時間が出来た時に、第1次予選から出場順に聴き直しています。
アーカイヴで残されていますので、敢えて、聴き直しての感想が必要かどうかとは思いますが、私自身のために、今後残せるものは残そうと言う思いで。聴かせて頂いた順に、アップさせて頂きます。
第1次予選は、
下記の(A)、(B)、(C)の順に演奏する。演奏時間は合計20分以上25分以内とし、
(A)バッハ 平均律Ⅰ、Ⅱ巻より1曲
(B)ショパン 練習曲作品10または作品25より1曲
※予備審査曲と重複してもよい
(C)1900年以降に作曲された作品
※予備審査曲と重複してはいけない、となっています。
Entry №41 カンテ・キム
このコンクールに於ける彼の白眉は、第2次予選で弾いたリストのソナタだと後で感じたものの、この日の演奏もどれも素晴らしい。バッハはあっさりと通り過ぎて行くが、良く揉まれた解釈だと言うこともわかる。シャープなタッチで音は立っているが、音そのものが突出している訳では無く、音楽的な連関が十分に感じ取れる。ショパンでは、彼にしては珍しく打鍵のミスも聴こえて来たが、楽譜に指定されたアクセントが決して恣意的にならず、ショパンが意図した通りの音楽が、彼なりの解釈で見事に具現化されていた。中間部の抒情性も、予選でこの曲を弾いた誰よりも素晴らしく心に届き、その両端のすさまじい音楽と併せ、曲の隅々にまで神経の行き届いた見事な演奏。ストラヴィンスキーも、冴えた技巧と、作品が求めているようなコントロールされながらも多彩な音色により、曲の良さが十分に引き出されていた。一聴すると、多少冷静で醒めたように感じる人もいるかも知れないが、深い譜読み・完璧に近い技巧と彼自身が持つ豊かな音楽的感性の上に成り立っている「奥行」や「唄」が十分に感じられた。大変優れたピアニストだと思う。
Entry №40 ドゥミトリ・マイボローダ
実際に会場で聴かせてもらい、その素晴らしい演奏の連続に、その時から彼の本選出場を心から願っていたのだが・・・。バッハからして、この人の音楽的な「哲学」のようなものが非常に良く感じられる演奏。彼独自の付加価値が至る所に加えられていて、ハッとするような場面が連続する。ショパンも、序奏から響きが独特で、ショパンの音楽と言うよりは、趣味の良いロシア音楽を聴いているような錯覚に陥ってしまうような、そんな個性的な演奏。彼独特の「練り込み」も、決して嫌味に感じるような趣味の悪さではないのが良い。ラヴェルも大変な名演。演奏を始める前に、少々ざわつく会場を見回していたが、最弱音から始まるこの曲を端から端まできちっと聴いてもらいたいと言う彼の心意気が、そこからも良く伝わって来た。曲の性格やこの曲の持つスケールを描き切っており、音色も実に多彩。音楽が波のように、前に行ってみたり後ろに退いてみたり、そんな味わいや駆け引きのようなものも十分に感じられ、聴いていてとても面白いし、それでいて毒々しいものもたくさん含まれている。それにしても、彼のこの曲の演奏を何度youtubeで聴き観したことか。全く飽きることのない、素晴らしい「ラ・ヴァルス」だった。
Entry №39 シンイー・リ
バッハは声部の描き方が明確で、明る目のタッチと相まって、この曲に良く合っている演奏だと感じる反面、終結部の恣意的なルバートが、個人的には趣味に合わない。ショパンは四分音符=160を超すハイスピードで、Allegroと言うよりはPrestoと言っても良いような速度で弾き進んで行くが、音楽的な味わいと言う点でマイナスだし、案の定右手の運指が安定せず、最後のルバートも自然さに欠ける。バルトークは曲それぞれの性格の描き分けが上手く行っており、ウェーベルンは大変主観的な演奏で、この曲が本来持つ独特の音の移ろいのようなものよりは、音自体の点描と言う方向に向いていて、それはそれで楽しめる演奏。全体的に技巧に走るような傾向にあり、機能美があまり目立たないような曲の方に、比較的良い演奏が聴ける。音楽的に、自然な息遣いを更に感じたいところだが、良くも悪くも、きっとこれが彼の個性なのだろう。
Entry №38 大平 達也
