時価6,000万円のモルヒネをめぐって繰り広げられる、欲にとり憑かれた人間の醜さと滑稽さを描いたサスペンス・コメディ。
物語は、終戦の日から10年後。
軍医が防空壕に埋めた時価6,000万円にもなるモルヒネを掘り出し、一獲千金を狙う5人の男女が集まる。
しかし、防空壕の場所には肉屋が建っており、彼らはそこから20メートル先の空き家を借り受け、トンネルを掘り進めることになる。
騙し合い、裏切り、駆け引きが渦巻く中、商店街はあと2日で立ち退きとなり、最終日は暴風雨に見舞われる。
メインキャストは殿山泰司、西村晃、加藤武、小沢昭一、渡辺美佐子の5人。一人ひとりが粒が立っている癖のあるキャラクター。
ここに一服の清涼剤のように長門裕之が時折顔を出す。
次から次へと湧き上がる人間の底知れぬ欲望や、金をめぐる滑稽で哀しい駆け引きの数々が、テンポよく描かれてる。
モノクロの映像が、登場人物の心の暗部や、時代の不穏さや薄汚れた感じを浮き彫りにし、カラーに慣れた今だからこそ、むしろ新鮮に映る。
大沼上等兵(殿山泰司)の大阪弁がストーリーに和みを与えているが、山本一等兵(加藤武)を追いかけてくる刑事の関西弁は違和感がある。
肉屋の親子(中原早苗と三崎千恵子)の大阪弁もやや不自然に感じる。
そもそも、当の本人である軍医がいないという始まりが滑稽だが、戦後間もない「泥棒より警察が多い」という時代の一コマといったところだろう。前半のバックサウンドもどこかコミカルで面白い。
クライマックスの暴風雨のシーンは圧巻。
悪どさと抜け目のなさを演じる渡辺美佐子の演技が光る。
「果しなき欲望」の上前をはねた悪党がカラスだった、というオチはどこか救いがある。
映画はモノクロだが、その長所を活かし、明暗のコントラストと画角に説得力を感じる。
今のように機材が発達していない時代によくこれほどの映像が撮れたものだと思う。
今でも通じると思うので、この脚本を元に、現代版リメイクが見てみたい。
この時代の作品を見ると、今では見る影もない日本映画の衰退が本当に惜しまれる。