メンテナンス教育について①「差を理解しよう=ワックス管理を例にとると」 | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

「仕事でお掃除をする方の作業を楽にする事」が使命(ミッション)だと考えています。

 一般の『お掃除』から世界のプロが実践する『メンテナンス』の紹介をしています。

しばらくブログを休んでいました。色々やる事が迫っていたり、ある掲載誌(3回連載予定)の最初の貢に時間が掛かかったりしていましたので。

さて、今の私自身の大きなテーマの一つは教育です。講習会を各地で実施していますが、時々勉強方法を尋ねられるのですが、上手い答えが中々出来ないのです。わが日本は大変素晴らしい国なのですが、島国であるという事と、英語が日常的に使用されることが無い(英語放送が地上波でないという意味です)為、ともするとガラパゴス化してしまうのです。私達のメンテナンスの世界も同様で、これのギャップを埋める事が大切だと考えます。

先ず、清掃を仕事とする業界は世界中にありますが、世界(特に欧米と先進国)は、情報や技術が流通しています。私の会社(株式会社アムテック)は東京のビルメンテナンス協会の賛助会員ではありますが、米国のISSA(International Sanitary Supply Association)のメンバーです。ISSAはアメリカ大陸をカバーしており、それ以外のヨーロッパ・オセアニア・東アジアはInter Clean の守備範囲になっています。しかし、この動きに、我が日本は入っていません。東アジアではシンガポール・ソウル・上海・北京は加わっているのにも関わらず・・。

世界的に職業として行われている科学的清掃「メンテナンス」は今から40年以上前に米国でスタートし、世界へと広がったのですが、この動きにわが日本は加わっていません。一例を挙げてみましょう。日本で行われているビルクリーニング技能士の試験項目の「ワックス再塗布洗浄」も世界のプロから見れば、大いなる異論が出る事でしょう。世界では、単に床洗浄とワックス塗布を早く、奇麗に仕上げるという事を重く見るという事はありません。それよりも、ワックスがどういうもので、どういう構造で、どういった特性があるかを先ず知るべきと考えます。その上で、どういう管理方法が適正なのかを教えるのです。日本は見た目で判断・判定するのに対し、世界では原理原則に則った行動を重視します。もう少し説明を加えましょう。

先ず、ワックスは水性のアクリル樹脂ですので、皮膜形成の方法は、ワックス内の可塑剤が、床に塗布されることで、水分が蒸発し、可塑剤の濃度が上がることで、ワックス内のポリマーを溶かし、それによって一枚の奇麗なフィルムになるのです。従って、扇風機の使用は非常にデリケートな問題になります。床にあてて早く乾燥させてしまうと、煮物で言えば生煮えの状態になってしまうのです。ひどい場合には粉化を起こしますが、そこまで行かずに見た目にはわからないが、フィルム形成が完全でないケースというのが一番困ります。段々ダメになっていくからです。

また、ワックスはアルカリに基本的に弱い構造になっています。現在のワックスは金属架橋が、アルカリで崩れる構造になっています(従って、高アルカリの剥離剤で簡単に除去できるのです)。そうしますと、アルカリ性万能洗剤(=表面洗浄に使用します。結構アルカリが強いのです)を使用して、床洗いをした場合は、相当量の水を使用してリンス拭きしないと、アルカリ分が残ってしまいます。半乾きのモップの二回拭きでは足りないのです。残ったアルカリ(見えません)の上にワックスを再塗布してしまうと、ワックスのフィルム内にアルカリを抱えることになり、皮膜が弱くなり、獣道の原因になったりします。即ちワックス管理はただ表面を削って、ワックスを塗るという感性だけではなく、ワックス自体を自分の資産と考え、それをしっかり作り、維持すると言う事でうまく運営できるのです。ここの所をしっかりと頭に入れておかないと、ワックス管理は上手くいかないのです。

先ず、皮膜形成を完全にする事を、出来るようになってから、その後維持方法を覚える必要があります。床の洗浄、自動洗浄機の使い方、パットの種類、日常清掃用の洗剤の選定と希釈方法、床のバフィング、バフマシンとパッドの種類の選び方、床の簡易補修方法(パッチング等)、光沢復元剤とその使用方法、リストレーション(補修復元作業)・・・、そして剥離洗浄とワックス層再構成へと繋がっていくのです。

こうしたことを断片的にではなく、包括的に教育していく必要があるのですが、それを実施する機関がないのです。

一例をワックス管理の一部を使って説明しましたが(その他にも、ワックスの適正濃度、高濃度ワックスの特徴と注意点、環境対応ワックス・・等結構あるのです)、その他様々なメンテナンスについて、それぞれ教育とトレーニングが必要となるのです。

先ず、第一歩として、掃除とメンテナンスの違いをはっきり認識する必要があります。掃除は文化ですが、メンテナンスは技術です。文化は様々なものがあっていいのです。しかし、技術にあるのは「差」なのです。底辺を占めるのは科学です。ここにあるのは、進んでいるか、遅れているかです。この事実に気付く事がスタートラインと言えるでしょう。