やぁ、神子殿。
久方ぶりだね。
あまりに久しぶり過ぎて
私の事を忘れてしまったかね?
ふふふっ、そう怒らないでおくれ。
拗ねた君もとても愛らしいと思うのだが、
やはり笑っている方が何倍も素敵だよ。
暫く顔を出さなかったお詫びと言っては何だが、
数日前に散策した時に愛でた花をお目にかけようか。
桜は枝垂れもほぼ見頃を終えて、
あとは八重が幾つか咲くばかりだ。
今一番美しく見えるのは躑躅かな。
見事だろう?
こちらは東寺の躑躅だよ。
他には牡丹や射干も咲いていたね。
池の亀を眺めていたら下駄の音が背後から聞こえたから
イノリがいるのかと思ってつい振り返ってしまったよ。
薄曇りの空だったから、
さぞ甲羅干しに時間がかかった事だろう。
紫陽花はまだまだだね。
さて、こちらは仁和寺だ。
残念ながら殆どの桜は葉桜になっていたが、
二王門を入って右手にある桜はまだ咲いていたよ。
(仁和寺は仁王門を二王門と表記)
こちらの杉戸絵の陵王を拝見すると、
多季史殿を思い出さずにはいられないね。
今宵は彼の舞を脳裏に浮かべながら
笙を奏でようか。