シネマの万華鏡

ちょっぴり腐女子な映画評。
「ほどよいお下品」「ほどよい悪ノリ」を探し求めて
彷徨っております。
基本的にネタバレしていますのでご注意ください。
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◆古い映画だからってスルーするのは勿体ない!◆

 

1938年公開。ヒッチコックのイギリス時代の作品です。(ヒッチコックは’40年代からアメリカに拠点を移します。)

 

ヨーロッパ大陸にある山がちな国・バンドリカ(架空の国)で友人と独身最後の旅行を楽しんだアイリス(マーガレット・ロックウッド)は、一足先にロンドンに戻る列車で、同じホテルに泊まっていたフロイと名乗るイギリス人の老婦人(メイ・ウイッティ)と乗り合わせます。

ところが、次の駅に着く前に忽然と姿を消すフロイ。

驚いたアイリスは、やはり同じホテルに宿泊していた民族音楽研究家のギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)と共に老婦人探しを始めますが、フロイを見たはずの乗客たちは何故かこぞって「そんな女性は初めからいなかった」と証言。

一旦は、アイリスの記憶が混乱しているだけでは?という結論に落ち着きそうになります。(彼女は列車に乗る直前に落下物で頭を打っていました。)

しかし、やはり記憶違いではないと確信したアイリスとギルバートは、老婦人の失踪になんらかの政治的事件の匂いを嗅ぎ取り―――

 

ネット上にもヒッチコック映画ベストランキングを発表しているサイト・ブログがいくつもありますが、古い映画ながらこの作品が上位にランクインしたものも少なくないですね。

この映画の製作当時ヒッチコックは39歳。年齢的に脂がのっている時期の作品でもあります。

しかし、高く評価する人が多い一方で、「モノクロだし、古すぎて知っている俳優女優が一人もいないし」と敬遠する人も多そう。 

何を隠そう私もつい数日前までは後者でしたからねとびだすピスケ1

ところが実際観てみると、これまで観たヒッチコック映画の中でも1・2を争う面白さとワクワク感! 

正直なところ、自分が生まれるはるか昔に作られた映画がこれほど面白いとは・・・もう、「面白い!」と感じている自分の感覚自体がフレッシュな驚きでした。

映画は時代とともに進化している反面、時代を経ても鮮度を失わない映画もあるということを最近思い知りつつあったんですが、もうこの映画で確信に変わった気がします。

モノクロ映画の名品、観なきゃいけません。

 

◆当時の緊迫した国際情勢を映し込んだ国際列車◆

 

この映画が作られた1938年という年は、ヨーロッパ情勢が第二次世界大戦に向かって緊迫していく時期。翌'39年の秋には、イギリスはドイツに宣戦布告しています。

そんな時代背景の中での、陰謀渦巻く国際列車の車中という舞台、そこに乗り合わせた、それぞれに思惑ありげな多国籍の乗客たち・・・もうこの設定、ワクワクしないわけがありません

 

作中にイギリスと対立関係にある「バンドリカ」という架空の国が登場しますが、この国、(地理的な特徴はスイス風ですが)そこはかとなくドイツを想像させます。(実際、1979年のアンソニー・ペイジ監督によるリメイク版では「バンドリカ」という架空の国ではなくドイツになっています。)

バンドリカ側の人間として登場するのが「イタリア人魔術師」・「プラハの医師」(プラハは1938年当時ドイツ占領下)のような、当時のドイツ側の陣営の国の人間だというのも、偶然ではないでしょう。

邦題は「バルカン超特急」ですが、原題は”The Lady Vanishes"で「バルカン」とは無関係、ストーリーのニュアンスと邦題はズレている気がします。

 

当時のイギリス人にとっては、この列車の車中の人間関係や、戦争を彷彿とさせるバンドリカ軍による列車の攻撃には、現実の緊迫した国際情勢にそのまま重なり合うような生々しさがあったんじゃないでしょうか。

今観ても、その後まもなくヨーロッパが大戦に巻き込まれていく歴史的事実と相俟って、戦争への予感が映画の中に色濃く漂っているのを感じます。

 

ただ、そんな不穏な時代背景を投影しつつも、ユーモアの効かせ方はむしろ戦後のヒッチコック作品以上!

