薔薇の見える窓から★星の王子さまのお話 | 思い草へ              

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バラ ご案内いたします  バラ

 

恒例となりました…年末年始にはこの記事を!

今年もまた、あなたにお読みいただきたく投稿いたします。

2016年掲載「星の王子さま」についての連続記事をまとめたものです。

「震災後5年」等の記述他、当時のままの数字であることをご容赦くださいませ。

少々長い記事になりますので、お時間がある時にどうぞ。

あなたの密かな愛の学びになれば幸いです。(笑)

 

戦火や貧困や災害やテロを日常的に目撃した今年でした。
一日のコロナ感染死者数が記録を更新し続けるこの国で、
禍い終息後のように日々が巡る2022年12月3Ⅰ日。
あなたはどこでどのようにお過ごしでしょう。

 

多くの命が失われた一年。

それでも多くの命が生まれ
多くの人々が互いの命を愛しんだことでしょう。

ああ、すべての命が耀きますように!
あなたの今が、

あなたの明日が、

あなたの新しい年が、

祝福に満ちたすばらしいものでありますように☆


2022年12月31日 一年の感謝をこめて*スノウ

 

 

《 薔薇のある庭からⅠ 》 

 

薔薇のある庭
家の中から 窓越しに見る その一輪と 
庭の外から 柵越しに見る その一輪とは
どこか違うものだろうか・・・。

HIDE氏撮影の薔薇の写真を見ながら、
そんな他愛のないことを何となしに思っては頬づえつく、午後。
薔薇といえば…私にとっては、『星の王子さま』。 
小さな王子さまとは17歳で出会って、何度も何度も読み返してきた愛する友人です。

気難しい一輪の薔薇との恋に終止符を打って、本物の友人を探す旅に出た小さな星の王子さま。
この人こそと思える人物とはなかなか出会えないけれど、
星々を旅する過程でさまざまな人や動物やモノと知り合い、
少しずつ大切なことが分かってゆく少年の心の物語。 (と、私は思っています。)

このブログを始めたばかりの頃、何を書いたら良いのか皆目わからず、
『星の王子さまの哲学』と題した たどたどしい短文をシリーズで書きました。
そこに書いたのは、こんな文章です。

《 星の王子さまの哲学 2 》
あなたの そのバラの花が 
たったひとつの存在であることを
数十万もの美しいバラがそこに咲き
芳ばしい香りを放っていても
あなたのそのバラの花が
あなたにとって この世にたったひとつの
特別な存在であることを
痛むまで知ること

星の王子さまが語りかける愛の本質を今また深く思います。
唯一無二の人として誰かを想うとき、その胸は喜びとともに必ず痛みを経験するものです。 
私の胸だって、この世にたったひとつの特別な存在を想うときにはチクリと痛みます。

この短文を書いた震災の年から、5年の月日が過ぎようとしています。
一輪の薔薇の唯一性を痛むまで知ることが愛であるならば、
突然の喪失は、その愛を絶頂のまま結晶化したでしょう。
一番いとしい姿のまま結晶した たくさんの一輪の薔薇たちを思います。

                                   Ⅱにつづく



                                                  PHOTO  HIDE

 

 

 

《 薔薇のある庭 Ⅱ 》

 



『 星の王子さま 』は・・・
著者のサン・テグジュぺりが親友のレオン・ウェルトに捧げた物語です。故国フランスがナチスドイツに侵され亡命者となった著者が、故郷でナチスの脅威に晒されているユダヤ人の親友レオンへ宛てた物語であることから政治色濃く解釈する向きも多いです。

たとえばサン・テグジュぺリの書いたバオバブの木の挿絵は小さな星を3本のバオバブの木根が突き刺し、手の施しようがなくなっています。この3本をヒットラー政権とムッソリーニ政権と東条政権の三本柱の暗喩と解釈する方もいます。

一番目の星: 体面を保つことしか考えない王=イングランド
二番目の星: 称賛しか耳に入らない自惚れ男=ドイツ
三番目の星: 酒に溺れる恥を忘れるために飲む男=フランス国民
四番目の星: 数勘定に明け暮れる実業家=アメリカ人
五番目の星: 一分毎にガス灯の点火と消火をする点灯夫=スペイン人
六番目の星: 机から離れた事がない地理学者=スイス人
・・・・・・・などなど。

混乱の時代の世界描写として読む訳です。この解釈で読むのも、それはそれで面白いのですが、私はこの物語のもうひとつの核をより愛しています。唯一無二の絆を探し求める物語としての…。

