2018年の映画業界を振り返る | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

今年もキネマ旬報の前年度映画業界総決算号が発売されました。

映連の統計には出ていない10億円未満の作品の興行収入や、配給会社別の興収内訳、諸外国の興行収入ランキングなどデータが充実していて、映画業界の1年を数字で俯瞰できるので、毎年3月のこの特集だけは買っています。

まだ発売中ではありますが、去年に引き続きこの号に掲載された数字などをもとに映画業界の2018年を振り返ってみました。

 

 

2018年度は番狂わせの1年

「映画は水物、なにがヒットするかは予測不可能」とは昔から言われていること、何も今に始まったことではないんですが、2018年もその言葉を実感させられる年になりましたね。

外国映画では、『ジュラシック・ワールド』『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』『ミッション・インポッシブル フォールアウト』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』など人気シリーズが目白押しだったにもかかわらず、全くのダークホースだった『ボヘミアン・ラプソディ』が111億でまさかの首位。当初2・30億円と見込まれていた予想をはるかに上回りました。

 

逆に、邦画首位は『劇場版コード・ブルー』(93億円)と予想通り。実写邦画では2003年の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173億円)以来の記録となりましたが、これが100億の大台に届かなかったのは東宝・フジテレビとしてはやや物足りない結果だったかもしれません。

また、今年の東宝の目玉のひとつだった木村拓哉主演『検察側の罪人』が30億に届かなかったのも少々期待を下回ったのではないかと。松竹が期待した池井戸潤の企業小説の初映画化作『空飛ぶタイヤ』も、17億円にとどまりました。

 

一方、ダークホースどころか配給がつく予定すらなかったENBUゼミナールの『カメラを止めるな!』が口コミで大評判になり、興行収入31億円でまさかの邦画7位に! これは歴史的事件でしたね。

さらに、作品の質は高いが興行的貢献は期待されていなかった是枝裕和監督の『万引き家族』が、カンヌのパルムドール効果もあって45億円の興収を上げ、堂々の4位にランクインしたのも、2018年の嬉しい誤算の1つだったのではないでしょうか。

 

『万引き家族』『日日是好日』と、去年亡くなった樹木希林の出演作が2作ヒット作入りしているのも感慨深い。

希林さんは出演作が必ずヒットすると言われた人でしたが、亡くなる直前まで漏れなくヒット作を残すとは・・・日本映画界のかけがえのない個性派女優がまた1人去っていった年でもありました。

 

興行成績は微減という状況の中で、去年は日本一の座席数(946席)のスクリーンを備えたTOHOシネマズ日劇が85年の歴史の幕を閉じるというニュースもありました。

この閉館は、近くに建設されたミッドタウン日比谷に新たにTOHOシネマズが入ることになったため。こちらは13スクリーンで最大箱でも500席弱。箱数が増えてより多様なプログラムが上映できる効率性の高いシネコンです。

歴史ある映画館がなくなるのは寂しいことですが、ミッドタウン日比谷の新劇場は絶好調で年間35億円の興収を上げる見込みだとか。

私も何度か足を運びましたが、交通至便、劇場内も快適だし飲食店も充実していて、家族や友達と映画を楽しむには最高の環境だと思います。(なんだかTOHOの回し者みたいになってますね(苦笑))

 

依然、アニメ/ディズニー/東宝強し

上にも描いた通り、人気シリーズ続編やビッグネームの俳優の出演といったブランド力に頼らなくてもヒット作は作れることが証明された1年。『君の名は。』のメガヒットあたりから言われていることですが、口コミの威力が一層数字になって現れた年でもありました。

 

ただし、50億円以上の興収を上げた作品を眺めると、一部の例外を除いて特に変わり映えのしない状況ではあります。

依然アニメ人気シリーズが稼ぎ頭、外国映画ではハリウッド映画の圧勝、国内では東宝独り勝ちの状況は全く変わりません。

以下に挙げた2018年の興収50億円以上の作品を見ていただくと状況がよく見えるかと思います。

 

【2018年の興収50億円以上(8本)】

 

 

まじかるクラウン『ボヘミアン・ラプソディ』 111億円 / FOX アメリカ&イギリス

まじかるクラウン『劇場版コード・ブルー』 93億円 / 東宝 日本

まじかるクラウン『名探偵コナン ゼロの執行人』 91億円 / 東宝 日本

ふんわりリボン『ジュラシック・ワールド』 80億円 / 東宝東和 アメリカ

ふんわりリボン『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』 75億円 / ディズニー アメリカ

ふんわりリボン『映画ドラえもん のび太の宝島』 53億円 / 東宝 日本

ふんわりリボン『グレイテスト・ショーマン』 52億円 / FOX アメリカ

ふんわりリボン『リメンバー・ミー』 50億円 / ディズニー アメリカ

 

業界全体では2000年以降歴代首位だった2016年、2位の2017年に続き、歴代3位の2,225億円。対前年比は97%とほぼ横ばい状態です。

 

明暗を分ける?東宝と松竹

映画業界は東宝独り勝ち、これはもう定番の構図ですが、一体興行収入では他社とどのくらい差があるのか?を比較してみました。

 

1.(1)(株)東宝 605億円

2.(2)ウォルト・デイズニー・ジャパン(株) 266億円

3.(4)ワーナー・ブラザーズ・ジャパン合同会社 234億円

4.(3)東宝東和(株)/東和ピクチャーズ(株) 216億円

5.(9)20世紀フォックス映画 196億円

6.(7)東映(株) 123億円

7.(5)松竹(株) 109億円

 

