洗剤は希釈が重要「臨界ミセル濃度」Ⅶ
洗剤使用に当たっての重要事項で、ファインミストの除去をやりました。今回はもう一つの大きなポイント「臨界ミセル濃度」です。
プロ用の洗剤は概ね希釈して使いますが、正しい希釈が非常に重要です。洗剤には図のイメージグラフの様に、希釈のベストポイントがあります。薄過ぎると効果が少なく、段々とベストポイントに近づき、それを越すと、いくら濃くしてもあまり効果が変わらないのですが、そのベストポイントが「臨界ミセル濃度」です。実は各メーカーともに、このベストポイントで、その洗剤の効力が100%出るように設計しています。プロ用の洗剤が非常に種類が多いのは皆さんご存知ですが、プロにとって、最も必要と思われる特徴を出そうと各メーカーが必死になって特徴付けをしているのです。弊社の万能洗剤2つを例に取りましょう(ほかにも沢山あるのですが)。
最初の写真(上の写真)「マルチサーフィスクリーナー」(pH11)と言う万能洗剤です。この洗剤の特徴は1:50で希釈して使うと(ここがこの洗剤のベストポイントなのです)、ワックスの光沢を落とさずに、汚れだけ落とすのです。万能洗剤の使用用途の一番は床管理で、ワックス管理が主戦場になります。現在の樹脂ワックスは半世紀前に米国「ローム&ハーズ社」が開発した「剥離可能な水溶性樹脂金属架橋型」をベースにしており、基本構造は変わっていません。簡単に言えば透明な水性ペイントなのですが、金属(最初は亜鉛でした)で架橋しており、それが高アルカリで架橋が崩れると言う構造です。高アルカリを使えば、床から完全に剥がす事が出来るので、床用ワックスとして最適で世界に広まったのです。簡単に言えば、アルカリに弱いのです。そこで、床が汚れて来たら、アルカリ性の万能洗剤を使用して床を洗います。洗剤は汚れを取ると同時に、ワックスの表面を少し溶かします(光沢が落ちます)。そこで、ポリッシャーと言う床磨き機で床を擦るので、汚れが良く落ちると言う仕掛けになっています。アルカリ分を落とすべく水をタップリ使って中性にしてから乾燥させ、新しいワックスを塗り、元の光沢に戻すと言う作業になるのが一般的です。ついでに、この清掃方法(定期清掃と言います)を繰り返し、ワックス自体が黒ずんできたら、塗り重ねて来たワックスを完全に取り去る剥離清掃(お金と時間が掛り、環境にも配慮が必要です)をする事になります。
さて、上記の様に通常の万能洗剤で汚れを落とそうとすると、汚れは取れますが、同時に光沢も落ちてしまいます。
「マルチサーフィスクリーナー」は1:50で希釈すると、汚れは良く落とすのですが、ワックスの光沢を落とさないのです。これが大変なメリットをもたらします。日常的な床管理に使えば、ワックスを塗っている床にも安心して使えます。通常の万能洗剤では使用したところの光沢が落ちてしまいますので、ワックス再塗布か又は高速床磨き機でバフィングしてやる必要が出てきてしまいますが(それだけ手間が掛る=お金がかかる)、これであれば、汚れを取って、水拭きしておけばそれでおしまいという事になるのです。定期清掃をこれを使用すれば、洗浄後も床の光沢が落ちませんので、ワックスを1層塗布するだけで、光沢が大変出る事になります。
もう一つは「パスメーカー」(pH12.1)と言う万能洗剤です。1:40がベストポイントです。この洗剤はワックス管理(定期清掃)をする際に、ディープクリーニングが可能なのです。定期清掃をする際に、床の汚れが酷く、通常の定期清掃ではあまり効果が無いと言うケースが良くあります。しかし、剥離清掃にはまだ早いと言う段階です。こうした際には通常の定期清掃よりも、堆積したワックスの層を深く削りたいのですが(ディープクリーニング)これが中々難しいのです。均一にワックスを溶かしてやる必要があるからです。洗剤が適正でなかったり、技術が不足していたりすると、ワックスが薄い所と厚い所と言った差が出て、却って見苦しくなってしまうのです。この洗剤の素晴らしい所はそれが可能なのです。もう一つは自動洗浄機に入れて定期清掃ができる事です。自動洗浄機はポリッシャーよりも床に対して圧力が軽くなっています(毎日使用するので、当りが軽くなっています)。その為、擦る力が弱いので、定期清掃には向かないのですがそれを可能にしました。定期清掃を自動洗浄機で出来れば作業効率が大幅にアップするのは、メンテナンスに携わる人には誰でも容易に理解出来る事です。
この2つは説明したように非常にユニークで、大きな特徴を持っています。しかし、希釈を厳密に守ってくれるという事が前提になっています。プロ用の洗剤はこうして、各メーカーそれぞれ、お客様に購買してもらおうと特徴付けをしています。皆さんも洗剤を買う際には必ずその洗剤のベストの希釈率とその際の特徴を確かめる事です。言ってみれば、非常に有効なクーポン券がタップリついているのがプロ用の洗剤なのです。利用しなければ大損をしてしまいますし、競争にも負けてしまうでしょう。
良く、新人の方から「洗剤使用で最も大切な事は何ですか?」などと聞かれることがありますが、そうした際には「RTU(Ready to use=希釈しないで使用する)の洗剤からお使いになる事です」と答えます。稀釈しないでそのままつかえますので、洗剤の特徴をすぐに実感でき、洗剤との距離が近くなるからです。洗剤の使い方が上手くなれば、技術の上達速度が飛躍的に高まります。そもそも、本来はメーカーサイドもRTUで売りたいのです。稀釈による間違いがありませんので。しかし、こちらもプロ、相手もプロ、水は世界中どこでも同じものと言う前提で、濃縮タイプにして販売しています。その方が圧倒的にコストが下がるので、双方に都合が良いからです。稀釈の重要性はいくら繰り返しても、繰り返し過ぎる事はありません。洗剤使用は「正しい所に正しい洗剤、正しい希釈で」が基本です。
「正しく希釈する」・・・・科学的清掃「メンテナンス」をする際の避けては通れない道です。