場所は小田原駅の夜行列車。当たりは一車両に十数人ほどだろうか、
すいていたのでそれぞれ一席づつ距離をあけて座っていた。
「ねえねえ、聞いた?たかこちゃんが告白されたんだって」
「告白って誰に?」
ちょうど斜め前に座席に座る大学生らしき女性二人組の会話から何やら
恋愛話らしき話題が聞こえてきた。
そんな話を横目で聞きながらぼんやりと陽太郎は夜の雨を見つめていた。
時間は夜の11時30分。まもなく夜行列車が出発する。
一度出発したら静岡までノンストップだ。なんだか気持ちがワクワクしてきた。
夜行列車というものに乗ったことがなかった。夜通し走り続けて夜が
あけたら別の世界に到着するという展開に期待感を持っていた。
一方、そんな中で眠れない夜を過ごしそうな陽太郎は頭の中で恋愛のことで
いっぱいだった。
恋愛って一体何なのか? なぜ人は人を好きになるのか?なぜ人は人を
傷つけるのか?これまで陽太郎は恋愛についてここまで深く真剣に考えた
ことはなかった。
実は、彼がこの夜行列車に乗るのにも、そして恋愛について深く考えるのにも
深い訳があった。
雨は次第に強さをましていった。
その一定の雨音が次第に頭の中に、こだましてある記憶をよみがえらせた。
それは今からちょうど半年前のことだ、陽太郎は大学卒業前に同じ
コンビニチェーン店でアルバイトをしていた伊藤ミアという女性と付き合っていた。
大手コンビニのラーソン高円寺店は北口と南口に一店舗づつ構えている。
陽太郎の自宅のある北口に勤務していて、伊藤ミアは南口にいた。
二人の出会いは突然に訪れた。
ある冬のクリスマスイブの勤務の日、陽太郎は北口店長から南口店長からある
ファイルをもらってきてほしいと頼まれて、 南口へ使いへいったのだった。
到着してからすぐ、レジにいた店員の女性に声をかけた。二十代前半だろうか。
陽太郎と同年代に見えた。ちょっと小柄でぽっちゃりしていて陽太郎の好みのタイプ
だった。それが伊藤ミアだった。
「すみません、南口店から来ました小林と言いますが、店長さんはいらっしゃいますか?」
「あ、いますけど。今、ちょっと手がはなせませんね。 」
「そうですか、ちょっと待たせてもらってもいいですか?」
「あ、だったらちょうどいい、待ってる間にレジをやっていてもらっていいですか?」
「え?」
突然の依頼に不満そうにつぶやくがその暇もなくすぐに伊藤ミアは消えていなくなった。
レジにはたくさんの人だかりが並んでおり、またタイミングよくラーソンの上着
もおいていってくれた。
客のいらだちを感じ取った陽太郎は仕方なく慣れた手つきでレジをうちはじめて
客をさばきはじめた。
「なんで俺は南口で仕事をしてるんだ?」自分に問いかけたが、その前に客を
さばくことを優先した。
ちょうど最後の人が終わったときに、ミアがタイミングよく顔を覗かせた。
そしてミアに対して陽太郎は言った。
「っていうか、いきなりなんなんだよ。なんで俺が急にレジをやらせれるのかわかんないよ」
するとミアが答えた。
「ごめんごめん。漏れそうで、相当我慢してたんだ。店長は電話中で変わって
くれないから。すごい助かったよ。」
陽太郎はようやく事態を理解して頷いた。
「そうならそうと一言いってくれたらいいのに」
「もう一言でもしゃべったら、もれちゃいそうだったのよ」
笑いながらミアはベロを出して言った。
「だって、本当にやばかったから」
二人は見つめあって笑い合った。
そこへ南口の店長がやってきた。
「なにやってんだお前ら?」
二人は笑顔になった。
それからだった。ミアと陽太郎の付き合いがはじまったのは。
土曜日は二人ともシフトがないので、中野のブロードウェイを歩いた。
今日は何かお目当ての買い物があるとかで、洋服店にでも立ち寄るのか
と思いきや、到着したのは食器店だった。
「何それ?茶碗?」陽太郎が聞く。
「そう」
ミアは500円で購入していた。
そして包みももらわずにすぐにハンドバッグにしまう。
帰りは中野のランチを近くの定食屋で取ることにした。
