この本によると、今鯨の肉を食べたことのない
世代がいる。という記述には衝撃を隠せませんでした。
「固有の食文化こそが、民族性の基本である―。」
作者のこの主張には僕も激しく同意します。
僕も鯨の肉は竜田揚げや鯨のベーコンや刺身などで、
数えるほどしか食したことはございませんが、
滋味あふれる味だったことを覚えています。
この本は農林水産省出身の元官僚で、現在では大学で
教鞭をとっていらしている方がお書きになったものです。
鯨を取る漁のやり方に始まって、江戸時代に編纂された
というなんと 八〇種以上の部位を解説した料理本の紹介や、
現在の鯨漁やその生態系に関する話が懇切丁寧に
記されてあって、鯨食を推進する一人としては非常に
楽しく読むことができました。
そのなかで僕もこの本を読んで知ったのですが、
調査捕鯨で取った鯨が何を食べているかということに
ついて書かれた箇所で、彼らがスケトウダラやスルメイカ。
カタクチイワシなどをそれこそ人間の3~5倍もの
海洋資源を消費するということ。そして、その影響がもろに
出たのは北海道釧路市をはじめとする漁で栄えた港町で、
1980年代には120万トンもの水揚げ量を誇りながら、
2000年以降の現在ではその10分の1である12万トンほど
までに落ち込んでいるという記述を見て、適切に海洋資源を
保つためにはある程度商業的に捕鯨をせにゃあいかん
だろうな、という思いを深めた所存でありました。
そして、この本を読んでいてもっともショックだったことは
札幌はすすきのにある有名な鯨料理店である
「おばんざい くじら亭」
という鯨料理専門の店が諸般の事情により、閉店すると
女将から筆者のほうに連絡が行ったということでした。
僕はこの記述を読んで、一瞬、目の前が真っ暗に
なりました。この店は10年以上前にテレビで特集されたのを
見たのがきっかけで、いつか行ってみたいなと思っていた
店だったので、これを書いている今でも、ものすごくショックです。
鯨を食することは日本の食文化です。鯨を一匹捨てる
ところなく利用しつくして来たのは先人の知恵と技術の
結晶であることが改めてよくわかりました。この本を見て
「土佐のハチキン女」でおなじみの漫画家・西原理恵子さんが
好きな男は? という質問に
『日ごろはぐうたらでも鯨が沖で発見されたときにはいの
一番に船に乗って漁に出て鯨に銛を突き立てる男がいい』
とおっしゃっていたのがよくわかるような気がいたしました。
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