『中小企業・小規模事業者関係予算について』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』第42回 

 政府が昨年8月、「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(インターネット調査)を行ったところ、移住する上での不安・懸念や困っていることとして、「日常生活や公共交通が不便」、「どこに相談に行ったらよいかわからない」が上位でしたが、最も多かったのは「働き口が見つからないこと」でした。地方の経済を支えるのは、農林水産業、観光業、小売・サービス業で、中小企業・小規模事業者が圧倒的多数を占めます。地方創生が叫ばれる中、大企業優先の施策から中小企業優先の施策にシフトしていく必要があるほか、地方でいかに職場を確保するかは、いかに効果的な中小企業・小規模事業者政策を実行するかに懸かっています。今回は、H27年度の中小企業・小規模事業者関係予算について説明します。

● 日本再興戦略における中小企業・小規模事業者政策

 中小企業白書2014によると、我が国には中小企業385万社(うち小規模事業者334万社)があり、企業数の99.7%を占め、従業者数の69.7%が中小企業で働いており、GDPの6割を占めています。小規模事業者だけをとると、企業数の約87%、従業者数の約26%を占めます。新しい雇用機会はほとんど中小企業・小規模事業者で創出されています。

 2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略-Japan is Back-」の日本産業再興プランの中で、中小企業・小規模事業者の革新政策に次のような重要目標値が定められています。

① 2020年までに黒字中小企業・小規模事業者を70万社から140万社に増やす
② 開業率・廃業率10%台(現状約4.5%)を目指す
③ 今後5年間(2017年度まで)で新たに1万社の海外展開を実現する


 以下では、①と②を中心に、進捗状況と施策の内容を説明しますが、その前に中小企業と小規模事業者の定義を確認します。

 中小企業基本法では、中小企業の範囲を資本金額や従業員数で業種別に以下のように定義しています。

・製造業その他 資本金3億円以下 又は 従業者数300人以下
・卸売業 資本金1億円以下 又は 従業者数100人以下
・小売業 資本金5千万円以下 又は 従業者数50人以下
・サービス業 資本金5千万円以下 又は 従業者数100人以下


 雇用規模を一つの目安とすると、300人(製造業)や50~100人(商業・サービス業)が中小企業と大企業との境目と言えるでしょう。

 一方、小規模事業者とは、製造業その他では従業員20人以下、商業・サービス業では従業員5人以下の事業者のことです。

 ところで、以前は中小企業・小規模事業者と両方を明示することなく、まとめて「中小企業」と表現されていました。しかし、雇用創出面での創業・小規模事業者の重要性の高まりや昨年の「小規模企業振興基本法」の成立等にみられるとおり、安倍政権は小規模事業者の振興を重視していますので、「中小企業・小規模事業者」と表現していきます。

● 黒字中小企業・小規模事業者

 日本再興戦略では、2020年までに黒字中小企業・小規模事業者を70万社から140万社に増やすことを重要目標と位置づけています。その進捗状況は2011年70万社、12年73万社、13年80万社(国税庁調査)となっています。企業の経営状況は景気により左右されますし、全般的に好業績が伝えられる14年度の実績が集計されていない段階では何とも言えませんが、目標達成は非常にチャレンジングであることに変わりはありません。

 この目標達成のために、H27年度は(1)競争力強化や新事業創出を図るため、研究開発、試作品・新サービス開発、設備投資等を支援、(2)地域経済の担い手である小規模事業者に焦点を当てた支援策を強化する方針が採られ、次のような施策が盛り込まれました。

〔技術開発・生産性向上〕
 *ものづくり・商業・サービス革新補助事業 H26補正 1,020億円
 *革新的ものづくり産業創出連携促進事業 H27当初 129億円
 *商業・サービス競争力強化連携支援事業 H27当初 10億円
〔販路開拓支援〕
 *小規模事業者支援パッケージ事業 H26補正 252億円
 *ふるさと名物応援事業 H26補正 40億円、H27当初 16億円


