洗濯する美しい娘と罪深き紅き色(5) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「なー。悟浄は?」


泊まることになり、用意された部屋に案内されると悟空が口を開く。


「さあ?便所じゃないか?」


そっけない態度で返す三蔵に悟空は八戒に訪ねる。


「なあ、八戒。いい加減教えてよ」


「それは・・・本人から聞いたほうが・・・」


「やだ・・・」


「悟空・・・」


「なに?咲弥・・・」


八戒に詰め寄る悟空に咲弥が手招きをして呼ぶ
それに答えるかのように近づいてくる悟空。


「今、必ず聞かないと嫌?」


「だって・・・・さ、いつものアイツじゃないみたいだし」


「そう・・・でもね、私たちも自分の何かを他人から聞かれたら嫌でしょ?
悟浄もきっと同じ・・・本当に話せるときには話すわ
だから、もう少し彼の心にゆとりができたときでは駄目?」


「咲弥も、知ってるの?」


「・・・知らないわ・・・・悟浄のことも、悟空のことも
これから、ゆっくりでいいから話してね」


「じゃあ!咲弥も俺に教えてくれよ!」


「うん。約束ね」


頭を撫でると嬉しいのか笑顔を見せる悟空
三蔵も八戒もそのやりとりを黙ってみていた。


「で、悟浄はなんであんなふうなのさ」


「聞きたいのね?悟空」


「うん」


悟空の言葉に咲弥は脱力するが、すぐ八戒へ視線を向ける
咲弥の視線にあきらめたのか八戒はベッドに座ると重い口を開く。


「慈燕というひとは【お兄さん】だそうです
いわゆる腹違いの」

聞いた話は部屋全体を重く包む。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その頃皆が先ほどまでいた場所で、悟浄は旬麗と会話を交わしていた。


「―――――ねぇ」


「はい?」


カップへお茶を注いでいる旬麗に悟浄はゆっくりとこ言葉をつむぐ。


「【慈燕】って男の写真とかある?」


「どうして・・・」


「イイ女を哀しませている野郎の顔を見てみたいだけさ」


煙草をくわえにやりと笑う悟浄に旬麗は紅くなって俯く。


「あ・・・いえ、写真とかは、何も」


「ふ~ん」


(ま、見たって何にもかわかんねーだろうけど
顔なんかロクに覚えてないし)


頭を掻きながら煙草の煙を吐き出す。


「で、俺よりイイ男」


「どうして、そういうことを・・・」


少し苦笑しながら思い出すようにポツリポツリと話し始める。


「でも、いい人でした。子供が好きで友達思いで
何よりもこの村を愛してくれました
いつも仕事で泥だらけで帰ってくるけれど
その汚れた服を洗うのが好きでした・・・」


そして、ふと外に瞳を向ける。


「でも、今は夢だったんじゃないかって思います
どうして妖怪たちが凶暴化してしまったのかわからないけれど
まるで人間の私が妖怪のあの人と愛し合ったことの天罰みたいで・・・」


「・・・・人間だとか妖怪だとか
関係ないと思うなら待ってりゃいーじゃん」


「そんなこと解ります!」


胸に手を当て旬麗は悟浄にまくし立てる。


「誰もいない服を洗濯したり
誰もいない部屋を掃除したり・・・・
でも、わたしにはそれしかできないんです!これからもずっと・・・」


悲痛な叫びに悟浄は加えていた煙草をもみ消す
カタンと席から立ち上る。


「・・・・悪かった・・・変なこと言っちまったな」


「いいえ・・・」


首を振り、ぎこちなく視線をそらした旬麗の傍により
悟浄は言葉を続ける。


「実はさ、俺も妖怪なんだわ♡」


突然の言葉に旬麗は驚きながら悟浄を見つめる
妖怪はみんな凶暴化して人間を襲っている
それなのにこの人はそんな素振りすら見えない。


「・・・・・言っとくけど、嘘ならもう少しマシにつくからな」


壁に旬麗を追い詰め左腕を壁につけ
真面目な顔で告げる。


「訳あって姿も人間とあんま変わんねーけど
身体ンには妖怪の血が流れてる
それは確かだ
―――――――俺が怖いか?」


―深紅の瞳―


それは・・・・・。


「いいえ」


穏やかに答える旬麗に悟浄はさっきの顔から
にへらと笑顔で旬麗の前からどき、再び煙草に火をつけ加えた。


「だろ?たいしたことなんかないのさ、種族の違いなんて
アンタは余計なこと考えず
洗濯でもしてりゃ、いいのさ」


はらりと、瞳から涙が溢れる
誰も言ってくれなかった言葉
誰もが、あきらめろと
妖怪の男をあきらめろと
言っていたのに
この人は・・・・・・・・


「泣くなよ・・・イイ女が泣くのはヒキョーだぜ」


「どうして?」


「口説きたくなるだろう?」


その言葉に噴出す。


「ま、他人の女には手ェ出さねえけどな」


「咲弥さんがいるから?」


旬麗から告げられた言葉に悟浄は困った顔をして髪を掻く。


「だって、悟浄さん。彼女を見るとき違いますよ?」


それは他の人もだけど、と思いながら言葉を飲み込む


「まあ・・・・・どうかな?俺もうまくわかんねぇけどね」