すると、ミアは先ほどしまった茶碗を取り出して、除菌シートで丁寧にふいて
使いはじめた。思わず陽太郎はつっこみをいれる。
「なぜ茶碗を取り出すの?ここはレストランだよ。茶碗ぐらいあるよ」
「今日ごはん食べるでしょ。マイ茶碗が必要なのよ」
「マイ箸は聞いたことがあるけど、マイ茶碗はあまりない。」
「この茶碗はね。表面が凸凹していて。ごはんつぶがつきにくい加工を施しているのよ。
「どうして意味が分からないよ。」
「もしかしてあなたはごはんつぶ残す人?」
冗談か真剣か分からないほどまじめそうにミアがいう。
「私は秋田出身なの。ごはんは農家の人が命をかけて大切に作ってくれたから、
粒まで食べるのが私のポリシーなのよ。ごはんつぶ残す人はきらい」
「あ、俺は残さない人だよ。」
「私が今、注意したからでしょ。言わないで試すべきだったわね。失敗した」
ミアが注意しなければ陽太郎はごはんつぶをおそらく残していたと
思っていたので、正直助かったと心の中で肝を冷やしていた。
一見軽そうにも見えるが、ミアは農家のことまで考えてまじめな
ところがかわいいと感じていた。
確か、ミアとつきあって間もないときに、似たようなことがあった。
陽太郎が熱を出して風邪を引いたときのこと、ミアは陽太郎の家まで来て
くれて、近くの自動販売機のCCレモンを10本ほど買ってきて、それを一本
一本腕でこすり、「今、これに私の愛情を注入しました。これで直ること間違いない」
なんて言ったこともあった。そんな行動が陽太郎をめろめろにさせていた。
そんな順調に付き合いが続いてきた三ヶ月後のこと、
ある事件は起きた。
陽太郎は大学を卒業して自動車部品会社に就職を決めた。大事な社会人一日目
はしっかりと睡眠を取りたいと考えて人生ではじめて携帯の電源を切って
寝ていた。いつも陽太郎はミアとのメールのやりとりを遅くまでやっているため、
常に携帯はつけっぱなしなのだ。
そんなときにタイミングの悪いことがやってくるものだ。
一晩ねて、起きてみると。メッセージが入っていることに気づいた。
留守番電話が10件も入っていたのだ。すべてミアちゃんだった。
メッセージを聞いてみたが、どれも何も言葉は入っておらず無言だった。
なんとなく向こうしくしく泣いているような声が入っているが定かではない。
その日の晩のこと、ちょうどミアちゃんが入っているシフトだったので、
帰りにコンビニによってみることにした。しかしミアちゃんは休みだった。
そこで家までいくと、玄関まで出てきた。
「あ、ミアちゃん昨日は電話くれてありがとう」
「ああ、ううん別にもういいの」
「どうしたの?何かあったの?」
「もう大丈夫だから」ミアは小さくかぶりを振る。長い前髪が風に流れる。
彼女の目がどうも腫れぼったく見えるのは気のせいだろうか。
「どうした具合でも悪い?」
するとミアはびくりとおびえた動物のように動いた。
秋田出身の白い肌がよいいっそう血の気を失うように白くなった。
どうしたのだろうか。陽太郎は何か異変を感じていた。
「ミアちゃん?」
と呼ぶかけようとしたら、そのままミアちゃんは
「ごめん忙しいから」と言ってドアを閉めてしまった。
陽太郎は先日のミアの行動に異変を感じたままだった。
そこで先日高円寺の阿波踊りの合同コンビニ出店で知り合いになった
南口店の知り合いに連絡をしてみことにした。
「ああ、陽太郎です。先日はどうも」
電話の相手は鹿取といった。鹿取は南口店の店長代理をしている人で。
ミアの上司にも当たる。
「実はミアちゃんなんですけど、様子がおかしくて心配で連絡したんです」
「ちょっと具合悪くてさ、今日も休んでるんだよね」
「そうですか、何か他に聞いてませんか?」
「まあね」
鹿取も何か言いにくそうだったが、電話上でそれをつっこむのも変なの
であえなく辞めて受話器を切った。
ふうと息をついて、陽太郎は唇をかむ。彼は何か心配ごとがあると昔から
よく唇をかむ癖があった。
それから一週間たったが、ミアちゃんはコンビニのバイトも休み、
電話も取らない。陽太郎は不安を感じたので思い切ってミアちゃんの家を訊ねた。
