明日のアカデミー賞予想:ハリウッドは映像ストリーミング会社を排除しない。 | シネマの万華鏡

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各所で予想まっさかりのアカデミー賞授賞式、いよいよ明日ですね。

毎回何かしらハプニングに見舞われるアカデミー賞ですが、今回は司会に決定していたケヴィン・ハートが過去のLGBT蔑視発言で降板、司会者不在で行われることに。
このほか、CM放映料を上げるために視聴率改善を狙って?撮影賞などの4部門の受賞者発表はテレビ放送のCM中に行うことが一旦は決定され、映画人から猛反発を受けたという話がありましたが、これは結局取りやめになったみたいです。
もうひとつ、これも取り止めになった「最優秀人気映画部門」を新設する計画も、視聴率改善対策と見られています。
 

アカデミー賞授賞式の放映は主催者である映画芸術科学アカデミーの貴重な収入源でもあるんですよね。
今回は、アカデミー賞のアカデミーSHOWなる一面が浮き彫りにされた回でもあるのかもしれません。

 

そんなアカデミー賞2019の最大の火種と見られているのが、作品賞で最有力候補と言われる『ROMA/ローマ』がNetflix作品だということ

配信作品がオスカー作品賞を取ることが今後の映画界に与える影響を懸念する見方もあり、オスカーの行方が注目されています。

ちなみに英国アカデミーが『ROMA』を作品賞に決定した際には、大手映画館チェーンから苦情を申し立てる公開状が送られたらしいですね(

さて、明日の作品賞はどうなるのか? 自分なりに考えてみました。

 

予想:『ROMA/ローマ』は作品賞を受賞する

なんだかんだ言われていますが、私は今回『ROMA/ローマ』は作品賞その他いくつかの賞を受賞するし、映画芸術科学アカデミーはむしろ『ROMA』を推す方向に動くのではないか?と予想しています。

根拠は以下のとおり。

 

1.作品賞ではないが、過去にも配信会社製作の作品が受賞している

 

今回は事が作品賞ということで騒動になっていますが、実際にはこれまでも、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の脚本賞・主演男優賞受賞など、NetflixやAmazonが製作した作品がアカデミー賞を受賞した実績があります。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(アマゾン・スタジオ)は作品賞にもノミネートされていましたよね。

今回の問題、ちょっと論点がぼやけたまま議論されている気がするんですが、こうした先例を見る限り、映像ストリーミング会社の作品がアカデミー賞に出てくること自体が問題というわけじゃないんだと思います。

 

問題は、これまでは劇場公開後90日経過してから配信開始というルールで棲み分けされていたものが、『ROMA/ローマ』に関しては3週間に短縮されたということ、しかもほんの一握りの劇場でしか公開されなかったことのほうではないかと。

北米の興行収入情報サイトBox Office Mojoでは、本作の北米での興行収入は記録もされていません。

 

つまり、利害が対立しているのは映画館(+配給会社)と配信会社であって、映画会社と配信会社ではないんです。

オスカー会員の多くは映画業界関係者で、映画会社とは密な関係があっても、映画館とはどうでしょうか? 

映画館チェーンは映画会社が出資しているケースも多いのでしょうが、さて、映画館チェーンを救うのと配信会社と手を組むのと、どちらが映画会社にとってはメリットがあるのか・・・

これは、この問題を考える上で最初に押さえておくべきポイントだと思います。

 

2.排除するならノミネート段階で排除していたはず

 

去年スティーヴン・スピルバーグが、Netflixなどの動画配信サービスが手掛ける映画をアカデミー賞の選考対象にするかどうかについて、「もしいい作品ならば、(テレビ界のアカデミー賞とされる)エミー賞をとるべき。でも、オスカーではない」と発言したことが話題になりましたが()、映画館での観賞に耐える仕様で製作されているにも拘わらずオスカーから排除するというのは巨匠らしからぬ乱暴な意見です。
今回『ROMA/ローマ』が最多部門にノミネートされた現実を見ても、業界人に支持されているとは思えません。

 

もし、映画業界として配信会社の製作作品を脅威と考えていたとしたら、過去に受賞作が出てきた段階で、配信会社の作品をシャットアウトするために手を打っていたはずです。

長年映画産業で成功をおさめてきたあのハリウッドが、よりにもよっての作品に最多部門にノミネートの栄誉を許すなんて、ありえるでしょうか?

 

3.これだけ評価が高いのに受賞させなかったら、移民やマイノリティを排除したがるトランプ政権と変わらない

 

今回のアカデミー賞で最も注目され、最有力視されている『ROMA/ローマ』が、仮に作品賞を取らなかったとしたらどうなるか?ちょっと想像してみましょう。

当然、「映画芸術科学アカデミーは、既得権を守るために配信会社を排除した」と、マスコミは激しく批判してくるはずです。

強引に新規参入者を排除する、というやり方は、ハリウッドが批判しているトランプ政権と同じ。間違いなくハリウッドが築き上げようとしてきリベラルなイメージを失墜させる結果になるんじゃないでしょうか。

 

上にも書いたとおり、配信会社を排除する意思があるならノミネーションの発表以前に手を打っておくべきだったし、そうしなかった時点でハリウッドの多数派の本心はスピルバーグとは別のところにあるのでは? 個人的にはそう思います。

 

4.配信会社の成長は映画会社にとってもメリットがある

 

1にも書いたとおり、実は配信会社が成長することは映画会社にとってもメリットが大きいのではないかというのが個人的な意見です。

というのも、新作公開を映画館による上映のみで行う今の仕組みでは、映画館がない地域では全く興収を上げられません。ところが、配信という手段を使えば、あまねく地域で収益を上げることが可能になります。しかも、そのための追加投資は要らないんです。

現在のNetlixのシステムのように定額観放題ではなく、新作料金は別途高めに設定したり、旧作でも視聴状況に応じて料金を変動させるなどすれば、映画会社としてはむしろ増収する可能性も大いにありえます。

配信会社は映画会社にとって競合相手ではない、それどころか可能性を飛躍的に広げてくれるビジネス・パートナーになりえる存在なんです。

 

しかしそうなると、映画館や配給会社はどうなるのか? レンタルDVDは?

それはまた別の機会に考えてみたいと思います。

 

というわけで、作品賞は『ROMA/ローマ』。ハリウッドは今さらジタバタしないと私は思います。

 

 

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こんな話の後で何ですが、後からパンフが欲しくなって買いに行きました。