なんて清らかなバッハなんだろう。音符の意味合いが十分に感じられ、音楽が活きていて、躍動している。素晴らしい演奏。ショパン、時折聴かれるミスは残念だが、許容範囲。左手だけに注目して聴いていても、思いつきのような打鍵は皆無、音楽のアウトラインをしっかりと把握し、音楽そのものをとても大事にしている。流れも自然だし、ほぼ言うことのない演奏。先日「KAWAI」のコンクールでお聴きした徳永 哲也さんの演奏に共通するものを感じる。バルトークのソナタ、曲の理解に長け、優れたリズム感で、この曲の持つ独特の雰囲気を十分に描くことが出来ている。ただ、表現がほんの少しこじんまりしていたようにも感じ、更に生き生きとした表情やダイナミクスが聴かれればとも思う。二次で予定していたリストのソナタを楽しみにしていたが、聴くことが叶わず残念だった。ピアノを弾くことが本当に好きな人なんだろうと思う。今後注目したいピアニスト。
Entry №37 イゴール・ステパノフ
この出場者から、実際に会場で聴くことが出来た。
全体的に、音の細部にこだわるタイプではなく、観念的に捉えたものを、雰囲気で弾き進んで行くと言う、ユニークなピアノ。最低限のコントロールは出来ているものの、音符に神経が行き届いていないし、これだけ味わいや趣きに乏しい演奏を日本で聴くことは、昨今珍しい。
Entry №36 ヌノ・ヴェントゥラ ドゥ ソウザ
たっぷりと時間をかけ、丁寧に紡いで行くバッハは、響きの追求に最も注意を注いでおり、この曲が宗教曲のような趣きさえ感じる。ベーゼンドルファーを選んだ理由の一端が、この曲に良く表れていた。ショパンは、明らかにこの曲を弾いた他の出場者とは異なった演奏。冒頭序奏でのルバートをかける音符や、主部のデュナーミクも、通常聴くものと大きく異なる、良く言えば個性的な演奏。ただ、演奏上のミスが多すぎるし、ミスから「弾き直す」と言う癖が、演奏家としての姿勢と言う意味で、どうしても嫌。ヴァインのソナタは、パソコンのキーボードを叩くような打鍵・指使いが特徴的で、それなりに効果を上げていた場面もあり、見方によっては破天荒なピアノだとも言えるが、彼独特の美学の上で作り上げられた響きを重視した音楽で、もうひとりこの曲を弾いた出場者に比べると格段に面白かった。欧州からの挑戦と言うことと、独特の音楽観と響きと言う観点を評価されて二次に引き上げられたように思うが、どうしても「弾き直し」が嫌だし(二次でも同じような場面が幾度とあった)、彼以上に興味を惹く出場者の演奏を、次のラウンドでもっと聴いてみたかったと言うのが本音。
Entry №35 キュホ・ハン
彼の選んだバッハの曲は、この曲集の中ではあまり出来の良い曲だと思えず、聴いていてもあまり面白くなく、演奏そのものも単調に聴こえてしまう。ショパンもごく自然体で弾いているが、技巧に乱れが生じたり、これも彼の本領が発揮された演奏とは言い難い。だが、ラヴェルの2曲は大変素晴らしい。音楽そのものにゆとりがあり、全てに於いて全く無理が無い。男性としては珍しく柔和な音楽を聴かせるが、決して軟(やわ)な演奏と言うことでは無く、淡々と音楽そのものが持つ魅力を実直に追いかけて行った結果、それが彼の人間性までも見事に明らかにしている。難曲「スカルボ」を、これだけ中身のある充実した作品として聴かせてくれた例は、そう滅多にない。二次がベートーヴェンとショパンのソナタと言うことで、選曲の良さが演奏に表れて来るのかを、改めて楽しみにしてみたい。
Entry №34 古海 行子
