先日、「山椒魚」の件で井伏鱒二全集を図書館から借りたとき、昔からずっと気になっていた「黒い雨」を読んでみました。
実は、私はこれを読むのを避けていました。何か、とんでもない物のフタを開けるようで、とても怖かったのです。
映画があるのも知っていますが、いまだにちゃんと観ていません。
この作品は戦後20年もたってから、雑誌に発表されたものです。
物語の場所は敗戦から三年経った広島の片田舎、
閑間(しずま)重松と妻のシゲ子は養女の矢須子が婚約を解消されたことに悩みます。
『原爆症の噂』が広まったことが破談になったと思った夫妻は、矢須子がこの病気にかかっていないことを証明するために、原爆投下前後の家族の行動を「日記として残す」とういうことを始めます。
日記を書く記録文のような長編小説です。しかも、知人の行動や出来事なども挿入してきますから、時間経過も前後して複雑な内容です。
この日記の中には原爆投下当日の被爆者の悲惨な描写が細部に渡って描かれます。読むことを避けていた理由はそれなのですが、実際読み始めると、なぜかそれほど怖くない... 淡々と原爆投下直後の広島の状況を書いた文字を、私は不思議な感じで追っていました。
映像でシーンを見せつけられるより、自分の頭中でイメージを制御してしまうんでしようか?
家をなくした重松、シゲ子、矢須子はやっとのことで辿り着いた、重松の会社の離れに厄介になります。
そして、食べて、寝て、すぐにいつもの生活が始まります。
原爆の閃光で焼き尽くされた、この世の地獄とも言われた街のすぐそばで、生き残った人々は、仕事があれば仕事に、行くところがあればそこへ、お弁当を持って、普通に出かけていきます。ただ打ちひしがれて座っているだけではありませんでした。
やがて、矢須子の原爆症は夫妻の期待を裏切って進んでいきます。彼女は悲嘆に暮れますが、作者はドラマとして読者の心情を掻き乱すような作りにはしていません。あくまでも淡々と記録文が続くのです。
私は映画のストーリーは少しは知っているつもりでした。
矢須子の変わり果てて行く姿に胸をつぶされるのかと覚悟していたのですが.....
しかし、読み終わって「えっ...これが原作なの?」...と
想像していた恐怖の世界とは 全く違ったものだったので、何か安心したような....それでいて「矢須子はその後どうなるんじゃ」という気持ちが残りました。
2は『父と暮せば』について....