アフガン紛争の12人の英雄
ブロ友のemiさんの記事を見て、今の気分にピッタリの映画じゃないっ!(むさい「男映画」が観たかった)ということで、さっそく観てきました。
しかしここまでどっぷり戦争映画だったとは! それ知らずに観に行ったのは、私くらいだと思いますけどね
アメリカ同時多発テロ発生直後、初めて対テロ戦闘に身を投じたアメリカ陸軍特殊部隊の活躍を描いた実録ミリタリーアクション。同時多発テロの翌日にアフガニスタンに入り、タリバンの拠点制圧に挑んだ彼らを映し出す。製作を務めるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどのジェリー・ブラッカイマー。『マイティ・ソー』シリーズなどのクリス・ヘムズワース、『ノクターナル・アニマルズ』などのマイケル・シャノン、『エンド・オブ・ウォッチ』などのマイケル・ペーニャらが出演する。
(シネマトゥデイより引用)
原題は"12 Strong"。ちょっと『マグニフィセント・セブン』を連想しますが、そういうイメージで間違ってない気がします。
実話だし、ましてや9.11絡みの話だし・・・と重く捉えてしまいがちですが、実際は『マグニフィセント・セブン』のノリで、つまり西部劇のノリで観られる映画です。
その辺は製作陣のプロフィールからも窺えるところ。
◆ジェリー・ブラッカイマー(本作のプロデューサー)
過去に手掛けたヒット作:『フラッシュダンス』(1983年)『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)・『トップガン』(1986年)・『アルマゲドン』(1998年)・『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなど。
wikipedia曰く「彼の製作した映画のほとんどは凝った特殊効果の導入による派手なアクション、大ヒットしているポップ・ミュージックを起用したサウンドトラック、テレビ映りのよい俳優たちの起用を特徴としている。このため彼の映画は派手なオープニングと見た目のわりに無内容だとして全米の映画評論家からは酷評されているが、これは彼自身の『映画は極上の娯楽である』というポリシーによるものである。」
・・・なるほど。
◆ニコライ・フルシー
オランダの報道写真家・CFディレクターで、本作が映画監督デビュー作。
wikiによれば「ナイキやソニーのスタイリッシュなCMで知られ、またコソボ紛争を追った報道写真家の経歴も持」つとのこと。
或る意味元戦場カメラマンでもあるということでしょうか?
・・・なるほど。
でしょ?
こんなに政治と切り離して(ブッシュ大統領が登場しないのは、アフガン紛争ものにあの人が出てくると炎上するからですかね?)、非哀感なく、純粋に「戦闘もの」として観られる戦争映画は最近では少ないんじゃないでしょうか。ひさびさに、戦争映画でスカッとする感覚を味わえましたね。
まあ、そういう映画ですから、批評家に高く評価されるはずがありません。
ただ、こういう映画だということを最初に知っておけば、モヤモヤせずに楽しめる作品。
アニキ的ポジションが似合いすぎる隊長役のクリス・ヘムズワースはじめ、キャスティングもいい感じです。
ざっくり背景
ざっくりですが、一応史実も押さえておこうと思います。
9.11直後の2001年10月からタリバン掃討のために軍事行動を開始したアメリカ(アフガニスタン紛争)が、最初に制圧を目指したのが、北部の交通の要衝地であるマザーリシャリーフ。
地元の反タリバン勢力・北部同盟を支援するという形で派遣されたグリーンベレーたちは、マザーリシャリーフへの唯一の道である山岳部の隘路を通るため、騎馬での前進を敢行することになります。
ところで、北部同盟とは?
当時のアフガニスタンはタリバン政権でしたが、タリバン政権を認めた国家はサウジアラビアはじめごく少数で、大多数の国は北部同盟を正規の政権と見做していたようです。
アメリカが北部同盟と組んだのは、正規政権である彼らがタリバンに奪取された政権を回復するための支援という大義名分があったんですね。
ただし多民族国家のアフガニスタンのこと、北部同盟にも派閥が。アメリカは複数の派閥を支援していたようですが、映画によるとこれがちょっとしたトラブルを引き起こします。
今作で主人公たちが行動を共にするアブドゥル=ラシード・ドスタム将軍はウズベク人で、現在アフガニスタンの第一副大統領。
5万人対12人?
