安全な酸について記述すると約束していました。前回は東京での病院清掃について書いたので、約束違反になってはいけませんので、このテーマで記述しましょう。
この業界では、「洗剤は中性を使え!」と要求するオーナーサイドや場合によってはメンテナンス会社本部が未だに散見されます。弊社の人気商品「バイオボウル」を売り始めの頃(20年近く前になるかもしれません)は殆どの大手メンテナンス会社は「弊社は酸を使いません!」と言っており、実際に酸を使っていませんでした。当時の酸性洗剤は殆どが塩酸でしたので、扱いが難しく、失敗するケースが続出したからです。そこで知恵を絞って「バイオボウルは酸性洗剤(通常は塩酸である事を強調して)ではありません。クエン酸性洗剤です!!」などととぼけた言い方をして、間を取り、安全性を理解していただいたりしました。酸性洗剤には色々種類があるのです。
日常清掃で使用する酸性洗剤を構成する酸は
- 塩酸
- リン酸
- クエン酸
- 乳酸
などがあります。
塩酸は安価で強力なのが特徴です。これは取り扱いに注意が必要です。先ず、直接皮膚に触れる事は絶対に避けなければなりません。手袋は必須です。目に入る危険のある作業でしたら、ゴーグルやフェイスシールドも必要になります。衣服に着いたら直ぐに交換し、洗う必要があります。また、使用後直ぐに、大量の水を使い、洗い流してやる必要があります。放置してはいけません。特に陶器で使用した場合には30分以上放置すると、釉を傷めてしまいます。
酸性洗剤、特に塩酸ベースのものを使うには教育が必要ですが、ポイントを弊社では3つ挙げて、教えています。
- 酸は強酸、注意が必要
- 酸と言ったら、3~5分
- 混ぜるな、危険、酸と次亜
です。
1. の「酸は強酸、注意が必要」ですが、酸性洗剤は概ね原液使用です。その為、濃度も高く、pH値もかなり低く、取り扱いに注意が必要です。手袋着用は必須ですし、こぼしたような場合はすぐに拭き取りましょう。目に入る危険がある場合にはゴーグルも必要です。安全な中性洗剤を使うのとは異なりますので、注意しながら使用すると決意する事が大前提です。
2. 「酸と言ったら3~5分」ですが、酸性洗剤はアルカリ性洗剤と異なり(実際にはアルカリも少し時間を掛けた方が良いのですが)、効果を出すのに少し、時間が掛かります。毎日の作業では直ぐに流して良いのですが、ここ一発、効果を出そうというような場合(こびりついた尿石や錆び取りなど)は、塗布してから、少し時間をおいてから擦り洗いをする必要があります。最も効果的なのは10~15分と言われていますが、語呂の問題や後述する「30分以内に流す」を行う必要がある為、3~5分おいてから擦るようにしましょう。それを何回か繰り返しながら、汚れを落としていきます。但し(ここが非常に重要です!)30分以上放置しては絶対にいけません。ガラス質を傷めてしまう可能性があるのです。30分以内に水で流しましょう。これを「酸と言ったら3~5分」と言った言葉で、「少し時間を置く事、30分以上放置してはいけない事」を同時に覚えてしまいます。これを教えると、毎日の作業でも時間を置く必要があるのかと誤解する人が必ずいるのですが、毎日の作業で、いつも酸性洗剤を使っていれば、酷い汚れは着いていませんので、直ぐに流していいのです。ここは誤解しないようにしっかりと覚えましょう。
3. 「混ぜるな危険、酸と次亜」は酸を扱う以上、絶対に覚える必要があります。私達メンテナンスサイドで使用する場合の洗剤では、危険だったり、取り扱いに強い注意が必要なものはそれ程多くないのですが(他の業界に比べてと言う意味です。化学物質取り扱いには相当な注意が必要なケースが結構あります)、これは例外です。塩素系の漂白剤である次亜塩素酸と混ぜて使用しては絶対にいけません。次亜塩素酸は通常pH値を12程度の強めのアルカリにしています。中性(pH7)の水で薄める事で、塩素を発生し、分解していきます。その際に強力な殺菌作用や分解・漂白作用を発揮します。しかし、pH4~5にすると、非常に強い毒性の塩素ガスを大量に出してしまいます。pH7の水で薄めていればpH値は12~7の間にとどまりますが、酸を使うと一起にそのゾーンに突入してしまう事になるのです。危険性が高いのが風呂場です。カビ取り剤は次亜です。風呂の清掃には酸が必要です。次亜でのカビ取りと酸性洗剤をしようしての風呂の清掃を同時に同じスポンジで行えば、非常に危険なのは言うまでもありません。次亜塩素酸(通常は塩素系漂白剤・カビ取り剤)を使用する時は酸と一緒に使用しない事を必ず実行しなければなりません。風呂場の清掃は酸を使用する場合は、カビ取りを先にやり、清掃後、良く水で流します。次亜は水での分解が速いのが特徴です。タップリとした水洗いが必要です。そして、慣れていない場合は、酸性洗剤による浴槽や床の清掃を日を変えて実施しましょう。その方が安全です。もう一つの方法は酸性ではない、浴室用の洗剤を使用する事です。キレート剤が配合され、十分な効果を持っています。弊社で言えば「CDC-10」がそれにあたります。
これらの3つのポイントを教育では声を出して覚えてもらいます。声を出すことは非常に効果が高いのです。
塩酸以外にはリン酸、クエン酸、乳酸などがあります。これらは塩酸とは違いますので、使い勝手は優しく出来ています。リン酸はかなり強いもので、金属に使用した場合にはリンスに少し気を使う必要があるでしょう。また、環境上、問題視されるケースもあるかもしれません。クエン酸や乳酸は非常に安全です。行ってみれば、レモンの汁を扱うような物ですので。しかし長時間の放置はやはり好ましくありませんし、上記の注意を守りながら、作業をしましょう。
例)弊社製品では:
リン酸: 「フォーミィQ&A」(浴室用 除菌剤配合)
クエン酸:「バイオボウル」(トイレ用バイオ配合) 「レストルームクリーナー」(除菌剤配合)
メンテナンスを効率的に実践するには洗剤使用が欠かせません。そして、水回りでは酸性洗剤が必ず必要になります。その為には、教育をしっかりして、プロとして使いこなす事が必要です。それを避けるのはプロ的ではないと考えます。
長くなりましたので、安全な酸のそれ以外の紹介は次回にしましょう。沖縄出展と講習がありますので、時間が空くかもしれませんが・・・