『ハリウッド玉手箱』 | 三匹の忠臣蔵

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第二次世界大戦において、国家総動員ならぬハリウッド総動員で作られた戦意高揚映画。
とはいえ、ストーリーの途中に本物のスターによるショーが丸ごと入ってるミュージカル形式なので、「戦意」を除去したら今でも十分楽しめ、通用する作品だと思う。

南太平洋の前線で負傷し、休暇をもらってロサンゼルスにやってきた若きアメリカ軍兵士スリム・グリーン(ロバート・ハットン)。
街のレストランに入るが、ろくなもんでもなく、店主から紹介されて向かったのが、軍人限定の「ハリウッド・キャンティーン(ハリウッド食堂)」。

ハリウッド食堂では、実際にハリウッドの役者たちが給仕として働き、舞台では豪華なアトラクションが繰り広げられている。

スリムはジョーン・レスリーの大ファンで、彼女に会いたいと言うと本当に会えてしまう。
さらに幸運にも「100万人目の客」に選ばれたことで、憧れの彼女とのデートや、キスまでできるという夢のような時間を過ごす。

そして出兵の時を迎え、再び戦地へと戻っていく。

 

 


 

 

戦時下で俳優などがボランティアとして働く「ハリウッド食堂」は実際にあったらしい。
誰かが女優に「キスしてやって」と頼むと、いとも簡単にキスしてくれる。

ストーリー、特にラストは軍人美化そのもので、セリフのそこかしこに「愛国者、国のため、米兵バンザイ!」が散りばめられている。

日本でも戦時中には木下恵介、小津安二郎などが戦争を題材にした作品を撮り、国策映画や戦意高揚映画も数多く作られた。
アニメーション映画では『桃太郎 海の神兵』なども有名。

小津安二郎だったか、「こんな映画を作れ」と観せられたフルカラーのアメリカ映画を観て、「こんな豊かな国と戦争をやってるのか、勝てるわけがない」という感想を漏らした、という話は聞いたことがある。

この映画って、プロパガンダの内容以前に、こんな豪華な娯楽を作れてしまう国力そのものがプロパガンダになってると思う。

戦争の真っただ中なのに、スクリーンでは巨大なセットを作り、一流バンドを呼び、スターを何十人も投入して、兵士が憧れの女優と踊ってキスをする。
日本側からこれを見せられたら、「いや、物量が違いすぎるやろ」となり、小津安二郎の気持ちも分かる。

本作はフルカラーではなくモノクロだが、見せられるエンターテインメントは今でも十分通じる一級品ばかり。

 

 


 

 

ピアノ演奏も素晴らしく、当時の一流どころをそのまま観られる贅沢さはある。
ただ、後半になるとストーリーはほとんど止まり、セリフもなく歌や演奏、踊りが次々と披露されるショーのような構成になる。
この時代の音楽や演者に興味がない人には、さすがに長く感じるかもしれない。

ここからいつものように話は脱線するが、始まって早々に登場するのがジミー・ドーシー楽団。さらに次から次へと当時のスターが本人役で登場し、歌や踊りを披露するという、とんでもない設定。

サックス・クラリネット奏者のジミー・ドーシーは、弟でトロンボーン奏者のトミー・ドーシーとともに1934年に「ドーシー・ブラザース・オーケストラ」を結成するが、ここに出てくるジミー・ドーシーも、もちろん本人。

トミー・ドーシーのトロンボーンは絶品で、あの甘い音色はとても金管楽器とは思えず、レコードを持っていたので、若い頃はそれこそ針がすり減るほど聴いていた。

 

 


 

 

ベティが会話の中で「レーガン命」と、若手スターだったロナルド・レーガンの名前が出てくる。
アメリカ元大統領レーガンは、ハリウッド時代にFBIへ共産主義者と疑われる人物について情報を提供していたことでも知られている。
いわゆるアカ狩り。
 

後に映画俳優組合の会長を務めることになったレーガンは、映画界に浸透しているとされた共産党員や、そのシンパと疑われる俳優たちについてFBIに情報を提供していた、言ってみればスパイのようなもの。

被害者として有名なのはチャーリー・チャップリン、そしてダルトン・トランボは後にその人生が映画にもなった。
だから、戦時中の戦意高揚から戦後の赤狩りへと時代が移っていったのは、似たような道をたどった日本を彷彿させる。

そしてエンディングで、スリムが出兵に向けて戦意高揚そのもののような別れの挨拶をする。
彼は「愛しのジョーン……」と書き、「ジョーンに渡してほしい」と手紙を置いていくが、ひねくれものの私は「当時はこんな話がゴマンとあって、本人に渡すはずないやん」と思ってたら違った。

駅のホームに現れたジョーンに「君の夢を見てもいい?」と聞くと、彼女は「私も見る」と返す。

そして「君を愛してる」と言うと「あたしも」で終わるんだが、日の丸を振って兵士を送り出す邦画もあったように、戦地へ向かう兵士との別れは、どこの国でもこんなふうに美しく描かれたんだろうな。

 

 

 

 

『ハリウッド玉手箱』