第三章 第五話 決して届かぬ月のよう(5) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

知盛がいなくなった後。残されたのは、重衛と咲弥のみ。

後ろから抱きしめられたまま、身動きが取れない咲弥は

もぞもぞと動かし、くるりと身体を反転させると重衛を覗きこむように見つめる。

咲弥と同じように重衛も見つめ返す。


「姫・・・」


「重衛さま?」


あるとき還内府と呼ばれている将臣と共にここへ現れた不思議な女性。

優しく微笑むかと思えば、容赦なく人を切り捨てる。

その姿は残酷で、けれど美しい女。

彼女の微笑みに、彼女の言葉に自分は幾度心を奪われ

いつの間にか彼女を――――。


「貴方をこのまま閉じ込めてしまいたい」


「重衛・・・さ」


思わずだった。導かれるようにソレを奪う。

逃れようとする彼女をがっしりと掴み、どさりと床に崩れ落ちる。


「ま・・」


「嫌だ・・・姫・・」


慌てて呼吸を求めようとするソレを再び己で塞ぐ。


「今宵・・・貴方を私にください・・」


熱の帯びた瞳で見つめられ、咲弥は目を見開く。

こんな風に彼が行動を起こすとは思わなかった。

むしろ彼にこんな想いがあったとは知らなかった。

だから今こうなっている現実すら、咲弥には驚きを隠せない。


「姫・・・貴方を・・・」


「ごめ・・んなさい」


「姫」


はらりと落ちた雫に、重衛は動きを止める。

そっと頬に手を当て微笑む。


「でも、駄目なの・・・・。私は・・・・私の心は・・・」


目を閉じ浮かぶのは漆黒の外套を被る、寂しげな瞳のあの人。

あの人以外何もいらない。

何も欲しくない。


ワナワナと唇を震わせて切なげに見つめる咲弥に触れるだけの唇を落とす。


「愛しい貴方をこんなに哀しませてしまって」


「重衛さん・・・」


「今のことは忘れてください」


それだけ言うと、重衛はゆっくりと立ち上がると咲弥を残して部屋を出ていった。