掃除とメンテナンス | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

「仕事でお掃除をする方の作業を楽にする事」が使命(ミッション)だと考えています。

 一般の『お掃除』から世界のプロが実践する『メンテナンス』の紹介をしています。

現在この業界での大きな問題点は賃金の上昇人手不足です。メンテナンス業は支出の80%~90%が人件費かその関連費用ですので、賃金の上昇はすぐに業績に響く事になります。人手不足が問題になるのは言うまでもありません。その為生産性の向上が欠かせませんが、この業界での生産性の向上は作業時間の効率化に他ならない訳です。

そうした事態へのご提案として、常に科学的清掃「メンテナンス」を訴えているのですが、その理解に大きく立ちはだかるのが日本の「掃除」になります。今回はそれについて考察したいと思います。

良く説明に使うのは「お掃除は文化」で「メンテナンスが技術」という説明方法です。

掃除は世界各国どこでも行われており、人が生活するうえで、欠かす事が出来ません。衛生的に快適に過ごそうとしたらならば、お掃除をしっかりすることが必要になります。しかし、昔からあるお掃除は様々な経験を経る事で、伝承されてきており、正しいお掃除方法は一つの文化になっています。その国や地方の住生活環境に合わせ、適正な方法が伝承されてきたのです。我が日本では、下足(家の中で履物を脱ぐこと)の文化というのが大きな特徴になっています。また、家自体が、木と紙や植物繊維(畳)でできているという事も特徴の一つです。特徴として、風通しがよく、床は泥だらけになるという事はありません。石や煉瓦作りで土足のが生活様式の様に、室内のホコリに悩まされる事が殆どないのです(敷物をすればこの傾向は更に強くなります)。また、油を多く使用するという事があまりないので、洗剤の必要性(油汚れは水では落ちないので)がないのです。

水が豊富で奇麗なのも大きな特徴になっています。日本人は水を穢す事を本質的に嫌います。100万都市の江戸で江戸前の寿司が食べられたのは(刺身が食べられたとしてもいいのです)、排泄物を肥に溜め、肥廻船で上流に運び、肥料としてリサイクルするというシステムを作り上げ、無秩序に川に流さなかったので可能になったのです。

また、和食の板前の仕事を見ていると、掃除が徹底しているのと、始終手を洗っています。こうしたことがあって初めて、生魚を食べる「日本食」が世界文化遺産になっているのでしょう。水洗いや水拭きを徹底するという事が衛生的な「お掃除」の大前提になっています。

世界で微生物がパスツールによって発見されるのは19世紀の後半です。それ以前は感染や食中毒のメカニズムが分からなかったわけですので、伝承によってそれを防ぐ方法を作り出していたのです。

こうした事から幾つかの特徴があります。先ず、隅にこだわります。室内の汚れは風通しが良いので汚れは移動し、隅に集まります。掃除をする際に広い部分だけをやり勝ちになりますが、人の目は隅もしっかり捉えますので、隅が奇麗でないと、室内が清潔に見えないのです。実際的にも隅に汚れが残っている状態は好ましいものではありません。

もう一つが、「目に見えない所も奇麗にする事が大切」と言う事です。これは主に上記厨房の文化で、微生物が汚れにはいますので、非常に重要なのです。

繰り返しますと、

  1. 水を使用すること
  2. 隅にこだわる事
  3. 見えない所も奇麗にする事

これらは、どれも非常に重要なのですが、仕事で清掃をする際には、少し事情が異なります。時間や予算の制約がありますので、科学的に、効率的に、論理的に組み立てる必要があるのです。

科学的清掃「メンテナンス」は今から半世紀程前、アメリカのこの業界での大きな変化が発祥になっています。かのイーロン・マスクが「技術は時が経てば自然に発展するものではなく、技術者が必死になって進めて初めて進展するのだ」と例をエジプト・ローマ・米国を例に言っていますが、その言葉に感銘を受けると共に、その通りと感心しました。このブログでも何度も書いていますが、当時大手メンテナンス業者(ジャニタリーサービス)が、競争に勝つために、MBA(経済学修士)を雇って運営させるという事が流行った事に端を発しています。彼らがこの業界の業務を徹底的に科学的手法で運営し、そのシステムが非常に優れていたことから、全米から全世界を席捲したのです。掃除は上記の様に文化ですから、各国それぞれ異なるものの、どの国でも概ね作業時間の三分の1を削減したと言われています。この波が日本に来なかったのです。

メンテナンスには様々な種類があります。トイレメンテナンス、カーペットメンテナンス、ワックスメンテナンス・・・それぞれ全く異なります。しかし、考える手法と順番は同じです。

  1. 素材を知る
  2. 汚れを絞り込む(汚れのターゲティング)
  3. 正しいメンテナンス方法を知り、実践する

メンテナンスの世界は非常に情報がオープンです。様々な建材が毎年の様に飛び出すことから、技術情報はオープンにし、運用で競争するという世界観が出来上がっていますので、技術情報は取る気になれば、楽に取得できるのです(英語ベースですが)。

また、汚れを落とすには

物理的力+化学的力

のバランスが大切ですが、日本では上記の様に「水神話」があることから、洗剤の使用が極端に少ないのです。あるデータでは日本は自分以外の洗浄剤はヨーロッパ先進国の2.5分の1となっています(自分に使う石鹸やシャンプーは風呂好きなことから、ヨーロッパ標準を軽く上回っています)。これでは欧米に作業性で勝つことは不可能です。

もう一つ大きな特徴はデータを重視するという事です。各種の清掃方法の標準時間が協会によって発表されていますので、それをベースに自分の位置や、相談事・見積等がフラットな状態で可能になっているのです。

ISSAデータ例 一部:

メンテナンス実践で重要な事として、

  1. 常に世界のメンテナンス情報をチェックする
  2. 世界基準であるかどうかをチェックする

右矢印様々な発明が出ては消える世界

の2点を挙げておきます。私達の職業は世界中で実践されており、世界的に自分達の立ち位置を意識する事、そして、この業界では毎年様々な新技術が出現しては消えていきますが、対象となる技術や商品が世界的に認められているものかどうかをチェックする癖をつけておくことも重要です。世界的な情報が入りにくい我が日本では、思わぬ思い込みで、世界標準とかけ離れてしまう事が、少なくないからです。

若い方と話をする機会があると、必ず世界を見ることを薦めています。野球やサッカー、ラグビー等のチームスポーツが嬉しいことに世界で十分な活躍をしていますが、これは選手が直接海外へ出て、その情報や技術を自身で取得することで達成しました。少し前までは、自分達の体形・体格を理由に諦めていたにも関わらず。素晴らしい歴史や文化を持った私達は世界に目を向け、直接チャレンジすれば、必ずや大きな成果を得るだろうと思っています。

日本の掃除自体は素晴らしい文化ですが、職業として生産性向上を目指すならば、メンテナンスが必要です。