第三章 第六章 決して届かぬ月のよう(6) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

あれから数刻。この場所へ戻ってくる気配すらない。


「やはり気がついたか」


弁慶は、これ以上待っても成果はないと踏み立ち上がると

深く外套を被るとあばら家から出て行く。

彼がそのあばら家から出てほんの数分後、彼のいた場所へ大勢の兵士が入り込んできた。


「いないぞ!」


「まだ近くにいるはずだ!」


「捜せ!捜して屋敷へつれて来いとの命令だ!」


「僕を・・・・捜している?」


兵士の様子を遠巻きに見ている人々に混じって弁慶は目を細めた。

どう見ても動きが早すぎる。

こちらの情報では、今還内府と姫軍師が福原にいないはず。

その彼以外でこのようにすばやくこちらの動きに勘ずるものがいたら

それは―――――。


「うかつだったか・・。姫軍師はここにいたのか」


小さく舌打ちをするとこれ以上はここにいられないとばかりに

人ごみにまぎれて出ようと試みた。


「おい!そこの者まて!」


呼び止められた声に、人々は左右にわかれ

弁慶の元へ兵士が数人歩いてくる。


(今捕まるのは困りますがね)


「お前・・・。その外套を外せ」


「すみません。人には言えない見にくい痕があるので出したくないのですが」


「顔を改めたい。いいから外せ!」


外套に手を掛けた瞬間、ぶわりと外套を外し後ろを振り向くことなく走る。


「いたぞ!!!源氏の密偵だ!」


「捕まえろ!」


辺りを捜している兵士達を集めると、逃げた弁慶を追いに向かう。

どんなに逃げてもここは福原。

平家の息がかかっている場所。逃げれるような雰囲気ではなかった。


「まずい・・・な」


息が切れ始め、すばやく身を隠せる場所へ隠れると様子を伺う。

隠れている場所の目の前には兵士達の姿が映る。

息を潜めいなくなるのを待つ。


「どこだ!」


「逃げおおせるはずがない!もう少しこの辺りを捜すぞ!」


「お前は知盛殿に報告を!軍師様にもだ!」


(やはり・・・姫軍師はここにいたか・・・)


知将と名高い還内府の右腕として証される謎の姫軍師。

侮ってはいなかったがこうも動きが早いのは計算外だ。

こちらが掴んでいた帝が行方不明も、こちらを欺くための偽の情報だったのかと思われる。

そうでなければ兵士たちがこちらへ来るはずがない。

あわよくば、内情を調べてこれからの戦に役立てようと思っていたのに。


「出口を封鎖しろ!逃げられないように、逃げ道という逃げ道を兵士で固めろ」


(まいったな・・)


本当にまずい展開になったと弁慶は思う。

ばらばらと兵士がその場からいなくなると、ほーーーっと息を吐く。



ぱきっ!


見つかったかと思い、手にしている長刀に力が入る。

目を閉じ相手の様子を伺う。

一瞬こちらへ来るのをためらっていたが、ゆっくりと歩いてくるのが分かる。

空気が変る。

弁慶はゆっくりと振り向いた。