ピアニストの前田 祐里さんにお誘い頂き、聴きに伺いました。
このお二人のデュオは、2年半程前に一度お聴きし、2度目になります。その時の記事は、昨日再掲させて頂きました。
さて、演奏されたプログラム(選曲)ですが、一見して、幾分統一性に欠けるような印象で、この日の「テーマ」が見えにくかったのが、個人的には少し残念でした。ワックスマンの「カルメン~」は、あまり好きな(いわゆる)パラフレーズ的な物ではないと言うこともあるのですが、これであれば、素直にサラサーテのものか、あるいはバルトークと同じハンガリーの作曲家・フバイの「カルメン~」の方が整合性が取れていたと思いますし、また、後半の始めのトークで、折角プーランクとフォーレとの興味深い関連を指摘されたお話がありましたので、諄くアメリカものが続くよりは、休憩を挟む形でフォーレとプーランクのソナタを並べてみると、より趣きあるプログラムになったかな、とも思いました。
演奏ですが、前半は、音楽的に暖まっていなかったのか、あるいは選曲にあるのかわかりませんが、お二人の持つ個性の相乗効果があまり感じられず、「あれっ?」と言うような瞬間も度々で、「アンサンブル」と言う点で多少物足りなく感じました。バルトークでは、お互いが間合いをつかみかねておられたのか、特に比較的テンポの緩いフレーズをつなぐような場所で、流れが途切れがちになってしまうような場面がみられたり、全体的な音楽的密度が少し薄く感じました。続く、ワックスマンと「ラプソディー・イン・ブルー」の2曲をプログラムに入れられたことは、会場を飽きさせないと言う意味での「エンターテインテント性」から見れば面白い試みだったと思いますが、前半で聴衆の耳が少し疲れてしまうようなプログラミングと言う印象もあり、前回の公演で聴かせて頂いたフランス物が素晴らしかったことからも、更にお二人の深い音楽性をお聴き出来るような選曲であったら、と言う思いを抱きながら、聴かせて頂いていました。
一転して、後半は聴きどころ・聴き応え満載の素晴らしい選曲・演奏の連続でした。
プーランクは、とても特異な難しい曲で、どういったアプローチでこの曲に臨むのか、演奏する音楽家の持つ「素養」が試されるような曲です。昨年、日本音楽コンクール・予選の課題曲になったこともあり、いろんな場面で数多くの演奏をお聴きしましたが、これまで納得行くような演奏にはほとんど出会えたことはありません(福澤 里泉さんの演奏が、理想には最も近かったでしょうか)。この曲が作曲された背景を大切にされ、演奏に臨まれることは大切なことでしょうが、そこに拘り過ぎることで「大局」を見誤ってしまい、細部を気にし過ぎたり、結果スケールの小さい演奏に終始する例が多いように思います。曲そのものの素晴らしさを、構え過ぎずにストレートに表現した方が、良い演奏になるような傾向を感じる、そんな曲です。
お二人の演奏は、常に前向き・積極的で、この音楽を「普遍的」なものとして演奏されていたように感じました。過剰な思い入れを極力排除し、音楽的な流れを最優先にし、それがとてもスムーズに表現されていて、この曲にとっての、ひとつの「理想形」となった、そんな感じでしょうか。
一方で、例えば第1楽章の練習番号1の直前2小節、これまで、これだけニュアンスのある、意味深く思いの籠った音楽は聴いたことは無く、単に勢いだけで進んで行くだけの演奏ではないと言うことなんですよね。
このページで聴かせたような、音楽の濃密さ、線の太さ、音符間の綿密さ、息の長さ、そしてお二人の音楽センスの良さは、多くの方にお聴き頂きたいものです。この後、練習番号16以降、1拍ずれたまま進行した時はドキドキしましたが、それがいつの間にか合って、その間があたかも譜面通りのように聴こえたのは、お二人のコミュニケーションの良さと、お互いを良く聴き合っておられたからに違いありません。
この日、最も聴きものだったのが、第2楽章でした。
このページ、夜の庭園に月明かりが照らされている、そんな情景が浮かぶような、含蓄・趣のある密度の濃い音楽が続いて行きました。そして、最後の印象的なピツィカート・アルコは決然と。
第3楽章は、これまでに経験したことのないような速さ。4/4拍子で四分音符は144と指定されていますが、体感的には160はあろうかと言うスピードでぐいぐいと進んで行きますが、それでいてニュアンスは実に豊富で、例えば、練習番号1直前のルバートなどは本当に魅力的。ここで段落を区切り、楽想を整理して行くような余裕が、何とも素敵。
練習番号6以降しばらくの、祐里さんの良く通る硬めの音で弾かれた旋律はとても印象的でしたし、練習番号7のあたりは、如何にもプーランクを熟知している祐里さんらしい、独特のアカデミックな響きが聴こえて来ました。
全体的には速いのに、全く急いたように聴こえないのは、楽章通じて緊張感に満ちた密度ある音楽が展開されたからでしょう。この演奏は、これまで経験したことのないような、スリリングなのに味わい深い、音楽的なセンスあふれる、最高の演奏でした。
そして、フロロフの「ポーギーとベス~」。知っているメロディが次々に登場し、音楽が全く弛緩することなく進んで行きます。紘子さんは暗譜での演奏。この曲を完全にご自分のものにしておられました。祐里さんとの息の合ったアンサンブルは、前半の不安定さが一体何だったんだろう、と思わせるような、華麗かつロマンティックな名演でした。このような素晴らしい演奏に出会えるのが、ライヴの醍醐味で、自分が選んで聴きに伺った公演で、そのような演奏に出会うことが出来た時の幸福な気持ちは、言葉では言い尽くせないものがありますよね。
アンコールの、味わい深いチャイコフスキーの「メロディ」と併せ、後半の3曲は、なかなか実演では出会えないような稀有な演奏でしたので、余計に前半の選曲とアンサンブルの密度が勿体なかったですかね・・。
私にとっては、最高のヴァイオリンとピアノのデュオ。もう2回公演をされましたし、そろそろコンビ名を付けられても良いように思いますが、いかがでしょう。
終演後、ロビーでお声をかけさせて頂こうとお待ちしていましたが、なかなかご挨拶されるお客さん達の列が途切れず、帰りの交通機関の時間が少々心配で、失礼させて頂こうと思っていた丁度その時、私の寂しそうな姿を見つけてくれた祐里さんが、「ごめんね」と、駆け寄って来て下さいました。祐里さんのお人柄と、人間としての器の大きさに、改めて気づかされた瞬間でした。おかげ様で、プーランクと、学生時代に弾いた「ポーギーとベス」の譜面に、無事サインを頂戴出来ました。祐里さん、いつもと同じ、あたたかいお心遣い、ありがとうございました。
出演者の方にご挨拶されるのはもちろん結構なんですが、多くの方が後ろで待っておられる、と言う気遣いが、ファンの皆さんには欲しいですね。奏者の方から「次の方お願いします」とは切り出せませんし。ぜひ、おひとり1分以内でお願いしたいものです・・・。
改めまして、紘子さん&祐里さん、公演のご盛会、おめでとうございます。本当に、お客さん一杯でしたよね。ぜひ、また聴かせて下さいね。
帰りに、名古屋駅前の「かぶらや総本店」の「おばんざい5種盛り」を頂きました。こういうの、いいですね。ごちそう様でした。









