シネマの万華鏡

ちょっぴり腐女子な映画評。
「ほどよいお下品」「ほどよい悪ノリ」を探し求めて
彷徨っております。
基本的にネタバレしていますのでご注意ください。


テーマ:

 

松本俊夫監督追悼特集、イメージフォーラムで開催中

今年亡くなった映画監督・松本俊夫の追悼企画『追悼・松本俊夫 ロゴスとカオスのはざまで/映像の発見ー松本俊夫の時代』がイメージフォーラムで開催されているのは知っていたけれど、時間が合わず、購入したDVDで観てしまいました。

監督のインタビュー付き。

 

 

1969年の作品。

ゲイボーイたちの仕事場であり遊び場でもある新宿~青山を舞台に、ゲイバー「ジュネ」で働く主人公エディ(ピーター)と「ジュネ」のママ・うさぎ(小笠原修)が繰り広げる「ジュネ」のオーナー権田(土屋嘉男)をめぐる男100%の三角関係、自分と息子エディを捨てて去った夫を怨み、エディがゲイであることを忌み嫌う母親(東恵美子)との確執、友人ゲバラ(内山豊三郎)たちと過ごす退廃的な日々などが描かれていきます。

 

主軸になるエディの物語の合い間に、インタビュー映像や、主人公の脳裏に閃く過去のフラッシュバック映像、あるいは世相を象徴するイメージなどの断片映像を散りばめた、独創的な作り。

ところどころにキャプションの形で挿入された、問いかけともつぶやきともつかない一文が、一見まとまりのない映像たちに「そう来るか」という角度から意味と関連を与えていくのがたまらなく面白い!

ドロドロの現世を描きながら、どこか哲学的な視点も感じます。とてもATGらしい作品。

 

ドキュメンタリーは古びない

 

この映画が作られた1969年は、アメリカのLGBT運動に火をつけたストーンウォールの反乱が起きた年。ゲイが自らのアイデンティティの肯定に目覚め始めた時代です。

世間のLGBTQに対する認識は当然のことながら全く追いついていなかった当時のこと、故松本監督は「彼らは一体何者か?」というゼロからの視点で作品作りに臨んだとか。監督が実際にゲイボーイたちにインタビューした映像も挿入されています。

質問は「男性と関係することにうしろめたさは感じないか?」「何故ゲイボーイ(であること)がすきなの?」などセクマイへの配慮抜き、今では批判が出そうなものも。

もっとも、ゲイボーイたちの今も昔もブレない答えが、焦点のズレを補正してくれています。

「好きになったら男も女も関係ないんじゃないですか」

「(ゲイボーイが好きなのは)生まれつきですねっ」

異性愛者の物差しではかった質問に対して、彼らが一瞬見せる怒りと矜恃の表情には、深く心に刺さるものが。

ひょっとしたらあの一見乱暴な質問、本音を引き出すための確信犯的なジャブなのかも?そんな気もしてきます。

 

 

「六本木に可愛い子がいるよ」

インタビューを挟み進行していくフィクション=エディの物語も、ベッドシーンから突如カメラが引いて撮影スタッフや機材が映し出されるなど、映画の世界とそれを紡ぎ出すメイキング映像が交錯します。

映画の中でも、現実でも、ピーターはゲイボーイ。「ゲイボーイを演じるゲイボーイ」を追うドキュメンタリーも、映画として同時進行しているわけです。

 

ピーターは当時16歳。エディ役のキャスティングに悩んでいた松本監督が、

「六本木に可愛い子がいるよ」

と水上勉に囁かれて会いに行ったのが出演のきっかけだったとか。この映画がピーターの映画デビュー作なんですね。

 

その場で起用を決めたというのも頷ける当時のピーターの魔性。

化粧をすればあでやかなゲイバーのママに、すっぴんになると、同一人物とは思えないような一重まぶたの華奢な少年に・・・変幻自在の性を持つピーターという存在の美しさ・危うさ自体が一番ミステリアスでドラマチック、眼を奪われます。

相手役として『七人の侍』でも知られる土屋嘉男が起用されたのは、ゲイボーイたちに人気があったからだそう。

 

時代の片隅に積み上げられていく若さと美貌の屍たち

 

本作のストーリーにはオイディプス王の物語を取り入れています。

ただ、父を殺し母を娶るという衝撃的なモチーフ(本作の場合は父と母が逆になっていますが)は、ゲイボーイの台頭に対する興味という「面」/「点」からスタートした物語に、流れと振幅を加えるのに役立ってはいるものの、主軸はあくまでも、高度成長期の中でのゲイボーイという存在と、彼らのアジールでもあり戦場でもあるゲイバーという世界の描写のほうにありそう。

水商売の世界では特に際立つ、若さと美貌のはかなさというテーマも、当時の若者の刹那主義的な生き方や反体制運動に若さのエネルギーをぶつけていく学生たちの姿をからめて、ビビッドに描き出されています。

 

エディの友人(で多分自称革命家の)ゲバラも、若さのエネルギーを持て余す1人。

友人たちを集めてはトリップして乱交パーティ、それも彼の「革命」のひとつの側面。

しかし、若さが彼に与える万能感はやがて去り、ゲバラも「出口」を探し始めます。

若さと美貌でうさぎから店のママの座を奪い取ったエディの絶頂期も束の間、NO.1の座も男の愛もエディに奪われたうさぎは、若く美しい花のまま死を選ぶ。

 

上にも書いたとおり、物語の合い間にインタビューなど現実に引き戻す映像が挿入されているために、エディたちの悲劇も少し距離を置いた位置から眺めるしつらえ。

物語の顛末そのものよりも、’60年代のめまぐるしく変わっていく日本と、その中で、社会の抑圧にあいながらも止むにやまれぬエネルギーを放出していくゲイボーイや学生運動家(エセも含めて)たちの姿を描いた「時代の一断面」のほうに惹きつけられます。

フィクションを交えてはいるけれど、やっぱりドキュメンタリー性が強い作品かなと。

単に記録的要素が強いというだけでなく、ドキュメンタリーからフィクションへ、フィクションからドキュメンタリーへの切り替えを繰り返しながらひとつの時代認識を紡ぎ上げていく松本監督独自の回路が構築されていて、その鮮やかな手法に何よりも魅せられます。

なんだかんだ言って最後は、松本監督の鋭いセンスにひれ伏さざるをえません。

AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。