※微ネタバレ注意
「かつてそこにひとつの国があった」
これは劇中で、ある人物が語るセリフだ。そしてこのセリフはこの作品そのものを端的にあらわしている。
ひたすら軽快な音楽をバックに、ハイテンションなふたりの男が騒々しく街を駆け回るシーンから始まる本作。この映画が実は「戦争映画」であると聞かされても、誰もが信じられないだろう。
たしかに三時間半に及ぶこの映画は全編を通して戦争がテーマとなっている。それは、チャプター形式に振り分けられた今作の全四章のうちの三章に「戦争」という副題が冠されていることからも明らかである。
しかし、戦争が生み出す悲愴さよりも、矛盾するような温かさ、ワクワク感、ノスタルジック感、そんな優しい雰囲気が作品を通して流れているのが本作の特徴だ。
この作品の主人公となるのは、第二次世界大戦勃発と同時に首都ベオグラードの地下、巨大な基地「アンダーグラウンド」に潜り込み生活をはじめる住人たち。
そしてリーダーとなって彼らを束ねるのは、お調子者で臆病者だが切れ者のマルコ、強面で硬派だが優しさに溢れたクロの2人である。
そこに美しさと茶目っ気を兼ね備えた女優のナタリアが加わり、可愛くも切ないテイストをそえている。
彼らを軸にこの長編映画は進行していく。
全編のほとんどを支配している陽気でおちゃらけた雰囲気。そしてユーゴスラビアの長く暗い戦争の歴史。一見矛盾するように見える2つの要素をあえて同じ作品の中にならべる。
そんな今作を見たときに我々なこころ打たれるのは、こんなにも陽気で明るい人々が暮らす国に戦争があったという事実である。
男も女も子供も若者も老人も、見境なく歌い踊り笑いながら暮らしていたアンダーグラウンドの住人たちは、地上に出てはじめて自分が何者であるのかを知ってしまう。
そして、クライマックスの数十分はしばし絶望的な雰囲気がこの映画を支配する。
しかし、この映画は絶望では終わらない。絶望の中に希望を見出す方法を我々に教えてくれる。
三時間半という長旅を終えたあなたはラストシーンで、しばし忘れていたことを思い出すはずだ。
「かつてそこにひとつの国があった」と。
