前回の続き『FIFAワールドカップ26』で見えたもの(後編)を書いてみる。
ベスト4で浮き彫りになった違和感
準決勝の組み合わせは「イングランド vs アルゼンチン」と「フランス vs スペイン」。結果はアルゼンチンとスペインが勝ち、決勝は「アルゼンチン vs スペイン」のカードになった。
しかしこの2試合を観ていて強烈な違和感を感じた。
その違和感の正体を書いてみる。
負けたチームのフランスはオールアフリカと言っていい、イングランドもアフリカ系が多い。アフリカを蔑視する気持ちはないが、スペインとアルゼンチンにはアフリカ系はいない、いても数人。
そしてこの2チームの特徴は自国のサッカー文化というか、自国の形を持っていて、多様性とアイデンティティの違いが勝敗を分けたのではないかな。
アルゼンチンに関しては嫌らしさもあるが、両チームに共通するのはサッカーが文化として受け継がれてるのではないかということ。
フランスとイングランドは、20世紀後半からの旧植民地とのつながりや移民の受け入れたという歴史的な背景により、多文化社会が形成されている。
両国とも国内の育成システムが非常に発達していて、移民2世や3世として国内で生まれ育った身体能力の高い若手選手たちが、最先端の英才教育を受けて代表に定着した。フランスは実質的にサッカー選手の輸出国になってる。
スペインは、父親がモロッコ、母親が赤道ギニア出身のラミン・ヤマルや、両親がガーナ出身のニコ・ウィリアムズ選手のようなアフリカにルーツを持つ若手スターがいるが、アルゼンチンと同じく歴史的には国内の地域ごとのローカルな育成リーグから選手が発掘されてきた歴史が長く、比較的均一な構成が続いてる。
スペインには、体格やフィジカルの差を補うために、短いパスを正確につなぎ、ボールを保持して主導権を握るという明確な哲学があり、アルゼンチンにも、狭いスペースをステップとひらめきで打開する「ポトレロ」のサッカー文化がベースにある。
これがマラドーナやメッシに象徴されるような、個の技術、重心の低いドリブル、そして勝負に対する執念が代々受け継がれている。まぁ、この執念は見方によっちゃぁ汚いんだが。
両チームとも国としての一体感や、代表のユニフォームを着て戦うプライドが戦術以上にチームの形を作っている。
一方で、フランスやイングランドも「形がない」わけではなく、フランスはフィジカルと組織的な守備からの高速カウンター、イングランドはプレミアリーグ仕込みの激しいプレッシングとハイテンポなアタックという、独自の「自国の形」を持っているとは言える。
しかし最上位に戦術があるように思う。
これが準決勝の結果になり、フィジカル重視のフランスは何もさせてもらえず、戦術で動くイングランドもアルゼンチンの気迫に飲み込まれた。
フランスの「フィジカルからの高速カウンター」はアフリカ系の身体能力が高い選手がいるからこそ機能し、イングランドは監督のスタイルで戦い方が変わり、チェスに近い。
そしてもう一つの特徴はイングランドもフランスも自国にビッグクラブがある。ここから見えるのがドイツの敗退やイタリアの敗退。
イタリアの伝統は、強固なカテナチオ(守備)で耐え抜き、一瞬のカウンターで仕留める伝統美の崩壊。
ドイツは、屈強なフィジカルと圧倒的な運動量で試合終了の笛が鳴るまで諦めない「ゲルマン魂」を武器に効率よく勝つ国だったはず。
この2チームから見えるのが、国内リーグの隆盛とは裏腹にアイデンティティの消失ではないかということで、各国のトップ選手や名将が集まったことでレベルアップした反面、自国の哲学が消え去った。
これに対して、決勝に進んだスペインとアルゼンチンが「自国の形」を保てているのは、「戦術が文化として根付いているか、外から輸入したものか」の違いと、今回の試合を観ていて思った。
5大リーグのグローバル化により商業的には成功したが、皮肉にも「自国代表のアイデンティティを崩壊させている」という現象が、いまヨーロッパでで現実のものとなっている。
アジアで残ってるアイデンティティ国は?
アジアで伝統的にサッカーが盛んだったのは朝鮮半島だと思う。
日本は1996年Jリーグができてたかだか30年で、その前の日本サッカーは対韓国、対北朝鮮の戦績を見れば明らかで、野球中心の日本からすると仕方がない。
そして韓国は元々フィジカルと運動量で戦う伝統的な形があった。
このフィジカルを日本ではラフプレーと言っていて、未だにこのワードに引きずられる人をたまに見る。
しかし、この韓国も紆余曲折の結果、パウロ・ベント監督以降はポゼッションサッカーに移行するようになり、今は中途半端な戦い方をしていて、結果がでない。
残るは北朝鮮だが、こちらは国の事情から鎖国せざるを得ない。
だから昔から続く、豊富なスタミナに裏打ちされた運動量と強靭なフィジカルで順目順目に進むシンプルなサッカーがまだ残ってる印象がある。
そして中国なんだが、こちらは日本に似てると思う。
歴史がないから試行錯誤した結果、日本の育成のようなもので今後が楽しみな国ではある。
個人的に楽しみにしてるのはウズベキスタン。
こちらは昔懐かしいサッカーをしてるようで、何となく似ていて、しかも中央アジアの国なので朝鮮半島から続く、それでいて旧ソ連の流れを汲んでいるのでサッカーのスタイルは似てると思う。
そういう意味では今後が楽しみな国になる。
ここまで独断と偏見で、思うがままに好きなことを書いてきたが、余談として次々回の開催がサウジアラビアのが気になる。
今回のワールドカップで9カ国でたアジア代表でベスト32に進んだのは日本だけ、逆にアフリカ勢は9カ国すべてが32に進んだ。
アジア予選ではめっぽう強い中東勢は本番のワールドカップとなるとまったく通用しない。
中東の笛を言われて続けて半世紀がすぎ、これは今も変わってないと思う。
審判のジャッジなので、誤審・八百長の疑惑は後を絶たない。
だからVARが導入されたんだが、細かいジャッジまではカバーできない。
それ以上に、トランプ大統領の「レッドカードなかった事件」を見ると、何でもありの大会になるのではないかと思ってしまう。
華やかな大会だった一方で、サッカーを取り巻く商業化や代表チームのアイデンティティ、そしてメディアのあり方まで、多くの課題も浮き彫りになった大会だった。
8年後、その景色がどう変わっているのか、今から楽しみでもあり、不安でもある。

