BBCドラマ「ホロウ・クラウン/嘆きの王冠」その1:リチャード二世 | シネマの万華鏡

シネマの万華鏡

映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

 

「2016年キネ旬ベスト10で「君の名は。」が圏外に!」ということで世の映画ファンが騒然としてる中で、完璧わが道記事(笑)

アメリカ在住のブロ友さんにアイダホのお話を伺ったことで、「シェイクスピア作品やりたい!」と去年から思ってたことを思い出したので、今日はシェイクスピア原作ドラマで。

「アイダホ」と芋ならぬシェイクスピアとの関係については、本文を読んでくださいませ(笑)

 

◆シェイクスピアは腐女子向き?◆

 

シェイクスピアの戯曲を下敷きにイギリスのBBCが製作したテレビドラマ。

なんと007シリーズ「スカイフォール」・「スペクター」の監督サム・メンデスが製作総指揮者なんですね。

日本でも過去に衛星劇場で放送されたほか、HULUで視聴可能。

また、1/8から衛星劇場でアンコール上映が始まっています。

 

シーズン2までが放送されている中で、シーズン1は、「ヘンリアド」と呼ばれるシェイクスピアの史劇第2四部作(※1)をベースにした11話完結ドラマ。

 

リチャード2世:ベン・ウィショー

ヘンリー4世:ジェレミー・アイアンズ

ハル王子(のちのヘンリー5世):トム・ヒドルトン

 

という(シーズン2ではベネディクト・カンバーバッチも登場!)、超豪華にしてそこはかとなく腐心をくすぐってくれるキャスティングは、さすがは007にベン・ウィショーをキャスティングしたサム・メンデス!

期待にたがわず、リチャード2世はしっかりバイセクシャル(というよりも限りなくホモセクシャルですね)として描かれています

(これはシェイクスピアの原作でそういうニュアンスになってるからのようなんですが、史実は・・・どうなんでしょう?)

 

シェイクスピアは、ヘンリー5世(ハル王子)についてもフォルスタッフ(架空の人物で王子の従者)との間に友情以上のものをたっぷり想像させています(「ヘンリー4世」)し、シェークスピア的英国史観ではヘンリー5世もバイセクシャルなんでしょう。

ちなみにゲイ映画として人気を博した「マイ・プライベート・アイダホ」 (ガス・ヴァン・サント監督)は、一部戯曲「ヘンリー4世」を下敷きにしているんですよね。

はい、ここで「アイダホ」とシェイクスピアがめでたくリンクてへぺろうさぎ

ちなみに「マイ・プライベート・アイダホ」では、スコットことキアヌ・リーヴスがハル王子のポジションです。

まあ、あの映画の下敷きになっているくらいですから、ハル王子とフォルスタッフはガチと見て間違いないでしょうカナヘイきらきら多分だけどねっ

 

意外にシェークスピアってお耽美がお好き・・・学問の世界では、シェイクスピア作品の登場人物のセクシャリティーだけでなくシェイクスピア本人のセクシャリティー論争まであるようですが、果たして答えは出るんでしょうか?

 

◆リチャード2世って?◆

 

内容も濃く、長いドラマなので、まずはシーズン1第3話までのリチャード2世編から、主人公となる王が変わるごとに回を分けて記事にしていきたいと思います。

 

イギリス人にとっては、このテのドラマはきっと、司馬遼太郎や吉川英治の戦国三傑ものに慣れ親しんだ日本人がNHK大河を観るようなものなんじゃないでしょうか。

史実かどうかはともかく、シェイクスピア史観のリチャード2世~ヘンリー5世ならよ~く知ってるし、次どうなるかも全部分かってて作品のアレンジの違いを楽しむ、みたいな。

ただ、特別英国通でもない日本人が観るとしても、ごくベーシックな歴史を押さえておけば十分理解できるのがシェイクスピアの優しいところです。

 

リチャード2世(1367-1400)は、14世紀、イギリスがフランスと戦った百年戦争の時代の人。

幼くして王位につき、叔父たちに助けられて政務をこなしてきただけに、自ら親政を行い、お気に入りの家臣を重用するようになると、叔父たちを中心に不満が爆発。

結果、従弟のヘンリー・ボリングブルック(のちのヘンリー4世)の反乱により退位させられ、囚われの身のまま33歳で死去しています。

悪評ばかりが伝えられているようですが、政権交代期の王だけに、どこまでが事実だったのかは鵜呑みにはできないかもしれません。

歴史を作るのは勝者で、敗者はとかく悪者にされがちですから・・・徳川幕府最後の将軍・徳川慶喜が公爵・貴族院議員として天寿を全うしたのは、世界でも例外的な出来事でしょうしね。

 

まあそんなわけで、リチャード2世という人は、悲劇的な最期を遂げたにもかかわらずどっぷり悲劇扱いもしてもらえない・・・というビミョーな位置づけの人のようです。

 

◆実力派ベン・ウィショーの演技が炸裂◆

 

(いつも思うんですが、写真より動いている時のほうが100倍素敵・・・掛け値なしで)

 

ベン・ウィショーはもともとシェイクスピアの舞台で頭角を現した人だけあって、このリチャード2世役も彼以外には考えられないほどのハマリ役!

