ワックスの形成過程をもう一度載せます。
さて、触手乾燥は30分程度と前回書きました。水の蒸発によって、皮膜形成がされますので、扇風機を床に向けて、乾燥を促進する行為は非常に危険です。完全な皮膜形成を阻害する事があるからです。ポリマーをお芋に例えると、じっくり煮ないで強火で急ぐと中が生煮えになってしまうのと一緒です。不完全な皮膜やひどい場合には粉化の原因になります。扇風機を使用する際には床と平行に向け、空気を動かすイメージで使用しなければいけません。大切な事は完全な皮膜形成をする事です。しっかりした皮膜だからこそ、美しく、長持ちし、様々な効用があるのです。
また、全ての可塑剤が抜ける事を完全硬化と言いますが、これは通常1月掛かります。触手乾燥と完全硬化は全く異なるものです。米国製のワックスを使った事がある方なら、ワックス塗布すると最初の一月にブラックヒールマークが付きやすい(米国では耐スリップ性の基準が厳しいので付きやすいのです)ことをご存じのはずです。そうしますと、毎月の「表面洗浄+ワックス再塗布」と言う行為は、折角皮膜が完全に固まった時期にまた、新しい皮膜形成を行う事になりますので、アクリルの特性である固さを生かし切れていません。
即ち、毎月の定期清掃と言うのは、理屈から行くと合理的ではない事になります(手を加えるべきではないと言っているのではありません)。
また、最初にこのワックスはアルカリに弱いと書いておきましたが、定期清掃で使用する洗剤は通常アルカリ性万能洗剤になります。この洗剤はアルカリが結構強いのです(通常pH10以上)。そのアルカリを半乾きや手絞りのモップ2回拭きで除去する事は殆ど不可能です。アルカリは目で見えないので汚れが無いように見え、大丈夫と思って塗布するのでしょうが、pH試験紙で測れば、かなりのアルカリが残っているはずです。アルカリを上に載せたまま、それを蓋するように塗り重ねたらどうなるでしょう?完全な皮膜にならず、汚れを巻き込んだり、ブルドアップしたりの原因になってしまうのです。米国では表面洗浄後は通常の水拭き(Damp Mop=ダンプモップ)ではなく、Wet Mop(ウエットモップ)をします。これは、モップをバケツ内の水に漬け、そのまま床に水をこぼしながら拭き上げ、塗り広げた後で、そのモップをリンガーで絞りながら回収する行為です。通常のモッポングの2~3倍の時間が掛かります。Damp Mopでも、日本の水拭きよりも相当に水の量が多いのです。従って、現在のこの業界での定期清掃の請負金額では、この行為の実施は不可能です。請負金額が安価過ぎるので、早く乾くように、半乾きのモップで、2回拭き上げるしかないのです。そうする事で、ワックスの皮膜の完全形成を阻害し、剥離が早くなり、その処理の為にまた余分のお金が掛かるなどの問題を起こすのです。
こうした事柄を避けるために、弊社ではご相談を受けた際には、定期清掃に使うアルカリ性万能洗剤を最新のハイブリッド型で、環境対応のものに切り替え、ワックスの再塗布ではなく、補修材(光沢復元剤「バウンスバック」)の活用をお勧めしています。勿論、こうした事態を避ける方法は様々ありますので、具体的なご相談があれば、個々にご提示する事になるのですが、ともあれ、こうしたワックス自体の構成・性質、皮膜形成の出来方の特徴を掴むことで、このワックスの取り扱いの応用が利くのです。
「トライベース」 「バウンスバック」
今回のまとめでは、
- ワックスには完全形成が必要であること
- 日本でやられている定期清掃では完全皮膜形成を目指しにくい事
- 床洗浄後はアルカリ残留を絶対に起こさないような方法を取る事
- ワックス再塗布が無理な場合は補修清掃の方が合理的な事
を述べました。
これらの事柄は最初に書きました様に、ワックスの構造とその特徴、形成方法を理解していれば、容易に理解できるのです。その為の基礎教育がメンテナンスのスタートなのです。
次には汚れの絞り込みと現場管理の落とし込み方法について、伝説のインストラクター「リー=レマスター」の方法をお伝えする事にしましょう。