ふる里の夏 | 思い草へ              

思い草へ              

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あの子に会うために
蝉しぐれの森を抜け
夏草匂う 土手まで走った 

白いブラウス 水玉のスカート
土手に座り込んだまま
流れの対岸を見つめている あの子
まだ少女だった頃の私が ゆっくりと振り向く

あの子の小さな肩先を 黒いトンボが舞う 
耀く青いカラダを風に乗せて 蝶のように舞う
あの子が そっと 人差し指を立てると 
黒い翅が ふわりと幼い指先に止まるのが見える

振り向いた あの子の視線は 
トンボも 風も 空も  私も越えゆく 
どこか遠く もっともっと その向こうにある何処かへ
あの子を押しつぶそうとする 今ここに抗して 

私は あの子を見つめている 
駆け寄り 抱きしめたい衝動をじっと押さえ 
あの子が探している言葉を この手の中に握りしめて


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