いつもの友人とは別の友人が誘ってくれたので公開初日のファーストデーに観てきました。
夕食時だったこともあって、ひさしぶりにポップコーン付きで観ましたよ。
眠くなりそうなのでビールはやめておきましたが、かなりメリハリがある映画なので、飲んでも大丈夫だったかもしれません。
都内の中堅メーカー、東京建電の営業一課で係長を務めている八角民夫(野村萬斎)。最低限のノルマしかこなさず、会議も出席するだけという姿勢をトップセールスマンの課長・坂戸宣彦(片岡愛之助)から責められるが、意に介することなく気ままに過ごしていた。営業部長・北川誠(香川照之)による厳格な結果主義のもとで部員たちが疲弊する中、突如として八角がパワハラで坂戸を訴え、彼に異動処分が下される。そして常に2番手だった原島万二(及川光博)が新課長に着任する。
野村萬斎、香川照之、片岡愛之助、及川光博、朝倉あき、吉田羊、土屋太鳳、橋爪功、北大路欣也、世良公則、え?赤井英和も?小泉孝太郎も? トドメにサプライズであの人まで!!
オールスターキャストにもほどがあるほどのオールスターキャスト。
昨年松竹で同じ池井戸潤原作の『空飛ぶタイヤ』をやりました――日アカでも多数の賞にノミネートされていますね――が、比較的若手のイケメンを中心に据えた『空飛ぶ~』に対して、こちらは百戦錬磨の演技派中心で勝負。
東宝&TBSの財力を見せつけたキャスティングになっています。
個人的には、松竹VS東宝&TBSの池井戸もの対決として面白く眺めました。
監督はドラマ『半沢直樹』で大成功をおさめた福沢克雄。
的を射ているが話を単純化しすぎていてちょっとモヤモヤ
企業ものは大好き。それだけにリアリティーはそこそこ気になるほうですが、その点、池井戸潤原作の作品は安心印ですよね。
ただ、複雑な駆け引きの積み重ねの末に起きる企業不正を分かりやすく見せるためにダイナミックな単純化がなされているため、ちょっと現実離れしてる部分もかなりある気がします。
どうしようもなく気になったのが、この作品に登場する東京健電というメーカーでは、製品の重要部品の発注先決定・価格交渉が営業部に任されていること。
営業にとっては価格が下がれば売りやすくなる、営業に部品発注を任せたら品質が二の次になるのは目に見えているし、またこんなことをすれば製品の安全性に関する責任が製造部門を離れて宙に浮くことにもなって、まさに欠陥製品発生を誘発する体制!! 曲がりなりにも数十年続いている中堅メーカーでこんなやり方は絶対ありえません。
これは本作の結末にまで響くツッコミどころです。
この点を全く問題として指摘せず、八角が同じやり方を踏襲してしまうところもイタいですね。
それと、朝倉あき演じる女性社員が社内でのドーナツの無人販売を企画したのを、経理部が嫌がらせで反対するシーン。
あれは、経理マンなら普通反対します。
原作では無人販売機を置く、ということだったみたいですが、映画ではドーナツは誰でも取れて、代金も募金箱みたいなものにチャリンと入れるだけ。
会社の金で仕入れるが以上、ドーナツも売上金も会社の資産で、盗まれる可能性がある場所には置けない、と経理部員が考えるのはごく当たり前のことです。
最初から「会社は商品には関知しない、定額のショバ代だけ受け取る」というスキームにすればいい。そうすれば、経理部は反対したくてもできません。
そんなツッコミどころはそこかしこにあるものの、鋭いなとうならされる部分も多々。
なかでも「あるある」と思ったのは、東京健電の営業と経理が仲が悪い、というあたりです。
「うちの会社の営業と経理は犬猿」と思っている人はとても多いんじゃないでしょうか?
