本書はナチスによる
「ホロコースト(ショアー)」
ユダヤ人殺戮のキーマンであった親衛隊中佐
アドルフ・アイヒマンをイスラエル警察が延べ
8カ月、275時間にわたり尋問を行ったその
全記録です。
鬼気迫る内容です。
本書はナチス・ドイツによる
「ホロコースト(ショアー)」
ユダヤ人殺戮のキーマン、親衛隊中佐
アドルフ・アイヒマン。戦後はアルゼンチンへ逃亡し、
リカルド・クレメントの偽名で自動車会社に勤めて
いたのをイスラエルの諜報機関である「モサド」が
拘束し、イスラエルへと連行したわけですが、
そのアイヒマンをイスラエル警察が8カ月、述べ
275時間にわたり尋問をおこなった全記録です。
鬼気迫る内容で、僕も読んでは中断し、
また読んでは中断しで結局都合1年近くかけて
最後まで通読したときにはあまりの内容の重さに
げっそりとしたことを覚えております。
本書を読んでいる間に僕は「NHK BS1」で放送
されていた『BS世界のドキュメンタリー
「実録 アイヒマン裁判』
を見て「アイヒマン裁判」の詳細を映像で確認したり、
また裁判を傍聴していた政治哲学者である
ハンナ・アーレントの
『エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さに
ついての報告【新版】』(みすず書房)
を読み、アーレントの伝記映画である
『ハンナ・アーレント』で当時の彼女や世相を
確認していたので「予備知識」を蓄えながら
本書を読んだことになります。
アイヒマンの尋問を担当したアヴネール・W・レス
大尉はナチスによって家族を殺された過去を持ち、
いわばこの尋問記録は「被害者」と「加害者」の
究極の対決でもあり、行間からその緊張感が
ピリピリと滲み出しており、なお一層重い読後感を
残すのにも一役買っているのでしょう。
自らの罪を逃れるために嘘を吐き、上司や部下の
せいにして言い逃れをするアイヒマンをレスたち
尋問官たちは用意された膨大な資料をそれこそ
寝る間も惜しんで大量に、かつ丹念に読み込み、
アイヒマンの持つ知識に章を追うごとに徐々に
追いつき、ついには並び、追い越して、当時の
核心に迫ることを突き付けてアイヒマンが答えに
窮していく姿はむしろ、人間の持つ「ダークサイド」の
極致を見たような気がして陰鬱になると同時に、
本書のテーマでもある
「過去に何が起こったのか、それは将来また
起こりうるのか。」
を読者に提示してくれるのです。
本書の最後のページを閉じたのは寝る前の深夜
だったので、寝つきの悪いことこの上なかったわけ
ですが、それはアーレントが言ったところの
「悪の陳腐さ」
を凌駕する生々しい
「人間の深い業」
と言うものを本書の中に感じたせいなのでしょう。