交付金は、住宅・建築物の耐震化の促進(都市部での複合的・大規模倒壊の回避)、無電柱化の推進(電柱の倒壊による道路閉塞の回避)、帰宅困難者対策に資する公園緑地の活用、避難地等となる公園、緑地、広場等の整備、沿海部における避難路・避難施設の整備(大規模津波に対する人命の保護)など、対象は多方面にわたります。H27年度新規で「密集市街地対策の推進」(30億円)が対象に追加され、避難路沿線建築物の不燃化や老朽建築物の建て替え・除却などが推進されます。

 水害・土砂災害に対する予防的対策等の推進は、気候変動に伴い頻発・激甚化する水害・土砂災害への対応で、河川堤防の緊急点検結果に基づく緊急対策や深層崩壊対策の推進、高分解能のレーダーXRAIN(雨量観測)を活用した災害時の商法収集・提供が含まれます。

 文部科学省の予算が約6割増(約820億円増)となっているのは、学校の耐震化促進が前年より約790億円も増えたためですが、それ以外に先進光学衛星の開発や海底地震・津波観測網の整備のための予算も拡充されています。

 防衛省の予算は約300億円の増加ですが、そのうち約190億円は、大規模・特殊災害に対応する訓練の実施や装備・資機材の取得などの災害派遣時の対処能力を高める措置に当てられます。

● 国土強靱化地域計画の策定状況

 最後に国土強靱化地域計画について説明します。国土強靱化基本法は政府に対して、国土強靱化に係る国の他の計画等の指針となるべきものとして、「国土強靱化基本計画」を定めなければならない、と基本計画の作成を政府に義務づけています。一方、都道府県・市町村に対しては、「国土強靱化地域計画」を定めることができる(いわゆる“できる規定”)、と地域計画の作成は任意となっています。国土強靱化地域計画は、国土強靱化基本計画と調和するもので、都道府県・市町村の地域特性等を考慮して策定されることとなります。

 内閣官房国土強靱化推進室によると5月13日現在、国土強靱化地域計画の策定に向けた取組(予定を含む)を公表している地方公共団体は、31都道府県、13市区町で、すでに計画を策定・公表した地方公共団体は、4道県(北海道、静岡県、岐阜県、徳島県)、2市(千葉県旭市、新潟県新潟市)に限られます。

 私の地元鳥取県では昨年4月、国土強靱化プロジェクト会議が発足し取組に着手しました。同会議の下に、県土整備部が中心となる部局横断的なワーキンググループが設けられ、地域計画作成のベースとなる各分野の脆弱性の分析・評価作業が1年間かけて進められています。そして、この分析・評価作業と並行して地域計画の素案づくりが今年に入ってから始まっており、素案づくりの進捗状況は5月下旬開催予定の県議会でも報告される予定です。地域計画の策定過程では、産・官・学の有識者からなる検討委員会でも審議され、パブリックコメントによる意見収集等も適時実施されており、年末までの策定を目指しています。鳥取県の地域特性が適切に考慮され、万一の大災害にも迅速かつ適切に対応できる計画が策定されるよう期待しています。