バッハは、書かれている音符に寄り添った、実直・素直な演奏。音楽には重厚な雰囲気さえ漂い、音符を「飾る」ような意図など全く見えない。ショパンは、最初聴いた時、右手の音符が立ち気味で、楽譜の指定にある「sempre legato」ではない弾き方ではと思い、恣意的な感じがしてあまり気に入らなかったが、何度か聴き直してみて、それが間違いだと気付かされた。それくらい右手のタッチをはっきりしないと、この曲の性格が浮かび上がってこないと言う、彼女なりの美学・結論だったんだろう。シマノフスキは、少し力んでいるようにも感じるが、良く弾きこんでいるのか、曲を完全に自分のものにしており、曲の良さに気づかされた。ショスタコーヴィチは、この曲の持つ若書きのエネルギーを率直にぶつけるような、パワー満点の圧倒的な演奏。決して大げさでもこけおどしでもない、彼女の優れた音楽性が見事に演奏に反映されていた。この予選で弾いたプログラムを通して聴き終わると、披露した4作品が、あたかも一つの楽曲(4楽章からなるソナタ)のように聴こえ、とても不思議な感覚になった。抜群の選曲、そして演奏。彼女がどのような音楽家であるのかと言うことを、彼女自身、このステージで見事に提示出来ていた。この時点では「只者」ではないとは思ったが、まさか優勝されるとは・・・。
Entry №33 坂本 彩
偶然にも、バッハは直前の出場者と同じ曲目だったが、聴き比べてみると、彼女の音楽は重厚で、味わい深いことが良く聴き取れ、自身の良さを最大限表現しようとする最適な選曲。ただ、少し神経質になっていたのか、特に前奏曲では、音運びが少し窮屈になっていたきらいがあったが、フーガでは良く持ち直していた。ショパンは、彼女らしくないミスが目立っていたのは残念だが、音楽的には十分充実していた。ドビュッシーは、豊かな響きの上に積み上げられて行く立体的な構築物が、眼前に広がって来るような、とてもスケールの大きな演奏。グバイドゥーリナは、昨年彼女の演奏で実際に一度聴いているが、この日の演奏は一段と集中力を増し、この曲のこれまでの演奏の集大成とも言えるような充実度で以って、彼女自身の音感の良さとポテンシャルを見事に出しきった、大変素晴らしい演奏だった。予選が終わったこの日の夕方、高松市内の繁華街の真ん中で、彼女に偶然にもバッタリと行き会ったのには、本当にびっくりした・・・。
Entry №32 ユンソ・チョン
大変堅実な演奏だが、直前の出場者の印象が強すぎ、少し損をしているような印象。バッハは、流れ、表情付け、右手と左手の打鍵のタイミングのずれのどれもが多少作為的に感じられ、個人的にあまり好みではない。ラヴェルは、全般的に単調に感じられ、音色の引出しも少ない。全体的に表面的で、音楽の運びにももう一工夫欲しく、結果として内的な充実度と言う点で物足りない演奏。演奏時間も、規定の20分に2分程満たない。
Entry №31 タチアナ・ドロホヴァ
これまであまり気にしていなかった出場者だが、youtubeの演奏を聴くと、なかなか好み。とにかくリズム感が良く、音楽が積極的で常に前を向いている。その一方で、程良い抑揚が心地よく、他の出場者の演奏では聴き取れないような「ハッ」とするような場面が実に多く、大変示唆に富む演奏を聴かせてくれる。また、どの音楽にも「起承転結」が感じられ、弾きっぱなしと言う場面は全く無く、実に充実している。プロコフィエフもかなり鋭角的・攻撃的な演奏だが、荒れるような場面は無く、技巧の裏付けもあり、実に豊かで音楽的。集中力も素晴らしく、かなりの実力を持った人だと思う。二次のベートーヴェンとシューマン、心して聴かせて頂こう。
Entry №30 アウレリア・ヴィソヴァン
コンクールが開催されている当時は、この人が本選に進むとは(まさか)思っていなかったが、こうやって演奏を聴き直してみると、アジア出身の出場者とは異なる、いわゆるヨーロッパ由来の音楽的な伝統や雰囲気が、彼女の演奏に息づいていることは良くわかる。日本人の若手奏者達がヨーロッパ各地に留学したいと思う理由のひとつに、こういう独特の息遣いを経験し、そして得たい、と思うからなのかも知れない。このコンクールは「国際コンクール」を名乗りながら、ロシアを除く欧州出身の出場者が少ないこともあり、そういう意味で、彼女には(言葉は悪いが)多少優遇されたような印象さえある。実際に、演奏は傷が多すぎるし、音そのもののコントロールも気になり、表現的にも率直過ぎる部分が感じられ、個人的にはあまり評価していない。スクリャービンにしても、かなり自由に弾いている感じで、幾分散漫な印象がある。
Entry №29 寺元 嘉宏
