一般講習を先週末に東京で始めました。この講習がこれから全国各地で行う講習の基本になります。生産性を向上させるには、掃除を科学的に捉える事が必須です。従って最も頭を捻っているのが、世界で行われている科学的掃除「メンテナンス」をどう理解し、納得してもらうかです。何度もこのブログで強調していますが、一番の問題は我が日本のガラパゴス化なのです。今、世界の先進国ではメンテナンス情報は共有されています。米国を中心に、アメリカ大陸を網羅するのがISSA
(International Sanitary Supply Association)で、それ以外のヨーロッパとオセアニア、東アジア(シンガポール、中国、韓国)をカバーしているのがINTER CLEANです。ISSAは毎年米国各都市が持ち回りで大会を開いており、INTER CLEANは隔年アムステルダムで、定期的に東アジアで、大会が開催されています。こうした中では、メンテナンスの基本的な技術は共有されており、その差は進んでいるかどうかの違いだけになります。お掃除を科学的に捉え、その情報を広く共有するという姿勢は一致しています。
この流れが残念な事に我が日本には来ないのです。従って、様々な所で、日本独自の解決方法が模索され、それが為に生産性において世界に離されていき、作業員にとってもお掃除が楽にならず、会社にとっても業務改革がままならないという状況になっています。
そもそも論ですが、業務を科学的に捉え、合理化すると言う姿勢は米国に端を発しています。経営論を紐解くと、最初に登場してくるのが、フレデリック・テイラーで、眼病の所為で、ハーバード大を中退し、製鉄会社に勤めそこで作業を徹底的に分析し、組み立てなおす事で、大幅に生産性をあげ、その主張を広げていきます。その後、その流れがかのヘンリーフォードへと流れていき、オートメーション加工として大きく花開いて行きます。19世紀末から20世紀初頭の事です。こうした流れはその後生産工場では当たり前の事として様々な変化・進化をしながら繋がれているのは今更説明の必要もありません。
こうした流れを、清掃の世界で始めたのも、やはり米国だったのです。恐らく1980年頃(もう少し前かもしれません)に、米国の大手清掃会社が、競争に勝つために、MBA(経済学修士)を雇い、作業効率を上げると言う事を始めたのです。A社がやれば、B社も負けずに、そしてC社も・・と言った具合で、米国内で最高の教育を受けた人材を投入し、生産性を上げるという大きな動きがあり、一気に業界が効率化し、高度化したのです。
そして、米国の企業はどの業界も世界進出を狙いますが、当業界も例外にもれず、この最先端技術が世界に広まっていきます。清掃を科学的に捉えると言う事で、彼らは従来のクリーニングからメンテナンスと自分達の行動を名付け、広げていきました。米国の古い人にとって(私位の歳という意味です)メンテナンスと言えば、クリーニングと違って科学的ニュアンスがあると言う事になるのです(今の若い人にはごく当たり前の響きになっているでしょうが)。メンテナンスが世界に広がったのは、どこの国に行っても、概ね従来の作業の3割は作業時間を削減できたからでした。
この流れが残念な事に我が日本に中々入らないのです。しかし、逆に考えれば、それを上手く取り入れれば、圧倒的な差別化が出来る事になる訳で、それをどう理解してもらうか、納得してもらうかに頭を捻っていると言う事です。
メンテナンスの特徴の一つは結果が直ぐには出ないものが多いという側面があります。カーペットを例にとりましょう。カーペットメンテナンスで最も大切なのは土砂の除去です。土足で歩けば、土砂がカーペット内に入り込みます。土砂はヤスリと一緒ですので、やがてパイル(毛)を傷めてしまいます。従って、カーペットではバキュームが欠かせないのです。しかし、土砂はパイルの中に入っていますので、目に見えません。汚れが見えないのです。見えないものに対処するというのは、なかなか大変です。見えないものの、「パイル内に土砂が存在するはずで、それを除去しないと直ぐにパイルを傷めてしまう」と言う事を理解し、それを実践しない事の問題も認識している必要があります。従って、その場所にバキュームを掛ける事のトレーニングや決め事、行ってみれば知的な行動が必要になるのです。そうでなければ、数週間後、数か月後に、汚れがひどくなり、年単位ではカーペットの交換になってしまうでしょう。即ち、結果が出てくるのに時間が掛かるのです。目で見て直ぐに分かるケースだけではないのです。しかし、時間経過を経て、その違いは必ず起こるのです。
メンテナンスは上記の様に、問題点を知的に科学的に捉える物です。そして、上記のカーペットメンテナンスを更に効率化していくにはカーペットはその構造が三次元ですので土砂が動きません(通常の床では汚れは移動し、隅によるのです)。従ってバキュームは隅から隅まで一律に掛けるのではなく、パス(path=人の通る道)を中心に掛けます。また、土砂は最初の3.6m~4.5m(12~15フィート)で、靴の裏の土砂の85%が除去されるというデータがありますので、マット管理をしたり、出入り口部分のバキュームを良く掛けると言った事をして行く必要があるのです。
メンテナンスはそれぞれやり方やポイントは異なりますが、
1.素材を知る
2.汚れを絞り込む
3.正しいメンテナンス方法を知り実践する
と言う原理は変わりません。
こうした事を理解し、実践する事が生産性向上につながるのだと確信しています。