『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD〜』 これはノッたもん勝ちです!! | シネマの万華鏡

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あのピュアピュアな男たちがスクリーンに帰ってきた!

ライトな深夜ドラマのはずが予想外に反響を呼び、twitterで2週連続世界トレンド1位になるなど熱い注目を浴びたドラマ『おっさんずラブ』から1年、あの春田と牧と黒澤部長が映画になって帰ってきました! わーい(・∀・)

 

私はドラマは終わってからNetflixで観た口なんですが、このドラマには何かヘンな引力があると言うんでしょうか? 主人公春田の内面の逡巡を渾身の顏芸で見せる田中圭のキュートな表情にキュンとなり、吉田鋼太郎演じる黒澤部長の、春田を前にするとオンの時の「デキる部長」から突如「恋する女のコ」になってしまうという、普通ならどーお考えても寒すぎるギアチェンジも「絶対ヘンだけどそこまでするなら応援したい」という気にさせられるんですよね。

やー、「大人舐めてんのか?」と言いたくなるくらいもんのすごく強引な展開でありながら、その強引さが魅力として成り立ってしまうところがネ申。(ひょっとして褒めてないように見えるかもしれませんが、褒めてます)

理屈じゃない、でもオカルトでもSFでもない・・・なんかそんな感じのおかしな熱量で人を惹きつけてやまない『おっさんずラブ』。今回の劇場版も、きっちりその路線を踏み外さない首尾一貫性がアッパレです。

 

そんなわけで、ドラマ版のファンにとってはメチャメチャ上がる2時間!

通常上映なのに、あれ?応援上映?ってくらいに皆さん笑ったり声上げたり拍手したり。すっかりファンの集いになってました。(ちなみに初日8:40の回の状況)

ただ、ドラマを観ずに映画から入っていきなりこの作品ならではの問答無用の超展開を見せられたら、この世界に飛び込めるのかな?という一抹の危惧はありますね。

でも、ノれるかノれないか?なんて考えるだけ時間の無駄。

「見る前に跳べ!」、考える前に思い切ってこの世界に飛び込んでみましょう。

これはもうただただシンプルに「ノッたもん勝ち」の作品ですから・・・批判も逡巡もたぶん徒労です。

 

あらすじ(ネタバレ)

 

主人公は春田創一(田中圭)33歳(ドラマスタート時点)、都内の天空不動産の営業所に勤めるサラリーマン。

春から営業所に異動してきた牧(林遣都)とルームシェアをすることになり、公私ともに牧と親しくなっていく中で、牧から告白されてしまい、ゲイという自覚は全くなかっただけに動揺する春田。

一方で、営業所のボス・黒澤部長(吉田剛太郎)からも猛アタックが。部長は離婚、春田が曖昧な態度を取ったために部長と結婚寸前まで行ってしまうが、春田は牧に対する気持ちに気づき、部長もそれを理解して、晴れて春田は牧のもとへ。その直後春田は中国に転勤になり、遠距離恋愛へ・・・というところまでがテレビドラマでした。

 

今回の劇場版では、春田が上海⇒香港の勤務を終えて帰国するところから始まります。

海外駐在中の春田の浮気疑惑から牧とは少しギクシャクしていた中で、牧は会社を挙げてのベイエリアリゾート開発プロジェクトのメンバーに抜擢されて本社へ。業務も多忙になり、またプロジェクトチーフの狸穴(まみあな 演:沢村一樹)に目をかけられ頻繁に彼から連絡が入ることも春田をいらだたせ、2人の溝を深めていきます。

一方、春田はベイエリアリゾート開発のための地上げを担当することに。牧と入れ替わりで営業所に入ってきた山田ジャスティス(志尊淳)と共に担当エリアを回るうち、ジャスティスと親密に。

そしてあの黒澤部長はと言えば・・・

 

ドラマ版と同じく、脚本は徳尾浩司、監督は瑠東東一郎。ドラマ版のプロデューサーとして知られる貴島彩理もプロデューサーの1人に名をつらねています。

 

今度も五角関係(但しキラキラ度アーップ!)

ドラマ版では、春田は幼馴染みのちず(内田理央)と、一方の牧は上司の武川(眞島秀和)と、それぞれ一波乱。つまりメインになる三角関係+2の五角関係という構成でした。

今回の劇場版では、ちずと武川ではなく、新たな2人が加わって、やはり同じ形の五角関係が展開されます。

今回参戦した2人というのが、沢村一樹と志尊淳。この2人が加わっただけで、映画向きのキラキラ感が上がる上がる!

特に志尊淳は、『帝一の國』での女子力のカタマリみたいな榊原光明役が記憶に新しいだけに、このテの攪乱役にはこれ以上ない逸材。もはやBLドラマに必要不可欠な人材と言っても過言ではありません。

帝一を見上げながらボブカットの髪に指をからませる光明のしぐさが忘れられない・・・まるでBLドラマに出演するために生まれてきたような女子顔負けの女子力は、ヘビロテで観直したくなります。

もう志尊淳出演というだけで、私の中で劇場版の期待感が確実に2倍以上に膨らみました。

 

(『帝一の國』の志尊淳。なにげにこの人、旬ですよね)

 

今作では営業所のニューフェイス・山田ジャスティス役。「正義」と書いて「ジャスティス」と読ませるキラキラネーム、キラキラの淳君にピッタリですね。

しかし何故「正義」?と思いきや、最後にちゃんとオチがある。その辺は観てのお楽しみということで。ジャスティスは衣装もとびきりオシャレ感があって、不動産会社の新人というより、完全に山田ジャスティスというキャラ! 完全に日常から浮きあがったキラキラ王子感がジャスティスの魅力です。

 

沢村一樹のほうは過去にこのテの役柄があったかどうか、私の記憶にはないんですが、それでもBLドラマに何の違和感もなく溶け込む何かがこの人にはあるんですよね。

ナルシスティックな色気のせい?