音楽的な表現や持って行き方は、鐵さんと共通する部分も感じるが、今回のコンクールでは、少し神経質気味と言うか、安全運転に徹し過ぎたような気がしないでもない。彼らしい常識的で節度のある音楽を展開していたが、演奏を聴いて面白かったか、あるいは、演奏から音楽的な感興があったかと問われると、ちょっと難しい答えになってしまう。こちら側も「しかめっ面」をして聴くような音楽になってしまっては、それが彼のキャリアを考えると、ちょっと残念に思ったりする。特にラヴェルは、ほんの数日前に、実に豊かな演奏を実演で聴いたばかりで、どうしてもそれと比較してしまうと、今回の彼の演奏では、もちろん緻密にまじめに取り組んでおられたのは良くわかるものの、無難にここを通過しようと言う気持ちがほんの少しあったのだろうか、音楽的なゆとりや広がり・味わいが、わずかに足りないように感じてしまった。
Entry №28 鐵 百合奈
平間さんとは対照的なピアノ。彼女の演奏からは、自身を押し出すのではなく、「職人的」と言うか、曲に敬意を表しながら、ひたすら「奉仕する」と言う姿勢が見え、「コンクール」と言う場所はあまり似つかわしくないようにも思ったりする。バッハも一見大人しい印象だが、貞淑(=しとやか)さが充満し、際立っている。ショパンも同様だが、楽譜に忠実で、曲そのものの良さが演奏から聴き取れる。ラヴェルもしっとりとした柔らかさを感じ、彼女の音楽的な質の高さが感じられるものの、打鍵に少し甘いところが散見されたり、また、コンクールと言う場での表現力・アピール度と言う点からみて、少し弱いように感じてしまうのは、会場の大きさに見合う音量やスケールが少し足りないからなのかも知れない。そう言った意味では、アンサンブル奏者として、より適性があるようにも感じるが・・・。
Entry №27 平間 今日志郎
バッハは、表面的には何の変哲もないような演奏に聴こえるが、音符を十分に吟味した上で、譜面に忠実でありながらも、実に爽やかで澄んだ音・音楽が聴こえて来る。ショパンでは、加えて更に味わい深い音楽が展開されて行く。プロコフィエフは、直感的でありながらも良く練り込まれており、只者ではない雰囲気が感じられる演奏。表現的には、以前お聴きした土屋 絵葉さんと、youtubeでお聴きした中川真耶加さんの中間ぐらいに位置する感じ。彼は、テクニックにも長けているし、音感も非常に良く、いわゆる「天才肌」と言う形容が似合っているだろうか。どちらにしても、間違いなく彼の弾く音楽は輝いている。ただ、二次予選の演奏では、少し「暴れた」ような印象があり、個人的にはちょっとどうかと思うような演奏だった。それはまたその時に書きます。
Entry №26 キョンウォン・キム
小気味よい打鍵で、スイスイと進んで行くバッハは、彼の音楽性に最も合っている曲のように感じる。ショパンも同じような進み方だが、ミスが目立ったのは残念。冒頭から徐々にだがテンポが落ちて来るのは、どういう意味だろうか・・・。ドビュッシーも、彼らしい個性が発揮された演奏でなかなか聴かせるが、多くの出場者の中に入ると、少し地味な印象。いわゆる印象派の作品よりも、二次以降に準備されていた「カッチリした」ような傾向の曲をもっと聴いてみたかった。
Entry №25 伏木 唯
自身がどのようなピアニストなのかを、個性を程良く明らかにしながら、非常に良い提示が出来ている。全体的には芯のある硬めの音ではっきりと弾くが、音楽そのものには十分に潤いがあり、直前に出てきた出場者との違いが良くわかる。ショパンでは技巧的に嵌っていなかったのが少し残念だが、程よい詩情が聴こえて来て心地良い。ブゾーニは聴き手をグイグイと惹きこむ名演。ドビュッシーは、曲のイメージよりも少ししっかり目に弾いていると言う印象だが、こういうドビュッシーも悪くなく、演奏そのものにも余裕を感じる。プログラミングと言う点では満点。それにしても、フランス物、ドイツ物の両方をこれだけ見事に聴かせるとは・・・。二次予選を聴いた帰り道に、会場近くの横断歩道で偶然にも隣同士になり、その日聴いたブラームスの演奏を私なりの形容で誉めさせて頂いた時、「演奏者冥利に尽きるお言葉を頂戴し、こんなに名誉なことはありません」と返されたことを、今改めて思い出します。
