『黒の試走車』戦争を引きずる男たち | 三匹の忠臣蔵

三匹の忠臣蔵

日々是好日。
お弁当ブログだった「お弁当にはたまご焼き」からリニューアル。
映画レビューを中心に、日々思いついたこと、感じたこと、趣味のことを書いてます。

乗用車産業を舞台に、ライバルメーカーどうしが泥臭い情報戦を仕掛ける産業スパイの姿を描いた、梶山季之の同名小説を映画化した作品。
タイガー自動車は実在したプリンス自動車工業(合併した日産プリンスから現日産)がモデルで、ヤマト自動車はトヨペット(現トヨタ自動車)がモデルと言われている。

タイガー自動車は新車「パイオニア」のテスト走行中に炎上事故を起こしてしまう。企画部長の小野田透(高松英郎)は、この失態を批判した新聞記事がライバル社「ヤマト自動車」が書かせたことを、業界紙の社長である的場捨松(上田吉二郎)から知らされる。

このテスト走行の計画は限られた人間しか知らず、社内にスパイがいると確信した小野田は、幹部たちの身辺を調査するよう部下に命じる。

部下の朝比奈豊(田宮二郎)は、ヤマトの企画本部長である馬渡久(菅井一郎)が行きつけのクラブに、自分の恋人の宇佐美昌子(叶順子)をホステスとして送り込む。

ところがヤマト自動車にも内部情報が漏れ続ける。
それでも切り札となる情報でヤマトを出し抜いたと思ったパイオニアの販売日に、販売一号車の車が踏切事故を起こしたことで新聞を賑わせることになる。
その影響で、受注が決まっていた予約車が次々とキャンセルされてしまう。

この事故が馬渡に仕組まれたことだと判断した小野田は、社内に潜む本物のスパイを追い詰めていく。

 

 


 

 

序盤の一時間は騙し騙されの諜報戦が繰り広げられ、とうとうネガティブキャンペーンにまで発展し、終盤ではテンポよく真犯人へと辿り着く。
ストーリー自体も「本当にあってもおかしくない」と思わせるリアリティがあって良かった。

一方で、細かな演出には気になる点もあった。
業界紙の的場を、機密情報だらけの企画室へすんなり通し、しかも簡単に金を払ってしまう小野田には、「ちょっと信用しすぎとちゃう?」と思わずツッコんでしまう。
さらに的場は、ヤマト自動車の会議の様子が見える向かいのビルのトイレに案内するが、「あれだけ丸見えなら、ヤマトも知ってるやろ?」という違和感も残った。

証言を得るために平木公男(船越英二)を追い詰めて取っ組み合いになるが、周りは誰も止めに入らず、おまけに後ろの窓が開いてるので、結末が見え見えな展開で、やや不自然に感じた。

朝比奈も、自分が会社で出世するため、そしてライバルを叩き落とすためにと、いとも簡単に愛する恋人を敵である馬渡に抱かせるが、これがラストの伏線になってる矛盾。

だから主人公であるはずの小野田と朝比奈の行動には、観ていて説得力を感じられなかった。

しかし、入院患者の病室を密かに盗聴して得た情報をヤマトに売っていた、看護婦の山中とし子(響令子)のあっけらかんとしていた。
彼女の「オールドババアは金に弱いのよ」というふてぶてしさは何故か爽快で、共謀した的場を演じる上田吉二郎のあくどさと、方言の訛りがねっとりしていて、このコンビが本作のMVPだと思う。

馬渡の正体が分かると「関東軍出身だけあって馬渡はやることが汚い、日本を満州だと思ってる」と言ったり、彼と販売一号車で列車に衝突する事故を起こした芳野貫一(小山内淳)が、元特務機関で馬渡の元部下と分かると「人殺しの戦争屋」という。

その馬渡も昌子を乱暴したあとに「軍隊上がりなので乱暴ですまん」といい、1962年の作品なので「戦争の狂気」のようなものが漂っていて、そう考えると小野田や朝比奈の行動の異常さも何となく理解できる気がしてくる。

そしてラストは、あれほど出世に取り憑かれていた朝比奈が、憑き物が去ったように真人間になって終わる。この変化は、「もはや戦後ではない」という新しい時代への転換を象徴しているようにも感じた。

戦争の記憶がまだ色濃く残る時代だからこそ、人間の狂気と欲望を戦後日本の企業社会へ重ね合わせた作品だったように思う。

『黒の試走車』戦争を引きずる男たち