初めて見た瞬間 その人の周りには僕にはない音楽が流れていた。
ぼんやりしてみている僕に、その人は優しく微笑み手を差し伸べてくれた。
「志水くん」
その人は僕の一つ年上の先輩で
同じコンクールに出場する人で
ヴァイオリン経験も今回が始めての人で
だけど、先輩の奏でる音は本当に綺麗で澄み渡っていて
僕に陽だまりを与えてくれる。
「先輩」
僕の声に、嬉しそうに微笑んでくれる顔
僕に初めて会ったときと同じように見せてくれた笑顔
だけどあの日は少し違っていて
本当に偶然に帰りがけ先輩の後姿を見つけて声をかけようとした
「・・・・・・」
何かを必死で我慢しているような姿で。
だけど声をかけてくる友達に笑顔を見せている先輩。
みんな気がつかないのかな?
先輩は今すごく苦しんでいるのに。
「先輩」
僕が声をかけると、僕にも同じように笑顔を返す
ちくりと痛む。
どうしてだろう?
先輩どうして隠すんですか?
「どうしたの?どこか具合が」
心配そうに僕を覗き込む先輩を見て胸が痛む。
隠さないで欲しいのに
僕だけには見せて欲しいのに。
何を?
僕に?
どうして?
ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
でも言葉はもどかしくて僕は、チェロを取り出して弾き始めた。
先輩
僕の気持ちを音に乗せます。
だから
隠さないでください。
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あとがき
金色のコルダは、コメント・メールを頂きました。
ので!短編で作品として出すことにしました。
第一弾は志水くんで!
言葉少なめな彼はきっと音楽で自分を表現するのでは?と思って書いてみました。
(力不足ですがすみません)