【連載】


戦争と歌人たち㉗       篠弘



鉄幹・晶子とその時代④   加藤孝男



【作品13首】


わける              田口綾子

【東北を詠む】


作品13首


        それでも生きてゆく    岡本勝




作品7首+ショートエッセイ


        春キャベツ        斎藤博


        命             すずきいさむ


       

      



花和尚独語④    段葛の桜         大下一真



【特別作品33首】


星屑の町                     島田修三








NHK短歌

3月13日(日)午前6:00~
ゲスト:中村文則さん(作家)
題:「つなぐ」

再放送 3月15日(火)午後3時~


当会の染野太朗が選者を務める最後の回となります。
ぜひご覧ください。

作品Ⅲ(三月集)



働く場がわれを生かしてくれていると仮設から出勤の八十二才   桑島有子



長らくを止めゐし煙草また吸ひぬ隠れて吸へば無頼の気分   伊藤宗弘



思ひ出を胃の腑にしまふや金箔入りのソフトクリームに並ぶ人々   岡野哉子



平成の世に生き難き老い人を下級と呼びてこの年が暮る   香川芙紗子



農の血が強ひるかわれは種子を播き穫り入れ粉にしてそば打ちが好き   久下沼滿男



居酒屋の壁に書かれし短歌あり墨跡なぞり毒づく我は   大葉清隆



連用日記は一年前に目が移り師走の母の蘇りくる   佐藤典子



村里の首相のポスター色褪せて炭焼小屋に一筋の煙   山家 節



風邪ひけばやはらかき布首に巻く幼き日にもことしの冬も   秋元夏子



ひと晩をはちみつ漬けにしたる柚子その金色(こんじき)を白鉢に盛る   森 暁香



暖かと十年日記に書いてある十二月二十日いつも窓ふく   原田勝子



集まりに大きな飴玉口に入れ一時間余り無口を通す   浅沼澄子



霜焼けのわが手に真綿まきくれし遠き日の祖母優しかりしよ   福井詳子



軒並みに柿の鈴生る当たり年たわわなる枝のたわわなるまま   牧野和枝



柿の木を植えしに実りを見ぬままに逝きたる夫に甘きを伝う   住矢節子



この青い空を切り取り曇ってる今日の気持ちを貼り直したし   海老原博行



くもり日の一人居さびし軒先の洗濯物は揺るるともなく   土屋立江



東軍と西軍の運命見下ろして戦国弁当ゆるりと食べる   服部 智



酌みかはす酒こそよけれ八海山父の十三回忌の膳に   庭野治男



団欒の空気凍らせあんた何考えてるのと妻が泣き出す   高木 啓


作品Ⅱ(十七人集)


L、M、S箱に分けられ均等にされたね不揃いの林檎たち   伊東恵美子



晩秋の檪林に見つけしとふわが手にのせる天蚕(あまこ)の繭を   上野幸子



若い胃をしてゐますねと誉められて嬉しく我は厚く礼言ふ   坂田千枝



差し向い湯上りビールの旨かりし浜岡原発しばし忘れて   佐々木剛輔



悪循環なれどもISへの爆撃をやめるかという選択肢なし   松本憲治



あめとあるを飴と思いて読みゆくに雨であるなりわれを淋しむ   齊藤淑子
(※「あめ」に傍点)