コミカルなシーンから緊迫感たっぷりの戦闘シーンまで、緩急のバランスはまさに絶妙。

サスペンスの核心である謎自体は、サスペンス映画が氾濫する今の時代の人間ならすぐに見破れるようなあっさりしたものではありますが、トリックの解明だけが命の作品と違って、答えは分かっていても何度でも観られる面白さ、簡単には語り尽くせないほど見どころが詰まっています

 

◆人は何故嘘をつくのか◆

 

ところで、この列車には外国人だけでなくアイリスたちと同じイギリス人旅行客も何組か乗り込んでいるんですが、イギリス人は味方してくれるのかというとそうじゃないんですね。

彼らもまたことごとく、「老婦人は最初からいなかった」と主張し、アイリスたち2人を孤立させます。

彼らは何故、バンドリカ側の人間と同じ嘘をつくんでしょうか?

ナショナリズムによる対立の気配がたちこめている列車の中で、イギリス人がイギリス人に味方しないという不思議な状況、そしてそこにちょっとした人間心理が絡んでいるという眼から鱗の「発見」が用意されているところがまた、この作品の抜群に面白いところなんですよねえ。

 

あらゆるサスペンス映画は、事件の謎を追う過程で犯罪者や被害者の心理を解き明かしていくもの。心理分析の鋭さはサスペンス作品の面白さを決める重要な要素と言っても過言ではない気がします。

そこにはいつも人間心理にまつわる「発見」があり、使い古されたネタも見せ方次第で「発見」に生まれ変わります。

 

この映画の「嘘をつく人々の心理」も、実は決して目新しいものではないんです。

ただ、見せ方が最高に面白い!

アイリスはたしかに老婦人と一緒にいたにもかかわらず、誰もが「老婦人を見ていない」と口を揃える状況は、まるで「人間が消えるマジック・ショー」のよう。

キツネにつままれたようなその状況の中で、マジックの種明かしを見せられるように嘘をつく人の心理が明らかになる・・・この流れが新鮮で、まさに「眼から鱗」の感覚をもらえます。

80年も昔に作られたのに「新しい」と感じさせるこの作品、タダモノじゃないですよね。

 

◆作品の中に用意された作品のダイジェスト・シーン◆

この作品で私が一番好きなのは、老婦人を探して荷物車両に潜り込んだアイリスとギルバートが、そこでイタリア人魔術師のマジック・ショーの道具を見つけるシーンです。

人の姿を消すマジックに使うボックスで消えてみたり、衣裳箱で見つけたハンチング帽とパイプで探偵に扮して遊ぶアイリスとギルバートの姿を映し出すこのシーン、まさに「人が消えるボックス」=国際列車の中で、アイリスとギルバートが探偵さながらに事件を解決に導くという、この作品のエッセンスを一目で表現してみせた絵そのもの

 

マジックの道具や箱から飛び出す動物たちにワクワクさせられ、さらにこのシーンが作品の内容を一目で見せたダイジェスト・シーンになっていることに気づいて大喜び!

こういう遊び心、余裕たっぷりの構成がたまりません。

極上の娯楽映画とはこういう作品のことだ、とドヤドヤしながら熱く語りたくなってしまいます。

 

この作品以降に作られた膨大な数のサスペンス映画の中に、はたしてこれより完成度の高い作品がどれだけあるのか疑問に思ってしまうほど、完璧な職人技を感じさせるマスターピース。

例によってヒッチコック本人もカメオ出演していて、ヒッチコックを探すお楽しみも漏れなく付いています。

 

(主演女優のマーガレット・ロックウッド。当時から女優選びにはこだわりが感じられますね)

 

 

(画像はIMDbに掲載されているものです。)

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