阿部良太は、今時珍しい好青年だった。彼の趣味はパーキングメーターにコインを
入れることだった。一見すると、普通の行動だが、彼の行動は人と違っているのだった。彼が入れるのは他人のメーターなのだ。
どうして彼はそんなことをするのか?阿部良太の彼女の坂下美春さんからの視点から覗いてみます。
阿部良太は、私よりも一回りも年上なのに、やたら子供ぽかった。実は、私は
優しすぎる彼の性格に不満があった。それは彼はアピールが下手だからだ。
普通、人に優しくしたら、それが自分の仕業だとアピールするのが普通だ。
それが、阿部には全く出来ないことだった。
「やさしさ、やさしさ」っていうけど、人に感じられないやさしさなんて、
果たしてやさしさと言えるのだろうか。彼女の私にとって、人に評価されない阿部の
行動はとても不愉快だった。
「ねえ、良太。あなたは優しいっていうより、お人良しって気がするよ。
そんな他人に知られないことして意味ある?」
「おれ、なんか変なことしてるかな?」彼が首を傾ける。
弱々しいその顔に、なんだが同情心を惹かれる。これがさらに私の不快感を増幅させる。
「あなたのパーキングメーターの行動が一番不愉快よ。」
「え?普通じゃない?」
「どこが?」
「どこがって?」
「なんで入れるのコインを?」
「そりゃ、メーターが切れたら大変だからね。」
「っていうか、他人のメーターだよ??絶対いれないっしょ?」
「入れるって」
「入れないって!」
「そんなに全否定しなくても。だって、他の人でも切れたらタイヤに
鍵つけられるよ。もし大切な出来事に遅刻して人生変わったらどうする?
僕はそれを未然に防いでいるんだよ。」
「はっ?それ意味ないよ。だって、その人はあなたが人生救ってくれて
ありがとうなんて思ってないからね」
「いいんだよ。本当のやさしさっていうのは、人に理解されることで
なく、知らないところであげるものだと思うんだ。だって、
因果応報っていうだろ。自分が助けてあげたら、他人が助けてくれるかも
しれない。僕じゃなくても、僕の大切な人とか。」
「えっ?それって、私のためっていってるの?私はあなたのその考えは、自己満足だと思う。」
「自己満足?」
「そうよ、だって、そうでしょ。自分でやさしさ与えたって思ってる
ことでしょ。それが自己満足じゃなくてどう思うの?」
「。。。。。。」
彼はパーキングメーターを見て切れそうになっていると用意した
100円玉を惜しげもなくいれていく。私はそんな姿に嫌気がさしていた。
彼と別れるほうがいいだろう、そんな想いも強くなった。
私は、そう決意をしながら、今は面接官と向かい合っていた。
「どういうお仕事をしたいと思って弊社に来られたのでしょうか?」
「私はアナウンサーになりたいという夢を持ってやってきました。」
そう言って面接を終えて、待ち合い室へ戻った。あこがれの
カジテレビに入社出来るかもしれない。「もしかすると」
そんな期待がよぎる。
私は、新しい輝かしい世界へいくために人生をかえるんだ。
良太みたいな他人の人生をサポートするだけの人生は
送りたくない。そんな想いを強くした。
すると、携帯電話が鳴った。
用意してあった着メロが激しくなる。私はあわててその
電話を取る。
「坂下さんでしょうか?カジテレビの安西です。
先日受けていけていただいた面接につきまして
弊社で検討した結果、坂下さんにぜひ最終面接に来ていただきたい
と思いました。いかがでしょうか?」
「そりゃ、もちろん、ぜひお願い致します。」
私は優秀なジャーナリストになって、将来は世界を渡り歩くような
報道人を目指していた。
ここがチャンスだ!人生の岐路だ。そう考えていた。
そして、迎えた最終面接の日。
私はいつも通り、車で出かけて、パーキングメーターに止めた。
実は、止めるつもりはなかっただが、自分が大切な口紅をつけ
忘れていることに気づいたからだ。そこで、
一旦、パーキングに止めて、そして、ドラッグストアへ買い物へ
出かけた。すぐに戻るつもりで、100円を入れた。
しかし、ドラッグストアは思いのほか、並んでおり、さらに
自分の番が来たときにレジが故障した。
ようやく、解放されて、あわてて車に戻ると、驚きの現場を
見かけることになった。
「どういうこと?」
自分の車に、警察官が向かっている。となりの車も違反をしたらしく、
タイヤにロックをはめられてレッカーされている。
そして、自分の車の番を迎えた。
自分と車の距離は100mある。ボルトならば、9秒台で
到着すると思うが、私の足では30秒でも届くか分からない。
もし、自分の車にロックがされたら、絶対に最終面接には
間に合わない。
私は、あきらめの境地に達していた。夢を目の前にして
口紅で私は断念するのか。。。。。。。。。
すると、私の車に警察官が近づく。と、思ったら、横から黒い
影が走ってきて、私のメーターにコインを投入した。
警察官はそれを横目に眺めて、苦笑いをしている。
しかし、それをとがめるすべもなく、見逃していた。
私は目の前で起こった事実が信じられなかった。私は、コインを
入れた人物が後ろ姿のため、見ることが出来なかった。
そして、その人物を追った。
彼?阿部良太なのか?私の鼓動は大きくなった。
「すみません。」私はおいついて、声をかける。しかし良太ではなかった。
「今、私の車のパーキングメーターにコインを入れてくれましたよね。」
「ああ、はい。」
「なんですか?私の彼の阿部良太から頼まれた?」
「阿部良太?知らないよ。」
「じゃ、なんで他人のメーターにいれたの?」
「いや、誰かが困るのだったら、100円で他の人にやさしく出来て
人生をかえられるかもしれないじゃない。」
私は唇をゆがめて、驚愕していた。良太と同じことをいう人間が、私の
人生のピンチを救ってくれた?そんなことがおきるのか。
そうして、無事に最終面接を受けて、私は念願のカジテレビに入社した。
そして、今は私は良太の助手席に座ってる。
「あ、ちょっと止めて。パーキングメーターSOSがある。」
「じゃ、いきますか」
「うん。」
以来、私と良太の趣味はパーキングメーターで人を救うこととなった。
因果応報とはよくいったものだ。見ず知らずの現れた人間は良太の
行動から生まれた運命の道しるべだったのだろう、そう思っていた。