彼女のバイクは家の外に止めてあるので、家の中にはいるようだった。
呼び鈴を何度か鳴らすが出てこない。電話も取らない。
どうやら居留守を使っているようだ。
これ以上は迷惑がられるだろうと考えて、
近くのコンビニまで走り、ミアちゃんの好きなCCレモンを10個ほど買って
「元気を出して勇気を注入」とメモを書いてドアノブにぶら下げた。
しかし2週間たってもミアちゃんからまったく返事がなかった。
ミアちゃんに会いたいと想い続けたが、何も音沙汰もない。
あの日の携帯の電源を切っていたことの後悔が何度も襲ってくる。
どうして、あのときに。いったいなんの電話だったんだ。きっと
あの日に何かが起きたんだ。
すると突如、携帯電話が鳴った。
表示画面を見たら「鹿取さん」と書いてある。
「もしもし陽太郎です」
「ああ、鹿取です。今日時間とれるかな?」
「はい、大丈夫です。」
「実は、ミアちゃんずっと休んでいたんだけど、今日正式に辞めちゃってさ。
ちょっと陽太郎君と話したほうがいいと思ってね。」
「分かりましたどこで会いますか?」
鹿取と駅前の貴族喫茶という喫茶店で待ち合わせをした。
狭い階段をあがった先にあるこの店はジャズ喫茶で有名だった。
ミアとも何度か訪れたことがある。陽太郎もジャズが好きなので
このコーヒーが好きだった。
どうやら先に陽太郎が到着したようだった。先にコーヒーをオーダーする。
5分後にはコーヒーが運ばれてきた。
手元のカップを手にとり、熱いコーヒーを一気に流し込む。急にカフェイン
をとったせいか頭がなんだかびりびりしている。
一体どんな話が出るのだろうか。この2週間ミアちゃんのことばかり考えて過ごしていた
目の前に彼女の現れてはそしてまた消えていった。
5分後に鹿取が現れた。
「やあ、元気?」
「はい、おかげさまで」
「仕事も順調みたいだね。どう社会人は?」
「そうですね。やっぱり思ったようには行きませんね。とくにコンビニのときは
お客さんの顔が見えたけど、今の自動部部品の仕事はお客さんが見えなくて。」
「なるほどね。君は焼きそばをお客さんに売ったりするのが好きだったよね」
「はい」
「北口店長が君がいないと北口店はまわらないっていっていたよ。」
鹿取はやってきた紅茶に息をはきながら冷めた部分だけをすすりながら飲む。
「いただきます」小さな声をだして飲み始めた。
「でね、話というのは、ミアちゃんのことなんだけど、君は付き合いをしていた
らしいから一応いっておこうと思ってね。彼女は2週間前の夜にストーカーに
襲われたんだよ。知ってた?」
「いいえ、知りませんでした。それって4月7日のことですか?」
「ああ、確かそうだよ。」
やはりあの入社式の前日の夜のことだった。
「それはどういうストーカーだったんですか?」
「実はミアちゃんはストーカーにつきまとわれていたみたいでね。どうも相手は
以前につきあっていた彼みたいだ。あの日は後ろからバイクで襲われて。」
「それでミアちゃんは怪我をしたんですか?」
「いや、後ろからかばんを取られただけみたいけど、精神的にきついよね。
俺と俺の彼女で彼女の家に2日ほど泊まってあげたよ。
以前から手紙とか取られてどうやら同じ犯人みたいだ。どうも以前から
つきまとわれたりしたみたいで、彼女はそのままコンビニも辞めたみたいだ。
どうも以前、コンビニに来ていた客だったみたいだな。
ミアちゃん人気ものだったからな。」
「そうですか、知りませんでした。なぜ言ってくれなかったんだろう」
陽太郎は事件のことよりも、自分に一言も言ってくれないことがショックだったのだ。
「俺が思うに、きっと君に嫌われたくないからじゃないかな。実はこの件を店長に
話したら、逆に店長がミアちゃんに「お前が八方美人だからストーカーが
ついたんだっていったんだ。
「それってひどくないですか?」陽太郎が答える。
「いや、実は、同じような被害が今まで7件もあったらしい。つまりすべて全員
つきあっているようなことを男は言っているらしい。もちろんミアちゃんには