原作に忠実な、古風で戯曲的言い回しのセリフを、完全に彼の言葉として蘇らせているあたり・・・やっぱり本来舞台の人なんだなと感じますね。

王座を失う危機の中で王の威厳を保とうとしつつも、恐怖や不安・絶望といった感情を抑えきれないリチャードの心の振幅が、生々しく、人間臭さを剥き出しにして心に響いてきます。

 

上に書いた通りリチャード2世はすんなりと共感はしにくい人物なんですが、ベンの圧倒的な演技で、彼の弱さ・狡猾さも含めて人間臭さそのものが愛おしくてたまらない。

1~3話は、まさにベン・ウィショーの独壇場です。

 

◆リチャード2世をゲイ・アイコンである聖セバスチャンに!!◆

ところで、このドラマでは、リチャード2世がホモセクシャルであるということはかなり重要な要素に位置づけられています。

というのは、彼が悪王だったとされる根拠の一つに、王の寵臣たちの増長という問題があったわけですが、本作では王と彼の寵臣の間には同性愛関係があったとしているからです

(多分原作にもそういうニュアンスがあるのだと思いますが、私が持っている白水社版の訳本には、彼らは「王に不倫をすすめた」だけで、「王と不倫関係にあった」とは書かれていません。)

 

 

 

そんな中で、このドラマのお耽美への本気を感じるのは、ゲイ・アイコンとされる聖セバスチャンをモチーフに取り込んでいること。

これは、原作にはなく、BBCドラマ版独自の脚色です。

や~いつもながらBBC、やってくれますよね。

 

(グイド・レーニ作聖セバスチャン。)

 

序盤でリチャード2世が画家に聖セバスチャンの絵を描かせているシーンが。

絵のモデルに歩み寄って、ねっとりした手つきで触れるリチャード2世・・・ここでもうリチャードはホモセクシャルだと暗に仄めかしたようなものです。

それだけでも十分にインパクトがあったんですが、これは実は伏線に過ぎず、クライマックスではなんとリチャード自身を聖セバスチャンにしてしまうという・・・つまりベン・ウィショーが上のような姿になるわけです、はいつながるピスケ

非常に凄惨な場面でありながら、それを超えるエロスの横溢が・・・何故ここでエロス?という気もしますが、もしかするとリチャードと彼の殺害者との間には愛憎関係があったとこのドラマでは解釈しているのかもしれません。

嗚呼、まさにエロスとタナトス!

 

◆草木までもが勝者へと靡く◆

(リチャード2世の取り巻きの一人だった従弟オーマール(トム・ヒューズ)は、王失脚の後・・・)

 

リチャード編3話の見どころは、ワタシ的にはなんといっても上に書いた聖セバスチャンモチーフなんですが、ストーリー的にはやはり政権交代期の残酷なまでの人心の移ろいでしょうか。(や、どう見てもこちらがメインですよねw)

 

迷うことなく忠誠よりも保身を選び、リチャードを見限って新王ヘンリーに靡く大多数の人々。

頑なに忠誠を守ろうとする者は失脚し、迷いが残る者は新王への忠誠を試され、自らの心の醜さを鼻先に突き付けられる。

誰もが良心を試される中で、リチャードの無邪気な取り巻きだった従弟のオーマール(トム・ヒューズ)にも試練が訪れます。

はたしてお坊ちゃま育ちの彼が選んだ生き残る道とは―――

 

この辺りの人間模様の描写は、(原作とは少し違う点もありますが)第一級の人間観察者であるシェイクスピアの本領が発揮されるところ。

人生の無常を淡々と描写していく冷徹さ、人間の本質を抉り出すような鋭利なセリフ・・・シェイクスピアの描き出す人間ドラマの時代を超えた普遍性にひれ伏す思いです。

 

ベン・ウィショー版リチャード2世との別れは名残り惜しいかぎりですが、続きも不定期に記事にしていきます。

本命はハル王子とフォルスタッフなので・・・「マイ・プライベート・アイダホ」もこの機会に観直したい!

 

 

※1 「リチャード2世」「ヘンリー4世第1部」「ヘンリー4世第2部」「ヘンリー5世」

 

(画像はIMDbに掲載されているものです。)