Entry №24 クリス ジュヨン・ハン
まず、演奏時間が17分程度と、規定よりもかなり短い。これはマイナス要因。演奏は前のめりな感じがあり、聴かれる音楽からはゆとりや味わいのようなものがあまり感じられず、全体的に慌ただしい。バッハでの「品(しな」)を作るような終結部は、彼の曲中の流儀とあまりにも乖離しているようで、一貫性に欠ける印象。ショパンのテンポも速すぎ、技巧の披歴に終始しているように感じる。ストラヴィンスキーも、思った程の技巧の冴えが聴かれず、恣意的な解釈と併せ、個人的にはあまり好みの演奏ではない。
Entry №23 ウネ・イ
バッハは幾分慎重な導入だが、メリハリある音造りや流れが加わると、情感豊かな味わい深い演奏が聴かれた。ショパンでは独特の感性に由来するルバートやアクセントが効果的で、多少ミスはあったものの、決して悪くない演奏。ドビュッシーは、明るめの音色の上で自由に泳ぐよう。バルトークも、独特のリズムを上手く捉えながら自在に曲を進めて行くが、音楽的なスケール感と言う点で多少物足りない。この人の場合も選曲が幾分散漫な印象で、総合的に見て少し損をしているかも知れない。
Entry №22 ツィーハン・グォ
音の扱いに少し神経質・慎重な感じが無きにしもあらずだが、音価や音符ひとつひとつの性質を十分に吟味しながら進んで行く、自信に満ちた個性的なバッハ、情感豊かな中にもメリハリを感じるショパン、場に相応しい響きを地味に重ねて行きながら構築されて行くドビュッシー、スクリャービンも独特の音造りや雰囲気が曲に相応しく、美しく、なかなか聴かせる。選曲がやや散漫になっていたきらいはあるものの、それも彼独特のキャラクター。しっかりと自分の音楽を持っており、通して聴いてもなかなかの弾き手だと言う印象。蝶ネクタイが外れるのにも気がつかない程、演奏に集中していた。
Entry №21 正田 彩音
慎み深く、堅実に淡々と声部を描き分けて行くバッハ、時に思い切ってはいるものの、変に盛り過ぎずに響きを丹念に聴かせて行く、日本人の女流らしい大変趣味の良いショパン、メトネルでは少し粗さが出てしまったのは勿体なかったが、あまり馴染みのない音楽を、決して弛緩させるようなことも無く、聴く側に曲の真価を十分に伝えた、なかなか聴き応え・聴き映えのする演奏で、次のラウンドに進んでも良い内容のように思えたが・・。これまで彼女の演奏を実演で聴いたことは無いが、今後注目して行きたいピアニストのひとり。
Entry №20 サムエル・チョ
バッハや、ラフマニノフの抒情的な曲想の部分には豊かさが感じられ、個人的には好みの傾向の演奏だが、テンポの速い部分になると、急に力感が表に出過ぎてしまうような傾向があり、その両面のどちらが彼女の本質なのかが今一つわかりにくく、どちらかが「造り物」のような印象さえ受けてしまう。ショパンは、「Presto」の表記があるにしても、幾らなんでも速すぎ(二分音符=100を超える部分さえあり・・・)、ショパンの音楽的な美感が聴き取りにくいのが残念。
Entry №19 ダリア・パルホーメンコ
かなりゴージャスで現代的なピアノを弾く人。音の整理が上手に出来ていない印象で、バッハやショパンではやや煩く感じる。ショパンは音がぶつかり合うが、聴かせたい音よりもそれとぶつかる方の音が目立ってしまい、多少耳ざわりで粗野な音楽を弾く人だと言う印象を受けてしまう。全体的に、音楽的な「味わい」が感じられ難い。ヴァインのソナタはこれまで聴いたことの無かった曲だが、聴きこんでもそれ程良い曲だとは思わない。演奏はやや繊細さに欠けている印象で、音色は輝かしい一方で、やはり多少煩い演奏のように感じた。私が聴きたいピアノとは対極にあるような演奏なので、そのような感想になってしまっても、まあ仕方ないか・・・。「KAWAI」のピアノで、こういう音を求めていると言うのは、面白い。
Entry №18 喜多 宏丞