 これらのなかで、H27年度予算でまだ応募が可能な事業について説明します。

 「革新的ものづくり産業創出連携促進事業」は、中小企業・小規模事業者が、大学・公的研究機関等と連携して行う、ものづくり技術を活用した研究開発等を支援する事業です。研究開発だけでなく、販路開拓への取組まで一貫して支援するのが特徴です。補助上限額は4,500万円で、費用の2/3が補助され、事業期間は2~3年です。H24年度から始まった事業で、年間110~150件が採択されてきました。H27年度から、対象となる「特定ものづくり基盤技術(注)」に、マーケットインの発想に基づく製品開発を促進するために、「デザイン開発技術」が追加されました。デザイン開発技術とは、ユーザビリティの向上、安全性・安心の向上、環境性の向上など感性価値を創出する技術です。なお、応募状況にもよりますが、事業の公募期間は6月までの予定です。

(注)特定ものづくり基盤技術とは、デザイン開発、情報処理、精密加工、製造環境、接合・実装、立体造形、表面処理、機械制御、複合・新機能材料、材料製造プロセス、バイオ、測定計測の12技術

 「商業・サービス競争力強化連携支援事業」は、中小企業・小規模事業者が、産学官連携して行う新しいサービスモデルの開発等のうち、特に地域産業の競争力強化に資すると認められる事業について支援するものです。支援対象は、機械装置費、人件費、マーケティング調査費等のサービス開発に係る経費です。補助上限額は初年度3,000万円で、費用の2/3が補助されます。2年目は、初年度と同額を上限として補助されます。本事業はH27年度の新規事業なので、事業の公募期間は4月末頃から1ヶ月余りの予定です。

 なお、「ふるさと名物応援事業」はH26年度補正に前倒し実施されたため、H27年度の公募も2月中に終了してしまいましたが、中小企業・小規模事業者が行う、地域資源を活用した「ふるさと名物」の開発やその販路開拓等の取組を支援するものです。H26補正で219件、H27で187件が採択されました。鳥取県ではH26補正で3件の事業が補助金を獲得できました(①認知症判定補助・予防プログラムの事業化②高速加工と長寿命化を実現したドリルの事業化③カニ殻から抽出される「キチン」「キトサン」を活用した高付加価値商品の製造、販売事業)。引き続き来年度も、地域資源の活用を支援する事業が拡充されるように、後押ししていきます。

● 開業率・廃業率10%台への促進施策

 日本経済が15年余り経済の停滞を続けてきた原因のひとつに産業の新陳代謝が進まないことが指摘されます。企業は絶えず生成と消滅を繰り返し、生成と消滅の頻度が高ければ高いほど産業の新陳代謝が促されます。その動態を把握するために、「開業率・廃業率」という指標が用いられます。米国や英国では開業率も廃業率も10%前後と高く、そのことが産業の再編を促し、経済の活性化をもたらしています。一方、日本では開業率は2012年4.6%、13年4.8%と低い水準が続いています。廃業率も、一時のように開業率を上回ることはありませんが、2012年3.8%、13年4.0%と低いままです。なお、企業がひしめく大都市圏と人口の少ない地方圏を同じ土俵で論ずるのは適当ではありませんが、地方圏においても安定した・新たな雇用を作り、大都市圏から地方圏への新たな人の流れを作るべく、できる限りの取組を行うことが求められます。

 この分野の目標を達成するためには、①創業しやすい環境の整備や創業コストの軽減、②廃業の円滑化に向けた環境整備、そして③事業承継を進めやすい仕組みの整備、をより一段と推進しなければならず、H27年度は以下の施策が盛り込まれています。

〔創業しやすい環境整備、創業コストの軽減〕
 *官公需法の改正(新規中小企業の受注機会確保)
 *創業・第二創業促進補助金 H26補正:50億円、H27当初:8億円
 *「経営者保証に関するガイドライン」の利用促進
〔廃業の円滑化に向けた環境整備〕
 *「経営者保証に関するガイドライン」の利用促進
 *小規模企業共済制度の普及・活用
〔事業承継を進めやすい仕組みの整備〕
 *事業引継支援センターの整備
 *事業承継税制の拡充