自覚はない。ひどいな。でも、実はミアちゃんは確かに明るくて誰にでも
声をかけるから。でも誰にでも好きになられるそぶりをふりまいていた
のは確かだ。俺にだってそんなそぶりをしていた。勘違いをされてしまった
というのは否めない。彼女自身も思い当たるふしがあるから君にもそういう
指摘をされるかもしれないと怖かったんじゃないかな。言い方は悪いが、
君ももしかしたら被害者の一人なのかもしれないぞ」
「そんな」
「まあ、深く考えるな。でもいずれにせよ。彼女は大丈夫だけど、彼女から
気持ちが出てくるまでそっとしておいてあげたらどうかな。」
「わかりました。」
正直、鹿取さんの話はショックだったが、陽太郎は自分がミアを好きなことには
変わりがないので、今度連絡が来たら彼女に明るく接しようと考えていた。
もうすぐ彼女の誕生日なので、陽太郎は彼女が行きたがっていたレストランを予約していた。
それから一週間後、とうとうミアちゃんから連絡が来た。
「久しぶり」
「元気してた。今日はある店を予約したからそこへいこうよ。」
「ああ、う、うん。」あまり気乗りじゃない様子に見えたが陽太郎はきちんと
気持ちを確認するのが怖かった。
そこは前からミアちゃんが行きたいといっていた高級イタリアンレストランだった。
「まさか、ここって」ようやく彼女も気づいたようだった。
そして驚いたことに涙を流していた。
前菜が運ばれてきたときも、彼女の涙は止まらない。
「ミアちゃん、泣かないでよ。今日はせっかくの誕生日祝いなんだからさ」
それに気づいたミアちゃんの涙はさらに止まらない。あまり激しく泣くので
店員や周りからの注目を浴び始めていた。
「ううん、違うの。陽太郎の優しさがつらくて」
「どういう意味?」
「実は別れてほしいの」
「どうして」
「。。。。。」
ミアちゃんは無言だった。
「ごめん」
そういって無言でミアちゃんは走り去った。
そこへタイミングよく、バースデーケーキがやってきた。
ケーキを持ってきた店員はそっと気まずそうに聞いてきた。
「お持ち帰りしますか?」
陽太郎は失意の中、用意していた指輪とケーキを持ち帰ったのだった。
陽太郎は再び駅の社内へ意識を戻した。
雨の小田原を見つめた。電車はぐんぐん雨の中へ突き進む。
そして、再び近くの女性二人組の会話へ聞き耳を立てる。
「ねえ、男女の愛情ってどこまで強いのかな?」
「どういう意味?」
「想いって強ければ、電波みたいに届くかな。」
「うん、届くと思うよ。ある人が言っていた。恋愛という強いシグナルは電波と
一緒だから、だし続けていけばきっと届くって。それはどんな形で現れるかは分からないけどね。
「そうか、じゃ、私もシグナルおくるぞ」
その会話を聞いて陽太郎もミアと同じ会話をしたことを思い出した。
「もし陽太郎と私が、別れても、あなたは落ち込まないでね。
もし私のことが本当に好きだったら、雨に向かって思いをぶつけ続けてね。
私は雨というものは思い出つながっていると信じてるのよ。だ
から雨が振ったときに、私への想いを強くぶつけてきっと違う形であなたにかえるわ。
あなたと別れたときに私の涙は雨となってあなたの愛につながるかな。」
「どうして別れ話なんかするの?やめようよ。」
「だからたとえ話よ。」
なぜミアちゃんは突然に別れを切り出したのだろうか。
あの事件はどうして自分と別れるきっかけにしてしまったのか。
やは罪悪感が生まれたからだろうか。やはり自分は八方美人の一人だったのだろうか。
様々な憶測が頭をよぎる。
もし入社式の前日に電話を取ってあげていたら関係は
続いたいたんのだろうか。
陽太郎が静岡駅に到着してからも雨はまだ振っていた。
気候はまるで冬のように寒い。
陽太郎はミアに振られた失意のままありったけのお金をポッケにいれて
夜行列車に乗ったのでまったくお金を持っていなかった。電車代を購入したら
ポケットには1000円しか残っていなかった。
ホテル代にもならないので、近くのカフェで500円のカフェラテを