でも意外にこれ、普遍的な構図なんじゃないかと思うんです。
営業は管理部門を「食わせてやってる」と思っているし、管理部門の人間は経費の精算が遅れたり、数字を作らせると必ずと言っていいほど間違っている営業社員の大雑把さが許せない。
ただ、ここの関係は仲が悪いだけでそれ以上のトラブルには発展しないんですよね。お互い違う土俵から「しょせんあいつらは能なしだから」と言い合ってるだけで、ライバル関係ではないので。
映画の中でもまさにそういう顛末になっていて、知りあいの経理マンや営業マンの顔を思い浮かべてニヤニヤしてしまいました。
不正の根源にあるもの
不正の裏側に出世競争がある。
親会社のXENOXで出世した梨田(加賀丈史)と、彼と張り合った末に東京健電に追いやられた村西(世良公則)、営業部長北川(香川照之)の同期がエリートから一転してぐうたら社員になった八角(野村萬斎)、花の営業一課長・坂戸(片岡愛之助)の出世の陰に、カスタマー室に追いやられた佐野(岡田浩暉)が。
本作では、誰もが対抗意識を煽られ、焦り、不正に手を染めていく姿が描かれています。
先人も同じことをして出世したのを見ているから、罪悪感はなく、同じことが繰り返される。
告発しようとすれば左遷されるから、誰も何も言えない。
「一番怖いのは出世に興味のない奴」とは、けだし名言ですね。
データ偽装レベルの話は経営者が知らないはずはない
しかしこの映画で起きる不正は、一時的に誤魔化すことはできても、一営業社員レベルでは隠しとおすできません。
上に、「(部品発注を営業が行えることにしたのは)本作の結末にまで響くツッコミどころ」だと書いたのも、そこからさらに矛盾が広がっていくからです。
曲がりなりにも航空機の椅子を作るほどのメーカーなら、サンプリング・ベースで耐久力テストはやってるはず。納入先からそのくらいは求められるんじゃないでしょうか?
実際、劇中に耐久力テスト用の装置も登場します。グレーの作業着が意外に似合ってる小泉孝太郎がテストを実演してましたよね。
製造部門や品質保証部門を巻き込まないと、ネジの耐久力が不足していることを誤魔化しとおすのは無理で、そういう複数の部門を巻き込んでの不正ができるのは、経営者、それもトップの数人だけなんです。
本作でも最終的にはそこに行き着くんですが、不正の当事者とされていた営業マンがその事実に気づいてなかったのはおかしな話です。
社内名探偵たちが「あの人物が糸を引いている」ということに気づくシーンもほしかった。
ちょっと無理のある話なのがずっと頭の隅で気になっていて、そのせいでどうもどっぷりとは入りこめませんでした。
「二匹目の『半沢直樹』」なオーバーアクションは吉?
それにしても、分かりやすく『半沢直樹』風の味付け。及川光博はじめ、『半沢直樹』のメンバーも多数出演してますしね。
特に、八角を演じる野村萬斎のオーバーアクション気味の演技は、『半沢~』の堺雅人を思わせます。
アクの強さと涼やかさとを絶妙なバランスで兼ね備えた野村萬斎、昔から大好きな俳優の1人です。
今回も彼のアクの強さが生きた役柄ではあったんですが、個人的には、こういうコメディすれすれのデフォルメが効いた役は彼の凛とした気品とは馴染まない気がして、ちょっと痛々しくさえ感じてしまいました。
香川照之の悪徳部長ぶりはもうすっかりおなじみ。
香川照之が敵役で登場したことで、『半沢直樹』路線としてのこの作品の位置づけがよりはっきりした気がします。
映画館内では随所で笑いが起きていて、いい感じの熱気が漂ってましたね。
友人の採点では5点満点中5点に近いそうです。
私は3と4の間かな。
せっかく2人で観たので映画について語るのを楽しみにしていたんですが、見終わった後、不思議と何も語りたいことが浮かびませんでした。
後で考えると、最後に八角が全てを総括して、本来余韻として語り合う領域まですべて掃き清めるように言葉にしてくれたせいかもしれません。
ひとつだけ、「営業部門に部品購買を任せるなんてマヌケなことをしていたらこうなるのは当然の帰結」だという一言も、八角の総括の中に入れるべきだとは思いましたが。
そうそう、『空飛ぶタイヤ』との比較。
実は観る前の予想では当然こちらのほうが面白いだろうと思ってたんですが、意外に互角でした。
『空飛ぶタイヤ』のほうが実話ベースということで、説得力を感じたのが大きかったかもしれません。キャストの重厚感・ストーリーの立体感は断然こちらが上なんですけどね。