腐女子の映画豆知識12 ゲイ・アイコンとしての聖セバスチャン | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

◆ゲイ・アイコンとしての聖セバスチャン◆


前回記事にした香港映画「ユートピア」 では、ゲイを名乗る教授ミンが聖セバスチャンに扮するプチSMプレイ・シーンが。

本作では三島由紀夫の小説がストーリー展開上重要な要素になっているし、聖セバスチャンにまつわるいくつかの作品を残している三島由紀夫へのオマージュでもあるのでしょうか。

ただ、それ以前に、そもそも聖セバスチャンは早くからゲイ・アイコンとして認知されている人なんだそうで。


ということで、聖セバスチャンについて軽く調べてみようとググってみたところ、ネット上に素敵な記事をたくさん発見!

私の受け売りの説明よりも百倍面白いので、こちら↓にご紹介しておきます。


三島由紀夫文学館「聖セバスチャンとは何者か」

CREAweb「腐女子のためのBL西洋美術史入門 愛しの聖セバスチャンー苦悶する肉体と無垢な魂-」

日本美学研究所『聖セバスチャンの殉教図』 崇高性の背理による自己侵犯


軽くまとめておくと――

聖セバスチャンは3世紀に殉教し、列聖されたキリスト教の聖人。

当初は中年の姿で表現されていたものの、その後中世頃から何故か半裸の美青年として描かれるようになり、やがてゲイ・アイコンとして人気を博するようになった・・・ということのようですね。

上の参考サイトの中にも何度も出てきますが、三島由紀夫の「仮面の告白」に登場するグイド・レーニ作聖セバスチャンがこちら。




「仮面の告白」では、父親の書庫にある画集の中に「(自分を)待ちかまえていたとしか思えない」この絵を発見した主人公の透は、聖セバスチャンの姿に欲情をおぼえ、初めてのマスターベーションを経験します。


三島由紀夫はこの絵を「他の聖者たちに見るような布教の辛苦や老朽のあとはなくて、ただ青春・ただ光・ただ美・ただ逸楽があるだけ」と表現していますが、まさにその通り。

宗教画というよりは、どっぷり耽美な、彼の美を愛でるために描かれた作品にしか見えません。

これで感化目的の絵画と言われても・・・な、何故腰を覆った布の位置がこんな下である必要が?

しかも緊縛と矢疵ですよ・・・日本人の感覚ではこれは責め絵だなと直感的に思ったんですが、やはりありましたね、聖セバスチャン責め絵。


殉教者のためのディヴェルティメント (Pan‐Exotica)/河出書房新社

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ほかにもありそうですが、ご参考までに一例のみ。

責め絵的聖セバスチャン、こちらの山本タカト氏の画集に収録されているようです。

十字架形に切りぬかれた厚紙の間から覗いている表紙絵がそれ。
上のレーニの絵のような法悦の表情ではなく、苦悶の表情で描かれています。

こうなってみると、聖セバスチャンがゲイ・アイコンとして人気を博するようになった理由が、より直截的で分かりやすいですよね。


宗教画の題材を責め絵に・・・こういう応用はキリスト教圏じゃない日本だからこそできるんでしょうけれど、こうしてみると日本には昔から性をオープンに描く文化があるし、それは現代にも受け継がれていると言えるのかもしれません。


◆男性と死と美◆


上にご紹介した日本美学研究所の関連記事「『性と死の二元的身体論』 エロスとタナトスのジェンダー 」では、「男はなぜ、壮烈な死によってだけ美と関わるのであろうか」という、これまた三島由紀夫の呈した疑問についての考察も。

これもとても面白い記事ですのでぜひ。


ただ、この記事の中に「男の裸は笑いを誘発する」と書かれているんですが、最近は必ずしもそうとも言えない気がします。

毎年年末になると話題に上る世界各国の消防士カレンダーなどの例を見ても、今や男の裸が人気商品化してしまう時代ですからねぇ。

勿論このテのカレンダーには笑いの要素は一切なく、ワクテカてっかりの肉体美のみ。(←こんな表現をしたくなること自体笑いの要素があるということ?)


OFFICIAL Calendar 2016年 ニューヨーク市 消防士 カレンダー NYC N.../Battman Studios

¥価格不明

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ベガスへ行けば超イケメンを揃えた男性ストリップ・ショーも。(”Chippenndale”でググってみてください。)

残念ながら私は未体験ですけども、観客は結構な割合で女性みたいですよ。


そもそも男のハダカは壮烈な死の影を纏って初めて美しく見える・・・という発想自体、男性ならではのものなのでは?という気もしますが、どうなんでしょう。

裸体に関する話題だけに、ここで言う「美」とは限りなくエロスの対象としての美しさと捉えていいと思うんですが、男性の性欲に支配欲が深く関連していることを前提にすれば、死に直面することによって、男=征服者から死という圧倒的な征服者に支配される側への転換が図られることで、男にとって美しい男の肉体が完成する、というのはとても理に適っているような気がするんですが・・・


でも、女にとって男の裸って、どんな状況であれ(禁忌ではあっても)美しいものなんでしょうか?

少なくとも私自身は、

ディナージャケット姿の男性>>>(越えられない壁)>>>全裸の男性

ですが。

(あ・・・でも「ディナー・ジャケットが最高に似合うダニエル・クレイグの全裸(見たことないけど)以外」としておくかどうかは正直悩みどころではありますね・・・(´-ω-`)うーむ