それを聞いていたスタッフ達は非常に焦っていたわけですが







「気にすんな気にすんな、まずは応接室に入れて俺と事務長で応対するし、自分らには危害が及ばんようにするから安心しとき」






と、なだめました。







そして事務長を呼び事情を説明して


「念のために待合室にある週刊誌2、3冊サラシ代わりに腹に入れとけよ」



と指示しました。







事務長とスタッフ一同苦笑いです。







私はオープンな性格なので、自分の過去も特に隠すことなく話していますし、長年勤めていると皆が私のカラーに染まるわけで、腹も据わってくるみたいです。








当日は夕方から大雨になり、○○さんが到着する予定の17時よりかなりズレ込んでしまったため、私は他の患者を診察していて事務長が1人で○○さんを待ち構えていました。








○○さんが到着したのは19時過ぎになり、事務長が応接室に通しました。






私が遅れて応接室に入ると○○さんが軽く会釈するので


「お久しぶりですねー、○○さん」 


と声を掛けると小刻みに震えていて、大きなリュックのような荷物を横に置いていたので



「そこに刃物入れて来とるんですか?」




と質問すると、『なんで知ってんの』的な顔をするので




「昼頃、吉井弁護士から情報提供がありましてね、しかし自分のクライアントを敵に売るような弁護士に頼んだらあきませんよ○○さん」




と声を掛けると




「あの頃いろいろあって、それで唯一相談できる友達も死んでしまったんで弁護士に相談したら、あいつが先生からカネを返してもらおうって言い出しまして…そして言う通りにしてたら巻き上げられまして…もう自暴自棄になりまして…」





「で、刺し殺したろうと思ったわけですか?」






「い、いや…脅かすだけのつもりやったんですよホンマに」







「脅かすだけのつもりでも刃物なんかチラつかせたり振りかざしたりしたらあきませんて、所持してたらつい刺したくなることもあるわけやし、その荷物から出して早いとこ机の上に置きなさいな」





と促すと、リュックからゆっくり刃物を出して両手で握りしめていました。






その手は小刻みに震え、今にも発狂して襲いかかって来そうな予感もなくはなかった。








「○○さん、ええですよ、やりたかったら事務長刺したったらどないです?
三年前、おたくと揉めかけた時に色々と調査したんですが御自宅は持ち家で沿線沿いの駅チカにあるし、70坪ほどやからええ値つけますやろ?
しかも弟さん大手企業に勤めてはりますわな、急所さえ外して貰えれば事務長も慰謝料でお腹膨れますやろから喜びますよ、なぁ事務長」






と言って事務長に目をやると




「え、先生ちがいますの?私が標的ですか?」




と苦笑いしている。





「あほー、俺が刺されたら他の患者さん診れなくなるから迷惑かかるやろ?
おまえ代わりに刺されとけや」




と諭すと



「そりゃそうですね、○○さん急所は外してくださいよ、じゃあどうぞ」




と、両手を拡げて待っている。






事務長が、腹に入れてある週刊誌に刺してくれよと誘導せんばかりに構えているのを見て吹き出しそうになってしまった。








刃物を両手で握りしめていた○○さんは机の上にその刃物を置き




「す、すいません、わたしは別に先生にもまして事務長さんにも恨みなどありません」



と頭を下げ、そして



「警察呼んでください」




と言うので




「なに言うてはるんですか、あんな糞弁護士と一緒にしてもらったら困りますよ、なんで自分とこの患者さんを警察に付き出さなあきませんの?」




と答えると、○○さんは何度も頭を下げていた。






「じゃあ、今日はもう遅くなったんで、診療は来週から始めましょうか」






と締めくくった。







事務長は安堵が半分、残念さが半分のような複雑な面持ちで頷いていた。