偶然、目の前に現れた浮浪者が、かつて行方不明になった夫ではないかと気づいた女性が、懸命に彼の記憶を取り戻そうとする物語。
街の住民がバカンスに出かけ、静かになったある日。
テレーズ・ラングロワ(アリダ・ヴァリ)は、店の前を通る浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)が気になり、「もしや?」と思い呼び止め、さらに尾行する。
言葉を交わすうちに、16年前に行方不明になった夫アルベールだと確信するが、彼は記憶を失っていた。
彼の気を引こうとオペラのレコードをかけ、さらにテレーズはアルベールの叔母や甥を呼び寄せる。
3人で音楽に聞き入る彼に届くように、アルベールが知っているはずの過去を語り、記憶を呼び覚まそうとするが、反応は今一つというか、どこ吹く風状態。
テレーズは確信しているが、叔母は否定的で、「たとえアルベールだったとしても、あの身なりでは意味がない」と言い放つが、テレーズは諦めず、アルベールに”立ち向かう”。
冒頭で映る戦争の匂いがこの作品の強烈な下地になってて、テレーズが人生をやり直そうとしてたのも、何となく分かる。
すべてに気づいているようなマルティーヌのさりげない気遣いが、とても愛らしい。
「思い出す努力をしてほしい」と迫り、医者に回復の可能性を尋ねたあと、二人はダンスを踊る。
テレーズがアルベールの後頭部に触れると、生々しい傷跡が映し出され、冒頭の場面が呼び起こされる。
彼の頭の傷は戦争の痕なんだが、失われた記憶は心の傷だったわけで、16年というのも重い。
ここでテレーズの望みは絶たれるんだが、それでも踊り続ける二人の姿が痛々しい。
テレーズの気持ちを知った近所の住民は、「たとえ本人でも記憶がなければ意味がない」と言う。
それでも去ろうとするアルベールに対して、「アルベール・ラングロワ!」「止まれ!」「ラングロワ!」と、皆で叫ぶ。
その叫びの意図と、本人の受け取りのギャップが見事で、アルベールからすると思い出したくない記憶を、無理やり引っ張り出される。
そして「彼は無事」だと聞かされるが、「ホントはどうなん?」で終わる。
実質伏線回収というより、記憶の回収のラストは痺れた。
あまりにも惨い。