※()内は2017年の順位

 

日活など一部数字を公表していない会社もありますが、上位の順位に影響はないと考えて良いと思います。

日本で映画の製作から配給までを行う大手は、東宝・松竹・東映・KADOKAWAなど。その他、ワーナーも『銀魂』など邦画を製作しています。

この5社で比較しても、東宝は圧倒的に巨人。業界全体でのシェアは30%弱に達しています。

映画業界を語ることはまずは東宝を語ること、2018年の東宝の興行面での顕著な傾向を洗ってみました。

 

■東宝:定番シリーズ、テレビ局主導作品以外は不発

2017年の東宝首位が『名探偵コナン から紅の恋歌』の68億円だったことを思うと、『コードブルー』『名探偵コナン』と90億円台を2作も叩き出した2018年は絶好調のように見えますが、その反面、配給本数31本中23本が10億円以上のヒット作となった2017年に対して、2018年は33本中17本と打率を下げています。

『コードブルー』はフジテレビを挙げての宣伝活動万全の体制での公開、テレビ関係の業界紙でも公開前から興収100億の文字が踊っていた作品。

一方、東宝幹事の実写作品では首位となった『検察側の罪人』は30億に届かず、それでも堂々のヒットとは言え、テレビシリーズ続編との差を歴然と見せつけられた結果になっています。

 

■松竹:対前比70%と落ち込む

東宝の業績が安定的に推移しているのとは対照的に、松竹は2018年大幅に興収を落とす結果に。

配給本数自体を減らした結果とは言え、今回の落ち込みの大きさは気になります。

 

【松竹興収推移】

2015年:115億円

2016年:187億円(29本)

2017年:156億円(28本)

2018年:109億円(23本)

 

ちなみに187億円の興収を挙げた2016年は創業120周年の翌年。首位はアニメ作品『聲の形』だったものの、山田洋次監督の『母と暮らせば』・『家族はつらいよ』や、時代劇『殿、利息でござる!』・『超高速!参勤交代リターンズ』など、中高年向けの作品が数本10億円以上のヒットを飛ばし、数字を下支えしている状況でした。

当時幕間のコーポレートCMでも「松竹大船調を貫く」といったフレーズのCMが流されていたし、松竹としてはその頃は(今も?)確実にシニア層もひとつの主要ターゲットに位置付けていた印象がありました。

 

ところが、『家族はつらいよ』シリーズが2以降は10億円を上回れず、といって山田洋次作品に代わる松竹ドラマが出てくる様子もない・・・どちらかというと東宝のほうが『のみとり侍』のような松竹喜劇的な作品を手掛けていて、中高年路線はかなりおざなりに見えたのがここ1、2年。

そろそろ看板監督・山田洋次からの世代交代で新機軸か?と思いきや、2019年は22年ぶりの寅さんシリーズ復活だとか。

監督は勿論山田洋次。

・・・そっちの方向性でしたか。

寅さん、、、思いきって映画館で観てみようかしら? 

 

音楽映画の健闘

2018年のヒット作の傾向として新しかったのは、音楽映画が健闘したこと。

年間興収1位となった『ボヘミアン・ラプソディ』のほか、ミュージカル映画の『グレイテスト・ショーマン』が52億円(この2作を配給した20世紀FOXにとって2018年は大躍進の年に)、年末に公開された『アリー スター誕生』は興収は2019年にズレ込んだ部分が大きいものの、これもすでに興行収入10億円を突破しています。

ミュージカル映画は『ラ・ラ・ランド』以降復活の兆しですが、こういう傾向が何故今出てきたのか不思議。音楽映画は考えるよりも感じる要素が強いという意味では、より体験型の映画が好まれる傾向にあるということでしょうか?

『ボヘミアン・ラプソディ』の音と口パク映像のシンクロ度やライブエイド・シーンの迫力で見せつけられたように、映画の音に関する技術が進化していることも当然要因のひとつでしょうね。


なお20世紀FOXが今日リリースした情報によれば、『ボヘミアン・ラプソディ』は3/17時点で興収125億円となり、『美女と野獣』の音楽・ミュージカル映画歴代NO.1の記録を更新したそうです。

一体どこまで行くんでしょうか?

 

Netflixは2019年1月にMPAAに加盟していた

2018年の映画業界を最も騒がせた存在と言えば、やはりNetflixでは?

この話題についてはもうさんざん書いたのでこれ以上くどくどとは書きませんが、1つ見落としていたニュースがあったのでこれだけ。

ちなみにこれまでのNetflix関連に記事はこちら↓

 

明日のアカデミー賞予想:ハリウッドは映像ストリーミング会社を排除しない。←ハズれてますが気にしないw

Netflix作品は映画じゃない? スピルバーグ VS Netflixのバトルが始まった

あらあら解決?それとも水面下へ?Netflix問題

 

Netflixは今年の1月からアメリカ映画協会(MPAA)に加入していたようです。

つまり、メジャー6社にNetflixが加わってメジャー7社になったということ。

ただし、今年20世紀FOXがディズニー傘下に入るため、年内にメジャー6社体制に戻ります。

 

やはり既存の映画会社にはNetflixを排除しようという動きはないわけです・・・当然のことですが。

そんな中でスピルバーグがあんな発言をしていたとしたらそれは足並みを乱す行為・・・いやいや彼はそんなアホなことは言ってないと否定する人が出てきましたが、「事実を歪曲して報じた」とされたIndie Wireは強気に続報の記事を出しています。

この後どうなるんでしょうね?

2019年もNetflix周辺は波乱含みの展開になりそうです。