注文する。最後の500円は万が一のために取っておこうと考えていた。
すると、窓の外から浮浪者が見えた。
年齢は70歳ぐらいだろうか。女性の浮浪者だ。一体家族はどこにいるのだろうか。
なぜ彼女は浮浪者になったのだろうか。いろんなことを想像してみた。
カフェのゴミ箱をあさっている。どうやら店員が文句を言われているようだ。
陽太郎は、ポケットの500円を手にとって、カフェの店員をつかまえた。
「あの外の浮浪者の人って?」
「ああ、そうです。ゴミあさりの常連さんですね」
「そうなんだ。女性っていうのもめずらしいね」
「ここらへんじゃ偏屈ばあさんって有名ですよ」
「そうなんですか。あのこの500円であのおばあさんにマフィンをあげてもらえますか?」
「え、いいんですか?」
「僕から言わずに、お店で余ったからって言ってもらえますか?」
「まあ、それはかまいませんけどね」
店員は陽太郎に言われたとおり、マフィンを2つ浮浪者の女性に渡していた。
すると、浮浪者の女性は店員に何度も頭を下げていた。
そしておいしそうに雨の中でマフィンを食べていた。するとそれをみていた
陽太郎はマフィン1つに暖かいコーヒーでもあげれば良かったと後悔をしていた。
雨だから寒い思いをしてるんじゃないだろうか、そんなことを考えていた。
しかし自分も人のことを言っていられなかった。
全財産の500円を浮浪者にあげてしまい、陽太郎はその日は公園の段ボールで寝てすごした。する
と、寝ているときに、数名の男性が陽太郎の下へやってきた。
ずるずると寝ているまま引きずられる。
そして、ポケットの中をさぐられている。抵抗しようと手を動かそうと思ったがしばられて動かな
い。
「早くしろ」男性の一人が言う。
「あ、あったこれでいいや」
陽太郎のiPhoneとパソコンを奪われた。唯一の貴重品だった。
頭が混乱していた。まさか自分が襲われるとは想像していなかったので、恐怖が浮かぶ。暴力をふる
われているが、体の痛みの感覚もない。そして、後ろを見ると一人が金属バットを振り上げている。
「やばい」そう思った瞬間に、向こうから人が走ってきた。
「おい、やめろ。お前ら」
意識が遠のく中で、走ってきた中年男性が追い払うのを確認してから
目の前が真っ暗になった。
そして意識がめざめた。
どこかの部屋で寝ていた。体をさわるとあちらこちら包帯がしてあった。
治療をしてくれたようだ。先ほどの中年男性だろうか。
当たりを見あわすとどこか落ち着く匂いがしてきた。みそ汁だ。
すると、ドアをノックする音がした。
「入るよ」助けてくれた中年男性だった。
「大丈夫かい?」
「はい、助けていただいたおかげで」
「いや、危なかったよ。警察には通報しておいたがひどい奴がいるもんだな。」
「そうですね」
「だいたい君はなんであんな所でいたんだ。」
「実はお金がなくてあそこで寝ていたんですよ」
「まったく無謀な」
「そうですね。あ、痛い。」
「すまん、今は無理に話しちゃいけないな。今、下でうちの者が朝ご飯を
作ってるからまずは食べて直して家に帰りなさい。」
「ありがとうございます。」
そう言って着替えを借りてから、下へおりると立派な朝食が待っていた。
台所ですてきな小柄な女性がいた。明るい笑顔はミアを思い出させた。
「おはようございます」
「あれは俺の娘だ。名前はミアだ」
「み、ミアさんって言う名前なんですか?」
「そうだが、それが」
「い、いえ別に。知り合いに同じ名前の人がいたので驚いて」
「そうか、ミアなんて名前はどこにでもあるだろう」
「まあ、座りなさい。ミアは娘だが、料理がうまいんだ。
彼女の料理の中で絶品料理があるんだ。どうぞ」
といって、出てきたのは、ふんわりおいしそうなマフィンが2つ。
雨の中で、浮浪者へ与えたマフィンがこんな形で戻ってくるとは。
陽太郎の優しさが、奇跡を起こしたのであった。
今回の物語はいかがでしたか?もし次も楽しみにしたいと思っていただけたら、
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