目の前にありて見落とす老眼鏡苦笑いする真夜の机に   飯田直代



大空のキャンバスいっぱい描きなぐる飛行機雲の白線まぶし   田村郁子



石蕗の葉に朝露の光る庭飽かず眺めて一歩踏み出す   森田栄子



「そんなこと言わないでいい人前で」とたしなめらるる夫らしき人   井上成子



よくやったよくやっているそんなふうな風の生れきて夫の気配せり   河上則子



早朝の窓あけたれば菊畑のすがしき匂ひただよひて来ぬ   松本ミエ



ケアーハウスの窓灯されて母の身の守られてゐるとおもふうれしさ   庄野史子



赤い実をさわにつけたる千両の枝もひと枝切りて供える   藤原つや子



翡翠は市の鳥葦をたわませて身じろがずに居る川面を見つめ   飯田世津子



税務医務ぶら下がりくる諸項目個人番号これに耐ふるや   塚澤 正



インテリの憂鬱顔もほころばむ霜降り仕込みし芋煮を食めば   高橋和弘



マチエール



泣いたって許されているみどりごのいのちのように滲んでくる汗   佐藤華保理



パズドラにふたりしづかな隣席のはつかに羨し冬のスタバに   染野太朗



若きこと稚拙なことも美徳だと低温やけどのごとき囁き   富田睦子



友だちもいない考え始めると終わりもなくて立ち上がってみたり   宮田知子



貧乏になってまで生きるのが怖い なれば怖がるどころではない   山川 藍



崩れ去る愉悦もあるかコーヒーにじゃぶじゃぶ沈んでいく角砂糖   米倉 歩



つむじ風のようなり人事通達に眺めてこぼす金平糖を   荒川 梢



もう多く望んだりせず駅前に拾えますようかぼちゃのタクシー   伊藤いずみ



かたき雪やわらかき雪それぞれに来し方ありて天と地の間に   大谷宥秀



予備校の講師が描くなめらかな胃の大湾部をノートに写す   小原 和



遅く起きた秋の日の遅き朝食ののちにラジオに風力を聞けり   加藤陽平



花消えて鳥消えて冬どうしても許せぬ歌人の立ち上がり来る   北山あさひ



健康さえあればと思えど音のない午後に開きし通知表なり   木部海帆



百円のカレンダーでは躍進の年にならぬと買い直す社長   倉田政美



青森のりんご!と書かれしダンボールに父の背中のような紅玉   小瀬川喜井



吉祥寺のライブハウスに逢う死者と逢わざりし死者いずれも言葉  後藤由紀恵





まひる野集



同性婚そのささやかな幸ひのさびしめるかな世界は暮れて   加藤孝男



霏々として髪にまぶたに降る雪の軽さや春の鳥となるべし   広坂早苗



頼み事またも忘れる看護師のこの青年は教え子に似る   市川正子



中空に和紙のようなる昼の月パパンと打ちてジーパンを干す   滝田倫子



踏みしむる落葉がゆっくり戻りくる逡巡ひとつ解き放つべし   寺田陽子



滾りくるはなくなれどなほ水音の響きのこれる胸に手を当つ   竹谷ひろこ



まどろみの昏き野の果て一枚の光る水あり行つてみやうか   麻生由美



慈しむは他にもあるとひと言へど一人が欠けてすべて虚しき   齋川陽子



剃り残る顎髭白きを見つけるや視力戻ると夫に祝わる   齊藤貴美子



使ひ来し鍋のつひには漏れくるや底の濡るるをひたと触れみる   升田隆雄



われにありわれにあらざるもの幾ついさぎよきまで冬木は裸   久我久美子



今更に坂の多しよややに疾くだらだら坂を下りゆく夕べ   柴田仁美



海上のテロ対策の訓練に映ゆれば美しき広島港は   中道善幸



降誕祭の未明の耳に届き来る雪にならざる雨さやぐ音   高橋啓介



雪氷を剥がしておらんガタガタと寝床ゆすぶる真夜の除雪車   吾孫子隆



くるくると巻かれて届くカレンダー丸まっている未来を伸ばす   岡本弘子



久びさに会いたいですねの賀状なり互に住む町遠からずして   小栗三江子



液晶の画面に出でくる障害物交わしかわせず交わせずかわす   岡部克彦



作品Ⅰ



彫りくれしひとに似通ふ観世音ガラス戸棚に俯きいます   橋本喜典



ときめける刹那に遇へる古書街に晩年といふ時のゆたかさ   篠 弘



母親の幼な児叱る声聞こえ春の風吹く負けるな幼な   小林峯夫



つつがなく葬儀の終わり子らの去り夫婦二人の秋の夕暮れ   大下一真



赤飯が恋しくなりて赤飯と独りつぶやきウェルテルのごとし   島田修三



校舎裏の馬丁葉椎(マテバシイ)の木屋上に達するまではそりやあいろいろ   柳宣宏



ごしごしと床をこするは我にあらずわれの眉間の怒りがこする   井野佐登



音盤に針を下して聴く曲のオイゲン・ヨッフムはるかなる春   中根 誠



猫の来て池に水飲む時の間を冬ざれの庭に日溜り生まる   柴田典昭



現し世の流れに運ばれ来たる身をホームに折りて屈み込むあり   今井恵子



青色のシートに隠され家屋消ゆ人のさみしさは人がつくりし   松浦ヤス子



病廊の果ての鏡の奥処より傾ぎて歩む老女出でくる   曽我玲子



その使命を終へたるものの静けさに柊の小花庭に散り敷く   橋本 忠



昆布はもう引き上げようかささやかなことにもあらむ潮時というは   小林信子



足音を聞きて野菜の育つと言い母の通いし段だん畑   佐々木絹江



好まぬ絵なれど細かく心込め描かれ居りてそれに押さるる   佐藤鳥見子



ATM苦手の人の多くありて同級会は落語のようなり   片倉敏子



宝くじに心は動くお金にて解ける難題抱へてあれば   軍司良一



語尾高き声にサーブを打ちにける亡き人のこゑわれを支ふる   岩佐恒子



怖いほど静かな夜をひとりしてみかんの皮を積みあげている   三宅昭久



「院長はしばらく休診します」との貼紙出され町内どよめく   熊井美芽



もう一度してみたきこと階段を一段飛ばして駈け上がること   関本喜代子



潔くこの世にさらばせし妻かその影引きて生くるほかなし   すずきいさむ



どうにでもよき事ときに思ひ出す古びし父が卒塔婆の処分   大野景子





【巻頭作品31首】


歌詠む木立                       橋本喜典


【作品12首】


賜物                           柳宣宏


【作品7首】


沼といふ比喩                     田口綾子



【特集 歌会へ行こう】


総論 歌会の魅力

上達のための楽しい時間投資           大下一真



【連載】


歌のある生活⑧                    島田修三