彼の演奏は、これまで何度も聴いて来たが、このコンクールの演奏でも、これまで聴いた印象とは大きく相違はない。どちらかと言うと「玄人受け」する演奏と言うピアノで、ピアノを専門に弾かれる方からは感嘆の声をお聞きする一方、私にはどうしても「作為的」で理屈っぽく聴こえて来てしまう。(今回は特にバッハで)。ショパンは技巧的に安定せず、少しムキになりながら弾き急ぐあまり、音量の大きい部分では音そのものが綺麗に響いていなかった印象。スクリャービンのソナタは、さすがに弾き慣れた曲と言うこともあり、これは見事な演奏。感想は、以前同じ曲をお聴きした時と変わらず、その時の記事を下記リンク先で参照されたし。
https://ameblo.jp/magic1963/entry-12328668051.html
彼がベーゼンドルファーで求めたい音は、スクリャービンと山田耕筰の2曲で聴かれたように思う。
もっと「率直」な彼の演奏を、いつか聴いてみたい。
Entry №17 ジンチャオ・シュ
派手さは感じないものの、大変実直・率直な演奏。音楽的な実も詰まっており、なかなか聴かせるが、多彩な個性を持つ出場者に混じると、アピールポイントに乏しいとも言えなくもない。現代に近い曲になる程、彼の真価が聴かれるような感じで、中でも珍しいカバレフスキーのソナタでは、度々はっとさせられる瞬間もあり、曲の良き紹介者とも言えるが、一方で、敢えてこのコンクールで取り上げるような曲とも思えず、もっと彼自身の良さが表れるような、更に高いところにある曲目で勝負して欲しかった。
Entry №16 ピルウォン・ソ
なかなか機能性に優れた演奏だが、多少作為的・頭でっかちな運びで、実質的な音楽の豊かさと言う点で物足りなく、いわゆる「行間」が感じられ難い印象。ショパンでは、曲想が変わった直後、38小節目の3拍目頭の音をミスしてしまったのが痛かった。全体的に、語られる言葉は多いものの、その中身が付いて来ていない感じで、あまり印象に残るものは無かった。
Entry №15 イレイ・ハオ
彼についての予備知識は全くないが、この日の15人の出場者の中では、5番のスーチェン・リ氏とならび、個人的には高評価を与えたい人。
指は良く回るが、それでいて、時に朴訥さを見せたりしながら、趣のある音楽を奏でていて、単なるテクニシャンでないところが良い。「YAMAHA」の楽器との相性も良く、音自体が良く立って聴こえており、メリハリのある演奏がとても印象的。相当な集中力を要するスクリャービンでは、奥行のある音楽を聴かせながらも、この曲にしては運びが積極的で、決して弛緩した部分を感じさせず、彼の質の良い音楽性が前面に出た、大変優れた演奏、そして奏者だと感じた。こういう演奏が聴けるからこそ、ピアノと言う楽器をもっと聴いてみたいと思うし、それを眼前に示してくれた、そんな大変素晴らしい選曲、そして演奏だった。
Entry №14 ゲルマン・キトキン
彼も、昨年開催された「第1回Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール」でファイナリストとなり、「奨励賞」を受賞している。二次以降の演奏についてはいろいろ思うところもあるが、この一次予選で聴かせる、彼独特のベタっとしたタッチに由来する音色は魅力的で、他の出場者にはない強い個性を持っていると感じさせられた。ラフマニノフでの独特な「間合い」は、如何にもロシアのピアニストと言う「主張」をしており、それが一次予選では強い武器となり、無難に二次予選に進んだと言った印象。3曲弾いた順に、基調を半音ずつ上げて行くと言う選曲が、意図されたものかはわからないが、このような「選曲の妙」を感じたのは、14人聴いた中では彼が初めてだったことも、ぜひ記しておきたい。
Entry №13 サン・ジッタカーン