 これらのなかで、特徴的な施策について説明を加えます。

*官公需法の改正

 官公需法(官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律)は、政府調達における中小企業・小規模事業者の受注機会を確保するための措置等を規定しています。政府調達は約8兆円あり、中小企業の契約実績は約4.3兆円(いずれもH25年度)ありますが、国等との契約では過去の実績が重視される傾向にあるため、創業間もない中小企業者の受注機会は限られていました。そこで、今改正で特に契約の実績がなく受注機会が限られている創業10年未満の中小企業者を「新規中小企業者」と定義し、新規中小企業者との契約目標を設定し、創業間もない中小企業者の受注機会の拡大を図ります。官公需法の改正案は3月に閣議決定され、今国会に上程されています。

*創業・第二創業促進補助金

 起業を目指す女性や若者等に対して、店舗借入費や設備費等の創業に要する費用の2/3を補助する事業で、補助上限額は200万円です。公募期間は5月上旬までですが、採択実績はH24年度6,299件、25年度3,124件と多数に上ります。一方、第二創業促進補助金は、事業承継を契機として既存事業を廃業し、新分野に挑戦する第二創業者に対して、人件費、設備費等、廃業コストを含む費用の2/3を補助するもので、補助上限額は1,000万円です。廃業コストには、廃業登記や法手続費用、在庫処分費等が含まれます。この公募期間も5月上旬までとなっています。

*事業承継関係

 後継者不在に悩む経営者は、思い切った事業転換や新分野進出をためらいがちで、事業が低迷し、廃業を余儀なくされる場合もあります。しかし、適切な後継者の登用や事業拡大を図ろうとする企業とのマッチングが実現すれば、既存事業に縛られていた経営資源は再度、有効活用が図られ、第二創業への道が開かれます。
 そこで、後継者不在問題を抱える中小企業・小規模事業者がワンストップで支援を受けられる「事業引継ぎ支援センター」が全国に設置されることになりました。同センターで、問題解決に資する助言、情報提供及びマッチング支援等が行われ、事業引継や事業承継の促進・円滑化を支援します。既に4月時点で19都道府県に設置済みで、全都道府県に設置される計画です。鳥取県では公益財団法人・鳥取県産業振興機構が相談窓口を設けていましたが、今年度中に支援センターへ拡充される予定です。
 後継者問題に関連してやっかいなのは相続税・贈与税問題です。中小企業・小規模事業者は同族経営で、非上場企業の場合が大半です。事業が円滑に継承されるには、税制面の配慮が欠かせません。事業承継税制では、後継者(2代目)が、先代経営者(1代目)から一定以上の株式を取得し、経済産業大臣の認定を受けた場合には、後継者の相続税・贈与税の納税を猶予することができますが、今年の1月から後継者の範囲が親族外にも拡充されました。
 さらに、4月1日施行で、先代経営者が存命中でも、2代目から3代目に再贈与した場合、2代目が猶予されていた税額が免除される等の制度の拡充もなされています。

*「経営者保証ガイドライン」の利用促進

 最後に、「経営者保証に関するガイドライン」について説明します。本ガイドラインは、経済産業省と金融庁の関与の下、日本商工会議所と全国銀行協会を共同事務局とする研究会で策定され、すでにH26年2月から適用されており、目新しいものではありません。しかし、本ガイドラインは、経営者が廃業や創業を決意する場合、経営者の負担を物心両面から軽減する、重要な内容を含んでいます。
 企業が金融機関から融資を受ける際、担保として企業所有の資産だけでなく、経営者本人による個人保証も求められる場合が一般的でした。これに対し、本ガイドラインは次のように規定しています。

① 会社の経理と経営者個人の家計が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めない。
② 早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等を残すことや、華美でない自宅に住み続けられることなどを可能とする。
③ 保証人の資産では返済しきれない保証債務残高は原則として免除する。


 H26年2月からH27年1月までの1年間で、個人保証を免除・猶予した融資は、約4万6千件(政府系金融機関における実績)に上ります。最初の一年間の数字だけで評価するのは時期尚早ですが、一度起業に失敗しても、その失敗を糧に再チャレンジすることが社会的にも前向きに受け入れられるようになれば、若者世代や女性の起業家が大きく増えることが期待されます。中小企業・小規模事業者が、創業のみならず、事業転換や新分野への進出も行いやすいように、各種施策の使い勝手の向上や予算の拡充に努めてまいります。