残業で2人きりになったオフィスで彼が牧の肩を粘り気たっぷりの手つきで揉み揉みするシーンは、意味深も意味深。さらにそこで誘った先がサウナなんて・・・ま、冷静に考えると上司と部下の間で普通にありえる話でもあるんですけどね。

狸穴(まみあな)という苗字も、これ見よがしに怪しい(笑)し、もう彼の存在理由は途中で読めてしまいましたが、それでも面白い!

バスローブ姿でブランデーグラスくるくるするのも似合うしなあ。

 

異性愛者かゲイか?敵か味方か?

この2人にはいろんな意味で玉虫色に見える要素があって、文字通り攪乱要員として物語を縦横無尽にかき回してくれます。

 

考える隙を一切与えないアップテンポな展開

今回の劇場版のストーリーが大枠でどうなるか?は、テレビ版を観た人の多くは、多分完全に読み切っていたんじゃないでしょうか?

このドラマのノリから言って、春田と牧の関係がたとえいったんは白紙に戻ることがあっても、元鞘にならないなんてありえないし許されない・・・少なくとも、そこまではみんな予想していたんじゃないかと。

勿論、その予想、というより「絶対値の期待」を裏切れないことも制作側には織り込み済みで、その中で一体何を見せるのか、が今回の課題だったと思うんです。

 

結論から言うと、新しい要素は上のイケメン攪乱要員2名だけで、実はそれ以外には何もありません。東京ベイエリアのリゾート開発プロジェクト、そのための地上げに営業所ぐるみで巻き込まれていくというお仕事ムービー的な始まり方をするけれど、ビジネス要素を深堀りする気は最初から全くないのは、ビジネスをすっ飛ばしていきなり監禁事件に話が飛躍するあたりからも一目瞭然です。

じゃあ今回の劇場版っていったい何だったんだ?となるわけですが、そこは春田や牧、黒澤部長その他天空不動産の濃い面々との再会、もうこれが一番なのかな。

その中で、また少しだけ深まっていく春田と牧の絆を見守るという部分でしょうか。

 

だから、ストーリー自体は後で冷静になって考えてみると呆気にとられるほど浅いんですよ。もう、笑っちゃうくらいに。

でも、考えるいとまを与えないテンポの良さで、観ている最中はテンションを高めに保ったまま観れてしまうんですよね。

春田が牧と喧嘩して、

「ジャスティスといるときのほうが楽しいし!」

と言い放った時には、ここで春田とジャスの急接近来ーい!と期待高まりまくりだったんですが、次の瞬間にジャスが現れて決着ついてるスピード展開。はやっ。

これがドラマだったらいったんジャスといいところまで行って寸止め⇒やっぱりおまえとはつきあえない(号泣)みたいな展開が2・3話は見られたんだろうなと思うと残念・・・でもまあ、このスピード感だからこそストーリーのアラが見えなかったプラス面も大きい気がするので、これはこれで。

 

ただ、春田と牧が大ピンチに陥る一番肝心な場面だけは逆に展開が失速した上に、あまりの緊迫感のなさにこちらが焦ってしまいましたが。

生きるか死ぬかって時になに将来語っとんねん!!とイラッときながらも、春田の言葉には泣けたり・・・なんとも複雑な心境を味わいました。

2人が脱出できた時にはいろんな意味でほっとしましたね。

 

オールキャラ立ちキャストの痛快!!

でも、春田&牧と天空不動産の面々との再会は、理屈抜きで楽しかった!!

フジテレビの月9ドラマなんかだと、もう頭痛がしてくるくらいにまばゆい豪華キャストが揃ってて、これがオールスターキャストだ!!文句あるか!てな感じなんですが、本作はスタート地点では大ヒットなんて何も狙ってなかったドラマだけに、豪華絢爛さに関しては『コードブルー』なんかとは比較になりません。

ただそれを補ってあまりあるキャラの温もりが『おっさんずラブ』の強み。

スーツを着たら企業戦士!な男たちが、スーツを着ながらにして身もふたもなく恋によがっちゃう。こんな可愛いメンズ、ほかにいないでしょう。

それを見守る面々も濃いキャラばかりで、中には見守っているだけじゃなくひそかに男同士の争奪戦に参戦してる武川さんもいる・・・

田中圭は大ブレイクしちゃいましたが、ほかであまり観られないキャストが多いのも、今となってはこの作品の大きな魅力になっている気がします。

 

相変わらず何様?な栗林歌麿呂のお子ちゃまっぽさが案外キュンとくる「蝶子さんラブ」っぷりとか、

武川さん相変わらずめっちゃ足上がる!!とか、

瀬川さんの裏返った声癒される(でも全力疾走は似合わなすぎ…)とか、

ちずの「天下統一」発言どんだけ?!とか、

ちずの兄貴の独創的すぎる創作料理の店ってよく続いてるね、とか・・・

そして部長の、そんなリセットありだったんですねー(/・ω・)/な超法規的話の蒸し返しっぷりも、面白いから許します。

 

春田と牧のいちゃいちゃはちょっと少なめだったかな? 

個人的には春田とジャスティスの「おっ?おおっ??」な揺れ動く距離感をもっともっと味わっていたかったですね。とはいえ、ジャスの最後のドンデン返し笑った。

最後の最後でバズルのピースが余すところなくパチッと嵌ったスッキリ感がありました。

 

 

備考:上映館数314館