すべてが予行演習なしのぶっつけ本番、馬を使うことも現地で決まったこと!
馬に乗ったことすらなかった兵士もいたのに、こんな難易度の高いミッションをさらりとこなしていくグリーンベレーってどんだけ?!なんですが、実際凄い訓練を積んだ超精鋭部隊なんでしょうね。アメリカって凄いです。
ただ、どんなに彼らの能力が突出していても、「敵勢5万人に対し、たった12人で戦いに挑んだ米軍騎馬隊」という公式サイトのキャッチには、さすがに「アメコミヒーローじゃあるまいし」と苦笑した人も多いでしょう。
どのくらい話が大盛りになってるかは分かりませんが、ただ、実際はこのくらいの多勢に無勢でも戦いは可能だったんです。
というのは、アメリカは空を制圧していたからで・・・アフガン紛争で、民間人を巻き込んだということでさんざん問題になったピンポイント爆撃というやつ。
何も12人だけで戦ったわけではなく、空爆という強い味方がついていたわけです。
もっとも、本作の中のドスタム将軍のセリフにもありますが、空を征しても最終的には戦いは地上で決まるのであって、ラクな戦いじゃありません。
そこが映画の見どころでもあります。
あ、ちなみに12人というのは、爆撃機だけじゃなく、行動を共にしている北部同盟の兵士もカウントに入れていません。
この辺は「盛ってる」と言えるかな(笑)
異文化コミュニケーションは時代を超える笑いのネタ
個人的に一番面白かったのが、ドスタム将軍。現在アフガニスタンの要人ですが、かなりクセのある人物に描かれています。
ドスタム将軍が米軍に情報を共有させないせいで危険に晒され、危機一髪の目に遭ったネルソン(クリス・ヘムズワース)が、将軍に抗議すると、
「死を恐れるな。敵は死を恐れていない。」
と全く話をすり替えた答えが!!
シリアスなシーンなんだけど、ついつい笑ってしまいました。
他にも将軍絡みでは唖然とするような出来事が盛りだくさん。ドスタム将軍ネタ、意外にこの映画の隠れた見どころかもしれません。
敵のタリバンだけでなく、味方もどこまでも異文化な人々。彼らとのコミュニケーション・交渉も、グリーンベレーの仕事なんだから、大変です。
見ている分にはかなりニヤニヤできますけどね。
男の絆!
武器マニアの方にはその方面の見どころもある映画だと思いますが、私は武器のことは分からないのでまるっと割愛させていただきます。
地上部隊がタリバンの拠点に近付く→爆撃目標地点を特定(映画では数字3つ4つで位置を特定できてるんですが、多分ほんとは違いますよね?)→爆撃機飛来、爆音と共に敵陣が吹っ飛ぶ
というのが基本ですが、白兵戦にもつれこむことも。
戦闘シーンは、グリーンベレー強すぎ!とは言え、かなり臨場感があります。
戦場を逃げ惑う馬の姿が鮮烈。
個人的には、戦闘の後絆を深めた兵士たちの信頼関係・友情が、このテの映画の一番の醍醐味だと思っています。
ネルソン大尉(クリス・ヘムズワース)とスペンサー准尉(マイケル・シャノン)はもともと親友の仲ですが、お互い認め合ってるのがいい。
サム・ディラー(マイケル・ペーニャ)とネルソンとの会話も、一緒に生死の境をくぐり抜けた2人を見た後だからこそ、ぐっと来ます。
日常の中で見たら、絶対寒くなるセリフなんですけどね。
『戦争のはらわた』で、主人公のシュタイナー(ジェームズ・コバーン)が、野戦病院で看護師といい仲になったにもかかわらず、戦場に向かうジープが来るとさっさと飛び乗って行ってしまうシーンがとても印象に残ったんですけど、今回の主人公ネルソンも、すでに昇進していて危険な現場に出る必要もないのに、敢えてアフガン行きを志願。
留守中の浮気が心配では?と私のほうが心配になってしまう美人の妻(クリス・ヘムズワースとはリアルでも夫婦だそうで)も、まだ幼い子供もいるのに・・・
男の中にはどこかに戦争に惹かれる気持ちがインプットされているんでしょうか?
こればっかりは女の私にはわかりませんが、戦争映画の男の絆というエッセンスは理屈抜きで大好物です。