昨年開催された「第1回Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール」で、第2位の経歴を持つ俊英。それにしても、とにかく良く「しゃべる」演奏。彼の演奏の「饒舌さ」を好むかどうかで、評価が分かれるのではないか。音符の「行間」から何かを得ようと言うには少し辛い感じで、作曲家が書いた音符から得られる「インスピレーション」や、演奏から得られる「余韻」が感じられ難いのは残念。個人的には、あまり評価出来難いと言った感じだが・・・。どうしても演奏全体が「表面的」になってしまているし、「ペトルーシュカ」では、技巧の冴えももう一つで、なぜ彼が二次予選に進めたのかが、良くわからない。
Entry №12 ユペン・メイ
音自体はかなりゴージャスで良く響くが、音楽そのものはちょっと大仰な感じがしないでもない。演奏には勢いを感じるが、それが功を奏している場面と、そうでない場面が聴かれる。ショパンは、上手く行った方の例で、思った程の技巧の冴えは見られないが、良い行きっぷりで、音楽的にかなり聴かせ、こういう直線的な曲が合っているのかも知れない。ラフマニノフの最終楽章は、かなり煩く、何かバタバタしている雰囲気で、味わいに乏しく、もう少し落ち着いた、腰の据わった演奏を聴きたい気分になる。
Entry №11 テヒョン・オ
梅村さんの演奏時に携帯の着信音が鳴ったようだったが、彼の演奏時も大きな物音がして、さぞビックリされたことだろう。とても気の毒だ。
バッハは、必要以上の音量の増減があり、作為的・少しやり過ぎのように感じた。ショパンも抑揚のつけ過ぎと言う印象で、少し暑苦しい。プロコフィエフ、きっと全曲弾きたかったのだろうが、「国際コンクール」と言う場で、ソナタの楽章から抜粋して弾くと言うのは、ちょっと常識では考え難い。楽章間の所作を見ていても、この曲を「組曲」とでも思っているのだろうか。せっかく良い演奏をしているのに、これでは勿体ない。もっと他に、弾くべき曲があったのではないだろうか。
Entry №10 樋口 一朗
日本音楽コンクールの覇者でもある樋口さん、とても常識的で味わいを感じ、品がある。演奏が前面に出て来ると言うよりは、曲の良さを聴かせるタイプで、あまり口数の多い演奏と言う感じではない。その一方で、決して大きなスケールを感じさせるような演奏では無く、聴く人によっては、地味目で、音楽的に物足りないと思うかもしれない。スクリャービンのソナタは、下の堀内さんも弾かれたが、かなり芯のはっきりした音で以って、彼女以上にしなやかな音楽が聴かれ、このお二人の演奏を続けて聴いて、更にこの曲が好きになった。
Entry №9 堀内 麻未
一見素っ気ないような態度や演奏だが、とても誠実に譜面に向かっている姿勢が感じられ、テクニックも素晴らしい。スクリャービンにしても、曲が全く崩れておらず、面白さと言う点では物足りないが、この曲そのものの素材の良さを教えてくれる、そんな演奏。一方、この人でないと、と言うようなセールスポイント・インパクトはあまり感じられず、コンクールと言う場ではあまり印象に残らない。ただ、いつか近いうちに大きく化ける可能性を持ったピアニストだと思うし、今後個人的に注目して行きたい人。
Entry №8 ヴァシル・コーティス
バッハでは(独特のルバートが気になったが)しっとりと聴かせていたが、ショパンでは冒頭でつまずいてしまい、右手のパッセージが怪しくなり、音楽的にも浮き足立ってしまった。ラフマニノフは、それなりの雰囲気は感じるものの、別の方の素晴らしい演奏を最近お聴きしたこともあり、彼の表面的に流れて行ってしまうような演奏が、個人的にはあまり興味が持てなかった。全体的なテクニックの面でも、安定感に欠けてしまっていた印象。
Entry №7 梅村 知世
栗田さんと同様に、日本人らしい人間味の溢れる演奏を聴かせる。優れた技巧も持ち合わせ、弾かれる音楽は重厚、音そのものにも重みを感じ、その人柄も演奏から良く滲み出ている。一方で、このコンクールに対する意気込みが、演奏から感じられ過ぎ、若干の力みと共に、音楽が幾分平板に聴こえてしまう傾向あり。もう少し自然体で臨んで欲しかった。ショパンでは音符の弾き分けも良く出来ており、悪くない演奏だが、自分なりに練り込んだ演奏が、聴く側にはあまり届いて来ない。それにしても、彼女程の「ビッグネーム」も、このコンクールでは1次も通過させてもらえないとは。