一輪の薔薇との恋に失望した小さな王子さまは、理解し合える『誰か』を求めて星々を旅をしますが、なかなかこの人と思える『誰か』には出会えません。でも最後にたどり着いた地球で、賢く情深いキツネと出会い、愛への奥義を教えられながら温かな関係を築いてゆきます。私は、この箇所が大好きです。(内藤訳ですと、20章辺りからです。)

私が王子さまだったなら、このままキツネの傍で暮らしたいと願ったでしょう。キツネは孤独な王子さまをかけがえのない一人として、夢みるような眼差しで愛しました…。でも王子さまはキツネとも別れてゆきます。王子さまの唯一無二の『誰か』は、愛の本質を具現しているキツネでもなかったのでしょうか。キツネから受けた教えによって、却ってそれが誰であるのかを王子さまははっきり知ることになったのだと思います。

それは他でもない、あの薔薇。 王子さまの星に咲き、王子さまが想いを注ぎ それによって傷つき、王子さまが星に残してきた一輪の薔薇でした。そして、金色の髪をした小さな王子さまはご自分の星に帰ってゆきます・・・。今度こそ、本当に愛するために。

それにしても、この物語の全編に渡って漂う孤独感を思います。本当の孤独を知っている者だけが唯一無二の人を得ると、私に教えてくださった方がいます。私はその言葉を思うたびに、星に帰った小さな王子さまに頬笑みます。あなたはもう、かけがえのない一人に出会いましたか?
                                        
                                    Ⅲにつづく

 

 

 

《 薔薇の見える庭からⅢ 》
 

 

 

さて、今回は星の王子さまが愛した一輪の薔薇について・・・。

小さな王子さまがご自分の小さな星を旅立った理由は一輪の薔薇との関係にありました。 
その薔薇は自惚れの強いコケティッシュな美人で、棘があり、強がりで自意識過剰な寂しがり屋でした。 


発芽に気づいた時からずっと花との出逢いを待ちわびていた王子さまは、開花した薔薇に一目で心を奪われます。王子さまはプライド高い薔薇からの注文に懸命に応えますが、すっかり振りまわされ疲れ果ててしまいます。 そして、一緒に生きていける自信を失くした王子さまは、薔薇に別れを告げ、もう帰らないつもりでご自分の星を後にしたのでした。

 

このふたりの別れの場面では、強がりな薔薇のいじらしさが見え隠れしてホロリとさせられます。少し抜粋いたしますね。 

「さよなら」と王子さまは花にいいました。
しかし、花はなんともいいません。
「さよなら」と、王子さまはくりかえしました。
「あたくし、ばかでした」と、花は、やっと王子さまにいいました。
「あたくし、あなたがすきなんです。 
あなたがそれを、ちっとも知らなかったのは、あたくしがわるかったんです。 
でも、そんなこと、どうでもいいことですわ。
あたくしもそうでしたけれど、あなたもやっぱり、おばかさんだったのよ。
おしあわせでね・・・」  (中略)
「そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。
もうよそへいくことにおきめになったんだから、いっておしまいなさい、さっさと」 
花がそういったのは、泣いている顔を王子さまに見せたくなかったからでした。
(内藤訳P.46~7)

いかがでしょう。
大抵の女性が身に覚えのあるような薔薇の心理ではないでしょうか?
私など、読むたびにすっかり感情移入して涙ぐんでしまいます。(笑)
最近、ここの箇所について思いをめぐらしておりました。
『あたくしもそうでしたけれど、あなたもやっぱり、おばかさんだったのよ。』 
・・・どのようにふたりはおばかさんだったのかと。

薔薇がいろいろな注文をして王子さまを困らせたのは、きっと王子さまの愛を試していたのでしょう。 王子さまに愛されているのかどうか…薔薇にはわからなかったのです。そして王子さまが自信を失い、薔薇と別れ、星を離れていったのも、薔薇の気持ちがわからなかったからです。

わからない…わからないに決まっています。わかるはずがありません・・・わかるはずのないものですもの。それでも「分からなさにとどまる力」とでもいう何かが次への扉だったのだと、そう薔薇は語っているのでしょうか。
おばかさんだった二人は分からなさにとどまる力が足りなかったと。

或る方の声が蘇ります。
国際舞台芸術ミーティング in 横浜での特別鼎談。
姜尚中氏、平田オリザ氏・岡田利規氏の語り合いの中で
平田オリザ氏から発せられた静かでありながら熱い言葉。

『 世界とは分からないものです。その、分からなさの存在を明確にしてゆくのが芸術の役割だと思っています。芸術とは、分かったつもりになってしまった人間に分からなさを取り戻させるためのものです。』

もし薔薇と王子さまが 「分からなさにとどまる力」を持っていたなら、二人はわからないままに惹かれ合いながら、ずっと一緒にいられたのでしょうか。
そんなことを想う・・・今宵です。
                                     

 


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