Entry №6 栗田 奈々子
前回の第3回は3次予選まで進出。とても人間味溢れる演奏をされる、素敵なピアニスト。演奏する楽曲の持つ「器」以上に大きい音楽・立派な音楽を聴かせようとする傾向があり、それがマイナスに働いてしまうのだろうか。その点で、特にショパンでは失敗してしまったような印象。どの曲の演奏にもその傾向があり、プログラムを通して聴いていると、多少暑苦しく(息苦しく)感じてしまうのが残念。もう少し楽な気持ちで、曲の持ち味そのものを表出するような演奏をされたら、更に映えて聴こえて来るような気がしてならない。その中で、バッハはチェンバロのようなはじける音が聴こえて来たりなど、良くこの曲を勉強された跡が感じられ、特に良い演奏のように感じられた。
Entry №5 スーチェン・リ
彼女の1次予選の演奏は、当時からかなり印象に残っていた。バッハを弾きながら、彼女は自分の出している音をその瞬間に聴き分けながら、音量やバランスを上手に調整しながら弾いていた。しっとりとした唄心があり、良い教育を受けて来た様子が窺い知れる演奏。ショパンでは幾分粗さがみられたが、ラフマニノフで聴かせた抒情性は出色で、なかなか聴くことの出来ないもの。ジェフスキー、以前にも書いたけれど、何度聴き直しても、絶妙なタッチと知的なアプローチ、加えてデュナーミクの鮮やかさは大変見事で、曲の本質を捉えたとても素晴らしい演奏。彼女の知性、そして素晴らしい音楽性を垣間見ることが出来た。ぜひ、一人でも多くの人に、彼女のこの演奏を聴いて欲しい。なぜ、彼女が上のステージに進めなかったのかが、今以ってわからない。これから追いかけて行きたい「逸材」。
Entry №4 チンホン・リ
音圧が強く、音楽に勢いがあり、曖昧さがないのがセールスポイントか。技巧も大変優れている。ショパンは趣に欠け、やややり過ぎの感もあるが、コンクールでは、この位やってくれる方が、むしろ好感が持てる。バーバーも良くこなれており、曲を自分のものとして、確信を持って演奏しており、これは素晴らしい演奏。彼はいわゆる「今風」のピアニストであろうし、個性が曲よりも前面に出ているのが面白い。
Entry №3 ダニイル・ツベトコフ
小塩さんの演奏とは異なり、全体的に大人しく、スケール感に欠ける印象。バッハは趣のある演奏で悪くないが、フーガでは時折気になる溜めのようなものが感じられ、もっと率直に弾いても良かった。ショパンは右手の音をあまり立てず、音楽に溶け込ませるような感じで、一般的に聴かれるものとは、少し毛色の異なる演奏。ストラヴィンスキーは「アゴスティ編曲版」。技巧的に安定せず、彼には本来あまり似合わない曲。彼が二次に選ばれた理由が、個人的には良くわからない。
Entry №2 小塩 真愛
初日の2番目と言うこともあるのだろうか、冒頭のバッハから力みが見られ、全体を通して音楽が上滑り気味に感じ、如何にも音楽を「作っている」と言う作為も感じ取られ、あまり楽しむことが出来なかった。技巧面には優れたものも見られたが、ストラヴィンスキーは粗く、力感は感じるものの、色彩感・繊細さに乏しく、せっかくこの編曲物を選んだ意味が、今一つ感じられなかった。オリジナル曲でも、もっと良い曲があると思うんですけどね・・・。
Entry №1 ジ・ヒョン・クヮク
まず、上で指定された順番に演奏されていない。C-A-B-C。なぜ、このような順番で弾かれたのか。本来であれば、これだけで「審査対象外」になるはずだが・・・。特に演奏順を変えた意味合いも、感じられなかった。
ラヴェル、バッハ、ショパンの演奏は、二次予選で再び聴きたいと思うような、率直で端正なものだったが、ストラヴィンスキーの「火の鳥」の出来が良く無かった。いわゆる「アゴスティ編曲版」と言うものを弾いていたが、ダイナミクス、技巧、共に、全く物足りない。オーケストラのために書かれた編曲ものを弾いた意味が、この演奏からは感じられず、インパクトに弱く、この演奏によって、二次進出から除外されてしまったような印象が強い。